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2章 ドノヴォン国立学院編

144 バトルの時間

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「な、なんでこんなところにモンスターが?」

 と、最初に口走ったのはリュクサンドールだった。いや、お前が言うな。お前もモンスターだろうがよ。

 しかしまあ、言ってることはもっともだ。なんでいきなり、こんなところにモンスターがやってくるんだろう。ちょっと前ならともかく、今は暴マーが死んで、モンスターどもは人を襲うことはなくなっているはずだが……と、そこで、モンスターたちの足首やら首元に、金属製の輪がはめられているのが目に留まった。そうか、こいつらあのトロルやゴブリンたちと同じ魔改造モンスターか。

 ただ、今突然俺たちの目の前に現れたのは、それらよりもだいぶ戦闘力の高そうなメンツだった。キマイラ、エルダーセイレン(鳥女だ)、グリフォン、ウィングヒュドラ(首が九つある大蛇だ)、他悪魔族などなど、ロープレだと中ボスクラスのモンスターばかりだ。まあ、さすがにレジェンドはいなさそうだが。

 なんでこんなのがいきなり学校に? しかも魔改造モンスターみたいだし? 疑問に思わずにはいられなかったが、やつらはいずれも敵意をむき出しにしており、考える余裕はなかった。俺はすぐに前に出て、一番俺たちに間近に迫っていたグリフォンの胴体に、力いっぱい拳を叩きこんだ! ドーンッ!と。

 グリフォンは奥の壁をぶち破って、遠くへ吹っ飛んで行った。よし、手ごたえあり! 一体ワンパンキル! その攻撃は、まさに俺にとっては、自然に体が動いた結果に過ぎなかった。そう、目の前に戦闘態勢のモンスターが現れたら、とりあえず攻撃するようにもう体が出来上がっちゃっているのだ、俺ってば。

 ただ、グリフォンを吹っ飛ばした直後、はっと気づいた。あれ? ここで、俺がそれなりに素手で戦えるのがバレるとやばくない? ハリセン仮面身バレ一直線コースじゃない?

「ちょ、い、今のは見なかったことに……」

 あわてて後ろを振り返り、ほかの生徒たちに言い訳したが、

「すごい! トモキ君、素手でもあんなに強いんだね!」
「ハリセン仮面みたい!」

 クソがっ! もうイメージ結び付け完了してやがる!

「ち、ちが、俺はハリセン仮面様ほど格闘は強くない、はず――」
「トモキ君、後ろ!」

 と、言い訳のさなか、ルーシアが叫んだ。うるせーな、この女、さっきから。俺がまだしゃべってる途中だろうがよ。とりあえず、後ろを振り向かないままの心眼後頭部頭突きで、後ろから迫ってきた大きな何者かを吹っ飛ばした。それもやはり、グリフォンと同様に壁を突き抜け吹っ飛ばされていったようだった。

「つ、強い……」

 ルーシアは目を見張った。いや、強くないって言ってるだろうが、クソ女が!

 もういい、ここは1.5ハーウェル様になんとかしてもらおう。俺が素手で戦ったらまた泥沼だ。

「あー、ラックマン刑事、懐に何か隠し持ってますねー?」

 俺はすぐにネムに近づき、お互い肩を並べて、みんなに背を向けた。そして、

「武器ー。ほら武器武器。モンスターと戦えそうなやつー!」

 絶対安全魔剣(ネムの本体だ)を持っているネムの腕を、懐に持っていき、絶対安全魔剣をみんなの目から隠した。

 ネムはすぐに俺の意図を察したようだった。

「アッハーイ? そういえば、こんなトコロにワタシの秘密兵器がありましたネー」

 ネムはわざとらしくそう言うと、すぐに自分自身の形を絶対安全魔剣から違うものに変えた。見るとそれは……十手? そう、時代劇でおなじみのアレね。

「おい、どうせならもっと攻撃力が高い武器に変われよ」
「ノンノン。ポリ公が懐に隠し持ってる武器といえば、これが定番ですヨー」

 リアリティ重視ってことか。つか、このルーンブリーデルって世界に十手を使う文化なんてなさそうなんだが、ネムのやつ、何気に俺の地球時代の記憶とか知識とか吸収してねえか? 記憶泥棒かよ。

