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2章 ドノヴォン国立学院編
185 色違いの魅力
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く……落ち着け俺! やつは確かに速いが、たぶん俺のほうがまだ速い。あの北の平原での現場検証を思い出せ! 俺はあんなにも速く走り、風どころか光になりかけてたじゃないか……。
というか、やつは今のところ、ただちょっとばかり速く動けて、ちょっとばかり威力の高い自爆ができるだけのやつだ。それなんてマルマイン? あ、なんかザコキャラ感ハンパなくなってきた。よかったあ。俺、やっぱ苦戦なんかしてなかった! 相手はマルマインだしね。
と、そこで、
『うぷぷー、トモキ君、サンディー先生に勝てそうもないから、すごい焦ってる。ばっかみたいー』
女帝様が勲章越しに煽ってきた。クソが!
『トモキ君って最強の勇者でしょ? なんで先生倒せないの? ねえ? 楽勝じゃなかったの?』
「うっせーな! だから今、倒し方考えてるところだろうがよ!」
『ほんとー? 相性最悪の相手だけど倒せるの?』
「相性?」
『そう。トモキ君は最強の勇者には違いないけど、なんでもできる神様じゃないし、自分の攻撃が全然効かないような敵だっているもんね。もちろん、昔はみんなでパーティー組んで戦ってたから、それでよかったんだろうけど、今は一人だもん。自分の攻撃が効かない敵だと、もう完全に終わり。勝ち目なーし!』
「言われてみれば……」
確かに、昔はそうだったな。俺の物理攻撃が効かないような、例えば不定形や実体のないモンスターなんかには、ティリセの攻撃魔法やエリーの付与魔術で対応してた。勇者ソロプレイだと、たぶんそういうモンスター相手には詰んでた、みたいな。
つまり、俺の「最強」ってのは、そういうパーティープレイにおいて役割分担があってこその最強だったってことか。一人でなんでもできるタイプの強さじゃない……く! 今頃、こんな事実に気づかされるとは!
「ハッ! なにがタイプの相性だ! んなもん気合と根性でなんとかならあっ!」
そうだ、ピカチュウだってアニメの世界じゃイワーク倒せちゃうのだ! え、電気玉アイアンテール? 違うって、そこはスプリンクラーだってばよ。
「陛下とのお話は終わったようですね。では、また行きますよ、トモキ君!」
と、リュクサンドールが再び犬軍団を俺にけしかけてきた。
「また同じ攻撃かよ! 芸がねえんだよ!」
と、俺は叫びながら犬を斬り捨てていったが、内心はそんなわけないだろうという考えしかなかった。そう、今の時点でこいつが俺に使った呪術はまだ二つしかない。この呪術オタがそれで終わるはずがないのだ。もっと他にも使える呪術を隠し持っているはず。
と、そのとき、犬軍団の群れの中から、見慣れない小さな生き物が現れた!
「くぅ~ん……」
と、うるんだ瞳で俺をじっと見つめてくるそれはまさに……白いチワワだった。
「おお……」
なんてかわいいんだろう! 地獄に仏、掃き溜めに鶴とはまさにこのことだ。早くアイ〇ルしなきゃ!
「おお、その個体は!」
と、リュクサンドールも突如現れた、愛くるしい白いチワワに驚いたようだった。
「それはまさに、 256体のうち1体の割合で現れるという、冥府の番犬のレア個体!」
「レア個体って」
そんなシステムあんのかよ!
「素晴らしいですね、トモキ君! そんなレア個体に巡り合うとは!」
「そうか? えへへ……」
白くてもふもふで、めっちゃかわいいもんな。うっふっふ。
俺はさっそく手を伸ばし、その白いチワワちゃんの頭をなでようとした。
しかしその瞬間――チワワちゃん、俺の手に思いっきり噛みつきやがった! ものすごく狂暴な面構えになって!
「ぎゃあっ!」
痛い痛い痛い痛い痛い! なぜこんな仕打ちを!
