上 下
179 / 436
2章 ドノヴォン国立学院編

178 女帝様との面会

しおりを挟む
 エリーのやつ、どういうつもりで、俺にあんなことを言ったんだろう?

 面会室を出て、警察署内の留置場の檻の中に戻った後、俺は考えずにはいられなかった。さっきのエリーの口ぶりは、まるで俺が脱獄することが不可能とでも言っているようだった。

 もしかして、最近の警察関連施設や備品は、めちゃくちゃガードが固くなってるのか? 俺はふと疑問に思い、手首にはめられていた十個の手錠にちょっと力を入れてみた。ばきっ! それはすぐにぶっ壊れた。うーん? 手錠の強度は別にたいしたことはなさそうだ……。一応、凶暴なハリセン仮面様向けに用意されたものらしいんだけど。

「お、おい、お前! 何をしている!」

 俺が手錠をぶっ壊した音を聞いたのだろう、見張りの警察官が俺の檻のほうにすっ飛んできた。

「いやー、なんかちょっと体ひねったら、壊れちゃって」
「何を言っている! その手錠は強化魔法で特に強度を高めたものだぞ! それを十個も一度に壊すことなど不可能――」
「いやでも、壊れたし?」
「そ、そのよう、だな……」

 警官は俺の足元に転がっている壊れた手錠を見て、気まずそうに目を泳がせた。

 やがて、俺はその警官に再び手錠をはめられた。同じ手錠を今度はニ十個! 倍だ!

「さすがにお前も、これだけの数の手錠は破れまい――」
「え、そうですか?」

 ばきっ! 試しに腕に少し力を入れたら、ニ十個の手錠はすぐにぶっ壊れた。今度は警官の目の前で。

「まだ足りないみたいですけど、追加しますか?」
「え、いや、そのう……」

 警官はそんな俺の行動に、ひたすらおろおろした様子だったが、やがて、

「と、とりあえず、これでおとなしくしてろ!」

 自分の懐から、おそらくは特に強化されてない普通の手錠を出し、俺の手首にはめて去って行った。なんかもう、俺に関わるのがめんどくさくなったようだった。

「やっぱ脱獄は簡単だよな?」

 警官が去った後、今度は目の前の檻に手をかけ引っ張ってみたが、すぐに出られそうな大きさに隙間が広がった。また警官に見つかるとめんどくさいから元に戻したが、やはり俺にとっては脱獄はヌルゲーのようだ。エリーはなんであんなことを言ったんだろう?

 それに、俺はもう一つ気になることがあった。どうして面会に来たのはエリーだけなんだろう? そう、あんな思わせぶりな手紙を書いたんだから、まずユリィが来るべきじゃないか。というか、エリーが来るなら一緒についてきてもよかったんじゃないか? あいつ、なんで俺に会いに来てくれないんだろう? 俺、もしかしてハリセン仮面だってバレたから嫌われちゃったのか? そ、そんなことって……。

 と、檻の中でひたすら鬱になっていると、やがてラックマン刑事が俺のところにやってきた。また面会らしい。

「おおおっ!」

 ユリィだ! やっと俺に会いに来てくれたんだ、わあい!

 すぐにラックマン刑事と一緒に留置場を出て、面会室に行った。ユリィ、待ってろよ!

 しかし、面会室で俺を待っていたのは、ユリィではなかった……。

「ごきげんよう、トモキ・ニノミヤ。相変わらずお元気そうですね」

 と、アクリル板の向こうから俺に声をかけてきたのは、誰であろう、ロリババア女帝様だった! 今はドノヴォン国立学院の制服ではなく、きらびやかなドレスの上に緋色のコートを羽織っており、顔は濃いベールに覆われてはっきりとは見えない。しかしこの声は間違いなくあのクソロリババアのものだ。また、その背後には近衛兵が三人立っていた。こいつらは警備のSPたちか。

「なんだよ、お前? またうぷぷーとか言って、俺のこと笑いにでも来たのかよ?」
「あら、わたくし相手に、ずいぶん不遜で身の程を知らない口の利き方をされるのですね。さすが、世を騒がせた大罪人ですこと」

 女帝様はベールの下で、俺をあざ笑ったようだった。その笑い方、口調、ともに俺が知っているラティーナとは別人のようだ。おそらくこれが女帝としての表向きの顔なんだろう。

「は! どうせ死刑確定してるのに、いまさら女帝様相手にどんな態度とれって言うんだよ? 敬語なんかいらねーだろうがよ」
「そうでもないのですよ? あなたへの今後の処罰を決定するのは、ほかならぬこのわたくしなのですから」
「え」
「第一級国家反逆罪は、他の犯罪とは全く扱いが異なるのです。国家、そのものに対する反逆行為なのですからね。昔から、女帝自ら、裁きを下すことになっているのです」
「お前が直接……?」
「ええ。ですから、この場で不遜極まりない態度をとって、わたくしの心象を悪くすることはあまり得策ではないでしょうね」
「は、はい! すんませんした!」

 俺はあわてて姿勢を正した。よくわからんが、今はこいつの好感度を上げておいたほうがいいっぽい!

「うふふ。今さら襟を正されても、点数稼ぎなのは見え見えですわね。わたくし、かえってあなたへの印象が悪くなりましたわよ?」
「う」

 くそう! 口調が変わっても、中身はやっぱりあのラティーナじゃねえか! 俺をおちょくりやがって!

「も、もういい! お前は要するに、これから自ら死刑にする俺を煽りに来ただけなんだろ! ねえ、今どんな気持ち?みたいな。用が済んだらとっとと帰りやがれ!」
「いえ、実はわたくし、あなたにどうしてもお伝えしないことがありましてよ」
「なんだよ、それ?」
「あなたのお友達、確か、ユリィさんとおっしゃったかしら」
「え」
「わたくし、あなたへの裁きを確実に実行するために、彼女に協力していただくことにしましたの」
「な、なんの話だよ! あいつは俺とは関係ない――」
「まあ、わかりやすく言うと、人質に取らせていただいた、ということでしょうか」

 その瞬間、ベールの奥のエメラルド色の瞳が鋭く光るのが見えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

全マシ。チートを貰った俺の領地経営勇者伝 -いつかはもふもふの国-

のみかん
ファンタジー
地球にいる四人の男女が神から勇者に選ばれた。 勇者たちはそれぞれチートを貰い、異世界に行って魔王を倒すことを命じられる。 ある者は剣の才能を、ある者は弓の才能を、ある者は聖女の力を。 そして猫をもふもふすることが生き甲斐な25歳の男、広岡二郎(ひろおか じろう)は全てのスキルが盛り込まれた【全マシ。】チートを手に入れた。 チートのおかげで魔王は楽勝だけど、もふもふが摂取できないのは大問題だ。 もふもふがない? だったら手に入れるまでよ! 開き直った最強チートで無双。異世界を舐め腐って荒稼ぎ。そういう感じで生きていく。 転移した主人公が自重せずに魔王と戦ったり、辺境の領地を発展させたり、猫を大きく育てていったりする物語です。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...