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2章 ドノヴォン国立学院編

206 黒ヤギさんのお仕事

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 やがてすぐに女帝様も部屋を出て行った。ただ、それとはほぼ行き違いに、新たな客が俺たちの部屋にやってきた。俺のルームメイトのヤギだ。まあ、今は褐色イケメンの人間の姿に変身しているが。ヤギのまま王宮に入ると身バレの危険があるらしいからな。

「トモキ、一通りの事情はファニファから聞いている。ゆうべは、大変だったそうだな」

 ドノヴォン国立学院の制服を着た褐色イケメンは俺と目が合うやいなや、こう言った。

「まあな。正直、死ぬかと思ったぜ」

 ほんとマジで、俺史上最大のピンチだった件。ツァドとかもう何アレ。普通に泣いちゃったわよ。

「ようは、教え子であるお前の素行の悪さを、教師であるリュクサンドール先生が折檻しただけの話だろう」
「いや、明らかにそういうのじゃない何かだったんだが?」

 あいつただ、呪術使うの楽しんでただけだし。どう考えても教育的指導とかじゃなかったし。

「つか、あいつに勝ったからって無罪放免ってのもどういう理屈だよ。この国の政治って、こんなにテキトーでいいのかよ?」
「適当というより、温情だろうな。ファニファとしては、いくらお前が勇者アルドレイの生まれ変わりだからといって、犯してしまった大罪を無条件に許すわけにはいかないので、こういう形になったのだろう」

 と、レオが言うと、そばで俺たちの話を聞いていたユリィが「えっ」と、驚きの声を上げた。ああ、そうか、ユリィは、レオが俺の正体知ってることは知らんかったか。めんどくせえな。そのへんの事情をごにょごにょと耳打ちした。

 にしても、レオの今の発言は引っかかるな?

「お前、その言い方だと、女帝様は俺のことを助ける気マンマンだったみたいじゃねえか」
「当然だろう。前にも話したが、ファニファは世界を二度にわたり救った勇者アルドレイに深く感謝しているのだ。それを、いくらハリセン仮面だったからといって、殺すはずがない」
「いや、実際殺されそうになったんですけど!」
「何を言う。お前は勇者アルドレイだ。誰よりも強い。たとえ相手が誰であろうと殺されるはずはない。俺もファニファも、そういう気持ちでいたぞ」
「う、嘘だ!」
「嘘ではない。現にこうして、お前は先生に勝って自由の身となっているではないか」
「そ……それはそのう……」

 そう言われても全然納得できないんだが?

「い、いやでも? お前確か、俺によこした手紙には、俺が死刑になって生まれ変わった後にまた巡り合いたいって書いてたじゃねえか! つまりお前は、俺が処刑される未来しか信じてなかったじゃねえか!」
「ああいう手紙には、警察の検閲が入るのでな。真実をそのまま書くわけにはいかなかったのだ」
「いや、だったら、生まれ変わった後にまた巡り合おうみたいな、その部分は手紙に書く必要ないですよね?」
「まあ、万が一お前が本当に処刑されたときのことも考えてだな」
「いや、そこは考えるなよ! お前、俺の勝利を信じてるんじゃなかったのかよ!」

 くうう……さっきからこの褐色イケメンめえ。俺のツッコミをのらりくらりとかわしやがって。

「……ああ、そういえば。手紙といえば」

 と、そこでレオは思い出したように、制服のポケットから何か出し、ユリィに差し出した。見るとそれは手紙のようだが……?

「これは実は、トモキから自首する寸前にユリィ宛てに預かっていたものなのだが、渡しそびれていたのだ。あの日、俺が学院に登校したときには、すでに教室にユリィの姿がなくてな」

 って、この説明ってもしや、あれか? そう、自首する前の晩に俺が五時間かけて書いたユリィへの手紙! あれ、まだユリィに届いてなかったんかーい!

「……わざわざ、ありがとうございます」

 ユリィは素直にその手紙を受け取った、が――俺はすかさずそれをユリィから奪い取った。こんな手紙、いまさらこいつ読まれても困る。なんかめっちゃ恥ずかしいこと書いたような気がするし!

「トモキ様、それはわたし宛てのはずでは?」
「いいんだよ! お前はもう、こんなの読まなくても!」

 ぐしゃぐしゃと手の中でその手紙を丸め、レオに差し出した。「というわけで、お前食って処分しておいてくれ」と言って。

「え? 食べるって、紙ですよ、これ?」

 ユリィは不思議そうに首をかしげた。

「それが食えるんだなー。レオ、ユリィにお前の本当の姿を見せてやれよ」
「ああ」

 と、直後、ユリィの目の前で褐色イケメンは黒ヤギに姿を変えた。バリバリと着ている制服を破り捨てながら。(まあ、これはすぐ修復されるんだがな)

「た、大変です! レオローンさんが、黒いヤギに変わってしまいました!」

 ユリィはたちまち目を白黒させた。まあ、当然の反応か。俺はさっきみたいに耳打ちして、詳しく事情を説明した。ごにょごにょ。

「そうだったんですか。レオローンさんは、カプリクルス族なんですね……」

 ユリィはものわかりがよかった。すぐに納得したようだった。なお、俺が説明している間に、レオは俺の手紙をもしゃもしゃ食べて処分していた。さすが黒ヤギさん、この手の仕事は早い。
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