上 下
143 / 436
2章 ドノヴォン国立学院編

142 武術の授業 Part 9

しおりを挟む
「不審物は、リボンのかけられた小さな箱でした。包み紙はとってもファンシー。ウスラトンカチのリュクサンドール教諭は何の疑問もなくそれを開けてしまったそうですが、中身はなんと毒入りのお菓子だったんですヨ!」
「え、いや、毒入りなわけは……」

 ルーシアは急におろおろしはじめた。やっぱりこいつがあのお菓子を贈った張本人だったのか。俺はニヤリと笑った。ネムのやつ、ここでその話を切り出してくるとは、なんという腐れ外道だろう。ルーシアにとってはきっと、誰にも知られたくないことだろうにな。さすが俺のゴミ魔剣様だ。俺にできないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるッ!

「なんの罪もない教諭に、毒入りのお菓子を二度も送りつけるとは、なんと卑劣極まりない行為なのでショウ! ねえ、そこのガールもそう思うでショウ! これはモー、殺人未遂事件といっちゃっていいんじゃないカナー? カナー?」
「そ、そうですね……」

 完全に調子づいているネムとは裏腹に、ルーシアは額に汗をにじませ、焦りをあらわにしている。

「実はここだけの話、同封されていたメッセージカードなどを鑑定した結果、すでに犯人は特定されているわけなのですヨ」
「え!」
「うっふ、犯人はこの学院の女子生徒さんでしたネー。名前はなんといいましたかネー? ここでそれを言っちゃうのはその生徒さんのプライバシーを侵害するような気もしますケド、そこのガールはワタシのプライベートなエピソードをさんざん小ばかにしくさったようですし、ワタシとしては、そんな配慮はいらないんじゃないかって気がするんですヨネー? ネー?」
「い、いや、あの……」
「このままぬるっと捜査情報漏洩、しちゃおっかナー?」
「そ、それはやめてさしあげたほうがいいでしょう!」

 ルーシアはもはや、完全に追い詰められた袋のネズミだった。

「か、彼女にも何か考えがあって、先生に贈り物をしただけでしょうし。毒入りなのも、きっと何かの間違い――」
「ハア? もしかして、アナタ、事件性はないと主張なさる気ですかい?」
「し、知りません、そんなの! ただ、先生には毒なんて効くはずないし、贈った誰かもそれぐらいはわかってるはずだし……」

 ごにょごにょ。ルーシアの言葉の歯切れはかつてないほど悪い。言葉遣いもなんだか子供っぽくなってるし。どんだけ動揺してるんだよ。

「ま、そうデスネー。事件性があるのかどうか、まだハッキリしないところもありますし? ただの好意のあらわれの贈り物だとしたら、ここでその女子生徒の名前を言っちゃうのはかわいそうかもしれませんネー」

 と、ネムはニヤリと、また不気味に笑った。

「つまり、ワタシはその女子生徒のプライバシーというものを尊重してあげるわけなのデスネ? なので、そこのガール、アナタも、ワタシのプライベートなエピソードを尊重し、ワタシにスミスとの約束を守らせてやってもいいんじゃないですかネ?」
「そ、そうです、ね……」

 ルーシアは苦渋の顔でうなずき、手にしていた絶対安全魔剣を台の上に戻した。

 うっふっふ、今度こそ勝った! ざまあないな、クラス委員長様! イキってチート魔剣様にたてつくからこうなるんだよ! 俺は心の底から快哉を叫ぶ思いだった。やっぱり、俺の相棒のネム様、マジぱねえ……。

 と、俺が勝利の美酒に酔いしれていた、そのとき、

「うわああっ!」

 という叫び声と共に、誰かが、開け放たれていた扉から俺たちのいる建物内に飛び込んできた。

 見るとそれは――リュクサンドールだった。しかも、その周りには大量にカラスがいて、カアカア鳴きながら、やつに襲い掛かっているようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...