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2章 ドノヴォン国立学院編

147 POISON《ポイズン》♪

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 やがてその場に生き残っている邪悪なモンスターは、前科三犯の呪術オタだけになった。

「うう……こんなはずでは……」

 と、最後の一匹は日の当たらない物陰に隠れ、ひたすら落ち込んでいるようだった。ゆるゆるなメンタルの男でも、さすがにさっきのアレは相当恥ずかしかったらしい。生徒の前だしな。

 それに、

「ねーねー、サンディー先生のさっきの召喚魔法、超面白かったね! もう一回、ラティーナに見せて見せてー」

 なんかめちゃくちゃ小ばかにしてるロリっ子がすぐそばにいるし。こいつほんと、いい性格してるよな。死体蹴りはやめて差し上げろ。いや、この場合、不死族蹴りか?

 また、俺がこちらのモンスターを一匹を残して片付けたところで、ネムたちのほうもモンスターをほぼ掃除し終えたようだった。ネム、フィーオ、ルーシア、レオ、四名がこっちに戻ってきた。

「いったいこのモンスターたちはなぜここに現れたのでしょう?」

 ルーシアは近くに転がっているモンスターの死体のそばにしゃがみ、その足首にはめられている金属の輪をじっと見ている。

「DCL.770802……廃村で見たゴブリンたちのものとは少し違いますが、出どころは同じのようですね?」

 ルーシアは金属の輪に刻印された製造番号のような何かを確認し、つぶやく。学校の備品の製造番号《シリアル》のことは把握していても、さすがにこんな謎の魔改造モンスターのことは知らないようだ。

「とにかく、このことをすぐに理事長に報告しないと――」

 と、ルーシアは立ち上がったが、直後、上を見てぎょっとしたようだった。

 その視線の先を見ると――まるで増援部隊のように、空の上にさらにモンスターたちが集まってきているところだった。

「おいおい、敵のおかわりかよ」

 これ以上戦ってハリセン仮面疑惑深まっても困るんだが? いやまあ、疑惑っつうか、本人なんだが……。

 しかし、下から様子をうかがっていると、モンスターたちは俺たちのはるか上空で集まっているだけで、降りてこないようだった。なんだ、あいつら? 空の上で作戦会議でもしているのか?

 と、思いきや――いきなり、俺たちが集まっている場所一帯に、大きな魔法陣が広がって、光り始めた! 

 その光は一瞬だったが、禍々しい緑色の不吉な輝きだった。

 そして、直後、

「ぐ、ぐふう……!」

 ネム in ラックマン刑事が青い顔をしてその場に倒れてしまった。

「ネ……ラックマン刑事、どうしたんですか?」

 あわてて駆け寄ると、

「ど、どうやら、毒食らっちまったようでさあ……ぐう……!」

 なるほど。今のは毒攻撃だったようだ。

「わ、私も正直かなり辛いですね……」

 と、ネムだけではなく、ルーシアも青い顔をしてその場にしゃがみこんでしまった。もしかして、今の魔法陣の中にいたやつ全員に毒がかかったのか? あわてて周りを見ると、ルーシア以外の生徒たちも一様に毒で具合が悪くなっているようだった。

 ただ、ネム in ラックマン刑事に比べると、症状は軽いようだった。また、人間以外には効かない毒なのか、フィーオ、レオ、リュクサンドールは元気そうで、けろっとしていた。

 さらに、どういうわけかユリィとラティーナも無事っぽかった。

「ユリィ、お前大丈夫か?」

 心配なので念のため確認すると、

「はい。たぶん、お師匠様からいただいた下着をつけているせいだと思います」

 なんと、あのスケスケのエロい下着の効果らしい! というか、今あれ身に着けてるのかよ、制服の下に! うわあ、なんていやらしい……って、妄想している場合じゃない! 今はとにかく状況確認だ!

「ラティーナ、お前はなんで平気なんだ」
「えへへ。悪い魔法はラティーナには効かないんだよー」
「そうか、魔法防御高いんだっけ」

 レオの幻術も効かないぐらいだしなあ。

「トモキ君も効いてないじゃん?」
「俺はまあ、冒険者として鍛えてるからな」

 とはいえ、さすがにこの状況はまずいな。俺はともかく、他の生徒たちの生命の危機じゃねえか! 早くなんとかしないと!

「こ、この中でお医者様はいますかー? いや、医者じゃなくても毒に詳しい人!」

 まあ、俺としてはこんな呼びかけぐらいしかできないわけだが、

「あ、僕、毒はけっこう詳しいですよ?」

 なんか呪術オタが手を挙げやがった。

「詳しいってどれくらいですか、先生」
「実は、毒攻撃というのは呪術の中では定番中の定番なんですよ! いろんな種類の毒攻撃が呪術にはありましてね、すごくお手軽で誰でも簡単にできるものだと、対象の健康状態をちょっと悪くするくらいしかできないんですが、これはこれで普通の体調不良と見分けがつかないので、めちゃくちゃ使い勝手がいいんです! 相手が何か本当に具合が悪くなった時に重ねがけで使うと、弱り目に祟り目で抜群の効果が期待できます。また、実在する疫病とほぼ症状が変わらないような毒攻撃ができる呪術もありましてね。村とか町とか国とか、広い範囲でいっぺんに使うと、あたかも悪い病気が流行っているような感じで、たくさんの人を呪い殺すことができます! 呪術による攻撃だとバレずに国をじわじわ滅ぼすことができるんです! また、魂にこびりつく感じで、ものすごい強力な毒を相手にかける呪術もありまして、これは使用条件が相当厳しいんですが、いったんこの毒にかかると、なんと、死んで生まれ変わっても、その毒の効果が続いているんです! 生まれ変わっても追いかけてくる毒なんて、この上なくいやらしいですよね! 僕自身ちゃんと調べたわけじゃありませんが、これは来々々世ぐらいまで続くはず――いやもっと? きっと来々々々々――」
「うるせえ!」

 ドゴッ! もはや殴って話を止めるしかなかった。

「お前の呪術の話はどうでもいい! 今のこの状況をなんとかしろ!」
「え? 今みなさんに広がっている毒ですか? これ、呪術じゃなくて、他の魔法の毒みたいですよ。なんかこう、さっきの毒々しい魔法陣から体に悪そうな光線みたいなのがもやっと出てましたし、それでなんだかよくわからない感じの毒になったみたいな――」
「わかんねえなら、黙ってろ!」

 役立たずのその男を、とりあえずもう一発殴っておいた。
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