「あ、トモキ君、言い忘れてましたけど、冥府の番犬のレア個体は、通常個体と同じ攻撃力と狂暴性を持っています」
「それを早く言え!」
すぐさま、俺の手に噛みつきやがったクソ犬を蹴り飛ばし、斬り捨てた。あーもう、マジで騙されたわ。何がアイ〇ルだよ、ばかばかしい!
「見た目が違うだけで何がレアだよ、アホかよ!」
「いえ、実はここだけの話、レア個体にはさらに体の色が違うものもあるそうなんです」
「え、さらに色違いバージョンあるの」
何その、ときめく仕様。
「ええ、それはさらにレア個体のなかの256体のうち1体の割合で現れるそうで、僕もいまだにこの目で確かめたことはないんです」
「激レアじゃねえか!」
それ持ってたら学校の友達にすごく自慢できそう!
「どんな感じなのそれ? やっぱ召喚するとキラって星のエフェクト出て光るの?」
「はあ。何せ目撃証言自体がとぼしいものなので、文献によって、記述されている内容はまちまちなんです。僕もかつて、自力でそれを出そうとして、毎日毎日、冥府の番犬を召喚し続けていた時期があったんですけど、気が付けば周りに冥府の番犬があふれかえっていて、退屈を持て余した一部の個体が近隣の村の畑を荒らしたり家畜を襲ったりで、てんやわんやになってしまいました。その後、僕は迷惑をかけた村の人たちに謝って回ったんですけど、みんなすごく怒っていて許してもらえなくて、最終的に体を細切れにされ、豚のえさにされてしまいました。やっぱり、動物は人に迷惑をかけないようにちゃんとしつけをしておかないと、大変なことになりますね」
「そ、そこまで大変なことになるのは、お前ぐらいだろ……」
つか、村人狂暴すぎるだろ。どんだけ迷惑かけまくったんだよ、お前。
「なあ、女帝様。なんであんな迷惑なやつを、この国では学校の教師にして養ってるんだよ?」
『面白いから?』
「そんな理由かよ!」
『あ、でも、ちゃんと実用性もあるでしょ? ハリセン仮面みたいな超強い悪い人が現れたとき、お仕置きするのにちょうどいい感じ』
「ぐ……」
確かに! 俺にとっちゃあタイプ相性最悪の相手だしな。チワワのトラップで、またちょっぴりダメージくらったし。
『それに、前にも言ったでしょ。この国では、モンスターを家畜にするための研究をやってたって』
「あいつ家畜か。ひでえ言いようだな」
と、俺はそこで閃き、目の前の男に向かって「おーい、女帝様は、お前のこと家畜としか思ってないみたいだぞ」と告げ口してやった。
だが、
「家畜、ですか。確かに、僕は毎日、馬車馬のように働かされています」
なんかあっさり受け入れやがった。
「来る日も来る日も、教師としての業務は多忙を極め、休む時間もろくにないほどです。毎日の、一年四組の担任教師としての仕事に加え、呪術担当教師としての教材の作成や、テストの採点、果ては不登校になった生徒への家庭訪問なんてものもあります。ただ、僕は種族の特性上、招待されていないよそ様の家には行くことができないので、家庭訪問の前にアポを取る必要があるのですが、みなさん、不登校を極めている家庭なだけに、誰もかれも僕の話を聞いてくださらない。家庭訪問アポが取れなくて、いつも理事長に怒られてしまいます! また、急に卒業後の進路に迷った生徒からの相談を受けることもありまして、そういうとき、僕は決まって呪術の勉強を進めるのですが、なぜかそこから生徒の悩みが解決することはなくて、時間だけが過ぎていく感じです。なぜでしょうね。さらに、空いた時間には、理事長からちょっとした雑用を頼まれることも多く、もはや僕は学院の用務員さんとはツーカーの仲といいますが、目を合わせただけで、だいたいの用件はわかる関係になっているのですよ」
「リュクサンドール、それは家畜じゃない……」
社畜だ! こいつ、いいように、こき使われ過ぎじゃねえか!
