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2章 ドノヴォン国立学院編

168 お見舞い

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 それから、俺はまた一人で、ベッドの上で悶々とするだけになった。

 さすがに5%の確率で死ぬとか医者に宣言されたら、俺も悩まずにはいられなかった。今まで、どんな強敵のモンスター相手にも死の恐怖を感じたことがなかった俺が、まさか流行り病で死ぬかもしれないんですって!

 いやでも、歴史の授業で習った英雄アレクサンダー大王も、確か病気で早死にしたような気がする。悟空さもそうだ。あいつ、トランクスが未来から特効薬持ってこなきゃ、普通に死んでただろ。そう、無敵のスーパーサイヤ人だろうとコロリと逝っちゃうのが病気の怖さなのだ!

 俺のもとにも、誰かが未来から特効薬を持って来ないだろうか……。

 さすがに病気相手に剣技を使うことはできない。今はただ、5%の死のガチャから運よく生還できるよう祈るほかなかった。

 つか、そもそもなんで俺、こんな病気になったん……?

『マスター、ハシュシ風邪の潜伏期間は五日から八日ほどですヨ?』

 と、また俺の思考を勝手に読みやがったゴミ魔剣の声が頭に響いた。

『マスターの行動履歴と、その期間に接触した人間《デバイス》の記憶《メモリ》を可能な限りサルベージして解析したところ、モメモに向かう道中の荷馬車で感染した疑いが非常に濃厚デス』
「え、あそこで?」
『感染源はあの荷馬車の持ち主のおっさんですネー。彼自身は無症状の感染者のようで、周りにひたすら病原体をばらまくスーパースプレッダーと化していたようデス』
「あ、あいつか!」

 つか、スーパーなんちゃらってなんだよ! 下手すりゃ5%の確率で死ぬ病気を周りにばらまくとか、ただのバイオテロ兵器じゃねえか!

「まさか、あいつのせいで、俺は……」

 死ぬのか? こんなところで? まだ幸せになってないのに? そんなのって……。なんだか、考えるほどに心細くなってきて、涙目になっちゃった俺だった。マジで遺書を用意したほうがいいのかもしれない。

 と、そのとき、部屋に誰か入ってきたようだった。

「……こっちだ」

 という声は、レオのものだった。さらにもう一人、誰かいるようで、足音が二人分、こっちに近づいてくるのが聞こえた。いったい誰だろう? 俺の視界は十円玉に遮られており何も見えない。

 と、そこで、

「あの……トモキ様、大丈夫ですか?」

 こ、この聞き覚えのある声は! 俺はあわてて額の上から十円玉をどかし、顔を出した。

 すると、俺のベッドのすぐわきにはやはり、見覚えのある少女が立っていた。ユリィだ。下校してすぐここに来たのだろう、制服姿で、今はとても心配そうな顔で俺を見下ろしている。

「い、いや、まあ、大丈夫……」

 熱があるせいか、ユリィの顔を見た途端、いつも以上にどきどきしちゃう俺だった。はわわ、今日の俺、顔洗ってないし、髪もボサボサじゃないのよ。

「お、お前、女子なのに、なんで男子の寄宿舎来てるんだよ。入れないはずだろ?」
「トモキ様のお見舞いならよいと、理事長に特別に許可をいただきました」
「特別に……」

 やっぱ俺、これから死ぬかもしれないからか? だから特別に配慮してくれたのかエリー!

「いや、俺は別になんともな――」
「本当に? すごく顔色が悪いようですけど」

 ユリィは俺の額に手を当て、顔を近づけてきた。そのかわいらしい二つの黒い瞳が急に間近に迫ってきて、俺はますます体温が上がってしまった。

「まあ、すごい熱!」

 ユリィはそんな俺にびっくりしたようだった。いや、その熱はお前のせいだよ!

 と、そこで、

「トモキ、俺はこれから草むしりの仕事があるので出かける。帰りは遅くなる」

 そう言い残し、俺の返事を待たずにヤギは部屋から出て行ってしまった。

 あいつ、まさか俺たちに気を使って……?

「じゃあ、わたし、レオローンさんが帰るまで、ここにいることにします」
「え」
「トモキ様の容体が急変したら大変でしょう?」

 ユリィはやはりとても心配そうな顔をしている。俺、こいつにそんな顔されるほど、具合悪そうに見えるのかな……。

「いや、別にそこまでしなくてもいいよ。この病気はとりあえず寝てりゃいいって、医者にも言われたし」

 正直、心細かったし、ユリィに一緒にいて欲しい気持ちもあったが、やはりこんなシチュエーションはいやだった。これ以上こいつに、こんな弱っている俺を見せたくなかった。

 だが、ユリィはそんな俺の手を両手でぎゅっと握りながら、

「お願いします。わたしに看病させてください」

 と、再び俺に顔を近づけるのだった。

「わ、わかったよ……」

 さすがにそこまでされては断れない。かわいいし。手の感触も、やわらかくてあったけえし。

「ありがとうございます! わたし、せいいっぱい、トモキ様の看病します!」

 ユリィはそんな俺にやさしく微笑んだ。

 そして直後――制服を脱ぎ始めた。俺の目の前で。

「え、お前、何して……」

 俺はまた体温が急上昇するのを感じた。
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