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2章 ドノヴォン国立学院編

152 バトルのあとは

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 その後、すぐに学院に警察がやってきて、午後の授業はすべて中止になり、生徒たちは強制的に下校させられた。警察の捜査のため、明日いっぱい休校するのだという。

 ただ、俺はすみやかに寄宿舎には帰れなかった。一応、謎のモンスター襲撃事件のど真ん中にいた人物なので、モメモ第二警察署に「ご同行をお願い」され、たっぷり事情聴取をされてしまった。

 まあ、幸い、俺に聴取をしてきたのは、ハリセン仮面の事件を担当しているラックマン刑事とは違う刑事だったので、ハリセン仮面のことにはまったく触れられないまま、淡々と事情聴取は終わった。

 やがて全ての事務手続きを終え、モメモ第二警察署を出たところで、俺はユリィに声をかけられた。俺よりはだいぶ早くに事情聴取は終わったはずだが、警察署の入り口でずっと俺を待っていたようだった。

「……あの、トモキ様、大丈夫ですか?」

 ユリィは俺の顔を見るなり、開口一番こう尋ねてきた。

 だ、大丈夫ってなんだろう? まさか、俺がハリセン仮面だってバレなかったか、心配してくれていたのか? つ、つまり、それは俺がハリセン仮面だと気づいて……? 一瞬何のことやらわからず、ドキマギしてしまったが、

「あ、お体のことです。雷に打たれたり、高いところから落ちたりしていたでしょう? どこか痛めたりしてないですか?」

 なんだ、そっちのことか。俺はほっとした。

「別に、あれぐらいどうってことないぜ。俺を誰だと思ってるんだよ」
「ああ、そうですね。トモキ様には余計なお世話でしたね」

 ユリィは安心したようににっこり笑った。こいつ、まさかここで俺を待っている間、ずっと俺のこと心配してたのかな……。余計なお世話とは言われたものの、なんだかうれしくなってきてしまう。

「あ、そういえば、なんか急に、このあたりが痛くなってきたような?」

 ちょっとからかってみるか。俺は右の二の腕をさすりながら、わざとらしく言ってみた。

「え! どこか怪我をされているんですか! 大丈夫ですか!」

 ユリィは案の定、おろおろしはじめた。ふふ、相変わらず騙されやすいやつめ。

「んー、どうかな? なんかもう痛み具合からして、傷口が化膿して、悪い毒みたいなのが体中に広がってるような感じだなあ。俺もう、体が腐って死ぬかも?」
「そ、そんな……」

 ユリィは俺の言葉にマジでショックを受けてるようだ。とたんに真っ青になってしまった。

「ど、どうしましょう! すぐにどこかで治療を……いや、それだと間に合わないでしょうか? ここで何か、応急処置を――」
「ああ、そうだな、応急処置。ぜひ頼む」

 俺はそこでネタバラシとばかりに、制服の右腕の袖をまくった。怪我一つしていない、きれいな俺の右腕が出てきた。

「あ、あれ? トモキ様、怪我は?」
「治った」
「え」
「なんかお前の声聞いてたら治った」
「え? え?」

 ユリィはきょとんとしている。もしかして、俺にからかわれてたことにも気づかないのかよ。

「悪い。実は怪我なんてしてなかった。ちょっと冗談こいてみただけだ」
「え……そんな! ひどいです!」

 ユリィはたちまちむっとしたようだった。

「どうしてそんな嘘を言うんですか! わたし、本当に――」
「いや、怒るなよ。ただの軽い冗談だろ」
「言っていい冗談と悪い冗談があります!」

 ユリィは不機嫌そうに、俺からぷいっと顔をそむけてしまった。

「い、いや、そのう……」

 俺はなんと言い訳していいのかわからなかった。俺としては本当に、ただの軽いイタズラのつもりだった。でも、たぶん、こいつは今ので本気で俺のこと心配してくれたんだ。だから、きっと怒ってしまったんだろう……。

「わ、悪かったよ。もう二度とこんな変な冗談言わないから……その、すまん」

 俺はユリィの顔の前に回り込んで、何度も頭を下げた。こんなくだらないことで嫌われたくなかった。

 そして、頭を必死に回転させ、こういう状態の女の子はどうすれば機嫌が直るか俺なりに考え、

「そうだ! 明日学校休みだし、一緒にどこかに美味いもの食いに行かねえか?」

 食べ物で機嫌をとるという方法を思いついた!

「え、明日一緒に何か食べに? トモキ様と?」

 ユリィは案の定、食べ物につられたようだった。すぐに、俺のほうに向きなおった。よし、やっぱりこれで正解だったようだぞ。ちょろいやつめ!

「そうだよ。ここは都会なんだし、美味い料理とか美味いスイーツとかいっぱいあるはずだしな。せっかくだし、一緒に食べて回ろうぜ!」
「そうですね。せっかくですし……」

 ユリィはふと、俺に微笑んだ。さっき不機嫌そうにしていたのが嘘のような、とてもうれしそうな笑顔だった。

「わかりました。明日、二人で一緒に街を回りましょうね。約束ですよ」

 と、俺の手を取って、約束のしるしのようにぎゅっと握りながら言った。

「あ、ああ……」

 俺はその手の暖かくて柔らかい感触に、とたんに胸の奥が熱くなった。そして、直後、気づいた。

 あれ? これって、どう考えてもデートの約束……?
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