まあでも、家畜も社畜も意味は同じようなもんか……。実質ディヴァインとは思えない扱いの悪さだ。
というか、やつは今のところ、ただちょっとばかり速く動けて、ちょっとばかり威力の高い自爆ができるだけのやつだ。それなんてマルマイン? あ、なんかザコキャラ感ハンパなくなってきた。よかったあ。俺、やっぱ苦戦なんかしてなかった! 相手はマルマインだしね。
と、そこで、
『うぷぷー、トモキ君、サンディー先生に勝てそうもないから、すごい焦ってる。ばっかみたいー』
女帝様が勲章越しに煽ってきた。クソが!
『トモキ君って最強の勇者でしょ? なんで先生倒せないの? ねえ? 楽勝じゃなかったの?』
「うっせーな! だから今、倒し方考えてるところだろうがよ!」
『ほんとー? 相性最悪の相手だけど倒せるの?』
「相性?」
『そう。トモキ君は最強の勇者には違いないけど、なんでもできる神様じゃないし、自分の攻撃が全然効かないような敵だっているもんね。もちろん、昔はみんなでパーティー組んで戦ってたから、それでよかったんだろうけど、今は一人だもん。自分の攻撃が効かない敵だと、もう完全に終わり。勝ち目なーし!』
「言われてみれば……」
確かに、昔はそうだったな。俺の物理攻撃が効かないような、例えば不定形や実体のないモンスターなんかには、ティリセの攻撃魔法やエリーの付与魔術で対応してた。勇者ソロプレイだと、たぶんそういうモンスター相手には詰んでた、みたいな。
つまり、俺の「最強」ってのは、そういうパーティープレイにおいて役割分担があってこその最強だったってことか。一人でなんでもできるタイプの強さじゃない……く! 今頃、こんな事実に気づかされるとは!
「ハッ! なにがタイプの相性だ! んなもん気合と根性でなんとかならあっ!」
そうだ、ピカチュウだってアニメの世界じゃイワーク倒せちゃうのだ! え、電気玉アイアンテール? 違うって、そこはスプリンクラーだってばよ。
「陛下とのお話は終わったようですね。では、また行きますよ、トモキ君!」
と、リュクサンドールが再び犬軍団を俺にけしかけてきた。
「また同じ攻撃かよ! 芸がねえんだよ!」
と、俺は叫びながら犬を斬り捨てていったが、内心はそんなわけないだろうという考えしかなかった。そう、今の時点でこいつが俺に使った呪術はまだ二つしかない。この呪術オタがそれで終わるはずがないのだ。もっと他にも使える呪術を隠し持っているはず。
と、そのとき、犬軍団の群れの中から、見慣れない小さな生き物が現れた!
「くぅ~ん……」
と、うるんだ瞳で俺をじっと見つめてくるそれはまさに……白いチワワだった。
「おお……」
なんてかわいいんだろう! 地獄に仏、掃き溜めに鶴とはまさにこのことだ。早くアイ〇ルしなきゃ!
「おお、その個体は!」
と、リュクサンドールも突如現れた、愛くるしい白いチワワに驚いたようだった。
「それはまさに、 256体のうち1体の割合で現れるという、冥府の番犬のレア個体!」
「レア個体って」
そんなシステムあんのかよ!
「素晴らしいですね、トモキ君! そんなレア個体に巡り合うとは!」
「そうか? えへへ……」
白くてもふもふで、めっちゃかわいいもんな。うっふっふ。
俺はさっそく手を伸ばし、その白いチワワちゃんの頭をなでようとした。
しかしその瞬間――チワワちゃん、俺の手に思いっきり噛みつきやがった! ものすごく狂暴な面構えになって!
「ぎゃあっ!」
痛い痛い痛い痛い痛い! なぜこんな仕打ちを!