 まあいい、細かいことは。1.5ハーウェルなんだし、十手でも鉄パイプでも十分戦えるだろう。俺はすぐにネムから離れ、ネムもすぐにモンスターたちのもとに踏み込んでいった。

「ヒャッハー! クソども、死にさらしまっせー!」

 ばきばき! 武器が十手とはいえ、やはりネムは強かった。モンスターどもの頭を次々と十手でぶっ叩き、目などの急所も的確に突いて、一人でぶち殺しまくっていた。というか、実際の敵を前にして、さっき俺と手合わせしたときよりパワーアップしているようだった。今は2.2ハーウェルぐらいだろうか。

 ただ、多勢に無勢という言葉がある通り、一人だとあやういところもあったが――、

「えーい! みんな死んじゃえーっ!」

 というアホっぽい掛け声とともに、後ろから援護射撃の矢が飛んできて、孤軍奮闘しているネムをサポートしていたので問題なかった。これはもちろん、フィーオによるものだ。そう、こいつは今日、勘違いで自分のメイン武器の大弓をここに持ち込んでいたのだった。まさか、それが役に立つとは……。その掛け声はアホっぽいが、矢の狙いは実に正確だった。確実に敵の戦力を削ぐことができていた。

 また、前衛でタゲ取りながら戦うネムをサポートするのは、フィーオだけではなかった。ルーシアとレオも、それぞれの魔法で、敵の動きを足止めしたり、攻撃をネムからそらしたりしていた。ルーシアが使うのは主に風魔法だった。レオが使うのは土属性の魔法のようだったが、地面から岩を突出させるほかに、植物を瞬時に繁茂させ、敵の動きを止めることもできるようだった。なお、すでにレオの姿はヤギに戻っていた。まあ、もう武術の授業どころじゃないからか。

 うーん、実に頼もしいパーティープレイだな!

 前衛と後衛、見事に役割分担しながら戦っている。これなら俺が手を出さなくてもなんとかなりそうだ。よかったあ、強い人たちがここにいて。俺、もうハリセン仮面だと疑われながら戦わなくてもいいっぽい……。ほっと安心して、俺はすぐに他の生徒たちが集まっているところに移動した。フィーオ、ルーシア、レオの三人以外の生徒は、ろくに戦う力がなさそうで、ただすみっこで肩を寄せ合い、おびえているだけだった。俺もそれに混じっちゃお、えへへ。

「あー、トモキ君ずるーい! 強いのに、戦闘さぼってるー」

 と、そっちに移動したところで、ラティーナがケチをつけてきた。

「うっせーな。俺はこっちの守備担当なんだよ」

 適当に答えた。

「ああ、そうですね。トモキさ……んが一緒だと心強いです」

 と、近くにいたユリィが、俺をまた「トモキ様」呼ばわりしそうになりながら言った。うふふ、ユリィのやつ、俺との約束ちゃんと守ってくれてるんだな、うれしいなあ。

「まったくです。トモキ君の近くならすごく安全ですよね」

 いつのまにかこっちに移動していたリュクサンドールも、何か勝手に俺の存在に安心しているようだった。殺しても死なない男のくせにな。

「あ、そっか、トモキ君って、こっちのほうが危ないってわかったから、移動してきたんだね?」

 と、ラティーナは突然、にっこり笑って俺に言った。

「『こっちのほうが危ない』? どういう意味だよ、ラティーナ」
「だってそうだもん」
「答えになってないぞ。説明しろ――」

 と、俺が言いかけたところで、

 ドーッオオオンッ!

 またしても建物の屋根をぶち破ってモンスターたちが飛来してきた!

 しかも、モンスターが落ちてきたのは、今度は俺たちのすぐ目の前だった。しかもしかも、ネムたちが相手している連中より数が多いっぽいし、ダイヤモンドガーゴイルとか、アイスドレイク(氷の竜だ)とか、戦闘力も高いガチメンツっぽい!

「ほーら、言ったじゃない、トモキ君?」

 ラティーナは超絶危機的状況にもかかわらず、ドヤ顔で俺に振り返る。

「……クソが!」

 何かゴチャゴチャ口答えしている暇はなかった。目の前に敵がいるのだ。他はともかく、ユリィだけは絶対に守らないと! 俺はすぐに前に飛び出した。
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