「あ、トモキ君、言い忘れてましたけど、冥府の番犬のレア個体は、通常個体と同じ攻撃力と狂暴性を持っています」
「それを早く言え!」
すぐさま、俺の手に噛みつきやがったクソ犬を蹴り飛ばし、斬り捨てた。あーもう、マジで騙されたわ。何がアイ〇ルだよ、ばかばかしい!
「見た目が違うだけで何がレアだよ、アホかよ!」
「いえ、実はここだけの話、レア個体にはさらに体の色が違うものもあるそうなんです」
「え、さらに色違いバージョンあるの」
何その、ときめく仕様。
「ええ、それはさらにレア個体のなかの256体のうち1体の割合で現れるそうで、僕もいまだにこの目で確かめたことはないんです」
「激レアじゃねえか!」
それ持ってたら学校の友達にすごく自慢できそう!
「どんな感じなのそれ? やっぱ召喚するとキラって星のエフェクト出て光るの?」
「はあ。何せ目撃証言自体がとぼしいものなので、文献によって、記述されている内容はまちまちなんです。僕もかつて、自力でそれを出そうとして、毎日毎日、冥府の番犬を召喚し続けていた時期があったんですけど、気が付けば周りに冥府の番犬があふれかえっていて、退屈を持て余した一部の個体が近隣の村の畑を荒らしたり家畜を襲ったりで、てんやわんやになってしまいました。その後、僕は迷惑をかけた村の人たちに謝って回ったんですけど、みんなすごく怒っていて許してもらえなくて、最終的に体を細切れにされ、豚のえさにされてしまいました。やっぱり、動物は人に迷惑をかけないようにちゃんとしつけをしておかないと、大変なことになりますね」
「そ、そこまで大変なことになるのは、お前ぐらいだろ……」
つか、村人狂暴すぎるだろ。どんだけ迷惑かけまくったんだよ、お前。
「なあ、女帝様。なんであんな迷惑なやつを、この国では学校の教師にして養ってるんだよ?」
『面白いから?』
「そんな理由かよ!」
『あ、でも、ちゃんと実用性もあるでしょ? ハリセン仮面みたいな超強い悪い人が現れたとき、お仕置きするのにちょうどいい感じ』
「ぐ……」
確かに! 俺にとっちゃあタイプ相性最悪の相手だしな。チワワのトラップで、またちょっぴりダメージくらったし。
『それに、前にも言ったでしょ。この国では、モンスターを家畜にするための研究をやってたって』
「あいつ家畜か。ひでえ言いようだな」
と、俺はそこで閃き、目の前の男に向かって「おーい、女帝様は、お前のこと家畜としか思ってないみたいだぞ」と告げ口してやった。
だが、
「家畜、ですか。確かに、僕は毎日、馬車馬のように働かされています」
なんかあっさり受け入れやがった。
「来る日も来る日も、教師としての業務は多忙を極め、休む時間もろくにないほどです。毎日の、一年四組の担任教師としての仕事に加え、呪術担当教師としての教材の作成や、テストの採点、果ては不登校になった生徒への家庭訪問なんてものもあります。ただ、僕は種族の特性上、招待されていないよそ様の家には行くことができないので、家庭訪問の前にアポを取る必要があるのですが、みなさん、不登校を極めている家庭なだけに、誰もかれも僕の話を聞いてくださらない。家庭訪問アポが取れなくて、いつも理事長に怒られてしまいます! また、急に卒業後の進路に迷った生徒からの相談を受けることもありまして、そういうとき、僕は決まって呪術の勉強を進めるのですが、なぜかそこから生徒の悩みが解決することはなくて、時間だけが過ぎていく感じです。なぜでしょうね。さらに、空いた時間には、理事長からちょっとした雑用を頼まれることも多く、もはや僕は学院の用務員さんとはツーカーの仲といいますが、目を合わせただけで、だいたいの用件はわかる関係になっているのですよ」
「リュクサンドール、それは家畜じゃない……」
社畜だ! こいつ、いいように、こき使われ過ぎじゃねえか!
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