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2章 ドノヴォン国立学院編
132 DIYはそろそろアニメになっていい
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魔術の授業が終わると、次は歴史の授業だった。そして、その次の三時間目は、いよいよ呪術の授業だった。なんでも、選択授業で週に一度しかないため、これから二時間ぶっ続けらしい。
選択授業は三組の生徒と一緒に専用の教室で受けることになっており、二時間目が終わった直後から、生徒たちはそれぞれの選んだ教科の教室に散って行った。この学校の選択授業は四つあり、音楽、美術、DIY、呪術だった。一番人気はDIYらしい。そして、圧倒的不人気が呪術らしい。まあ、その理由はいやというほどわかる……。というか、なぜ俺は自動的に呪術の授業を選択したことになっているのか。高い金を払って入った学校なんだし、どうせならDIY(日曜大工のオサレな言い方だぞ!)の授業で、家具やら小物やら作ってみたかった……。
しかも、呪術の授業をやるのは、リュクサンドールの住みついているオンボロ木造校舎の一階にある部屋だった。そこに入ってみると、来ている生徒の数は十人前後くらいで、三組と合同の授業にも関わらず、異常に少なく、まともな机や椅子もなかった。木箱が生徒の数だけ置かれており、その前に座布団のようなものもあった。これが生徒が使う席らしい。江戸時代の寺子屋かよ。
ただ、一応は担任をやっているということもあり、俺のいる一年四組からは、知った顔はだいたい来ているようだった。おそらくは選択の余地なくぶち込まれた新規編入組の俺、フィーオ、ユリィ、それに、ヤギ、ラティーナ、ルーシアもここにいた。また、三組からはあのチビの不良、ザックも来ていた。今日は右腕に包帯を巻いて、首からつるしていたが。怪我でもしたのか。
適当に席を選んで座ると、やがてリュクサンドールもやってきた。
「みなさん、今日も楽しく呪術を勉強しましょうね!」
やつは担任をやっているときよりも、相当テンション高めのようだった。
とりあえず、俺は手を上げ、
「先生、俺、呪術じゃなくてDIYの授業を受けたいんですけど」
ダメもとで聞いてみたが、
「いやー、DIYの教室は席が余ってないんですよね。残念ですねー」
予想通り、さらっとかわされてしまった。
「じゃあ、音楽」
「それも余ってないですね」
「じゃあ、美術」
「うーん、残念。そこもいっぱいだったんですよねー」
あからさまな嘘で押し切られてしまった。チクショウ、なんて汚い男だ。学費返せよ。
「トモキ君、DIYの教室って、ここよりうーんと広くて、先生も二人いて、それぞれ拡声器持って授業してるんだよー」
近くの席のラティーナがこっそり教えてくれた。このあばら屋の授業とは大違いのようだ。
「先生、俺やっぱりDIYの教室に行きま――」
「はは、もう手遅れですよ、トモキ君。君たちの呪術の教材はすでに用意されているのですから!」
リュクサンドールはそう言うと、俺たち新規編入組に、すばやく呪術の教科書を配って回った。
「そもそも、DIYなんかに励んで、心を建設的にしてどうするのですか? 若いうちこそ、もっと暗鬱とした気持ちに身をゆだねて、落ちぶれてしまいましょう。心に自分だけの闇を育ててこそ、呪術は光り輝くものなのですよ」
「は、はあ……」
この男、しょっぱなから意味わからんこと言いすぎだろ。つれえ。
まあ、とりあえず、俺はもう観念して、そのまま呪術の授業を受けることにした。一応、俺もハードに呪われている身の上だし、何か役に立つ知識が得られるかもしれないし。
ただ、教科書の内容をそのまま解説している間はまだマシだったが、途中の雑談じみた話が、やはり相当おかしかった。
「……さて、みなさんは、ここまで僕の話を聞いて、さぞや呪術を使いたくてたまらなくなったことでしょうね」
いや、それはねーから。
「しかし、呪術というのは実に悲しいことに、ほとんどの国で禁術として使用を禁止されているものなのです。使っちゃダメなんですよ、絶対に」
ならなぜお前はそんなもんを生徒に教えてるんだ。
「ただ、ここだけの話、呪術を禁止してない小さい国もいくつかあってですね、僕も若いころ、そういう国で呪術の修行をしてたわけなんですよ。禁止されてないから、思う存分に使える、そう思って、いろんな術をたくさん使って、そりゃもう、楽しい日々でした。しかし、ある日、僕は現地の部族に邪悪な存在として目をつけられてしまい、昼間、棺桶の中で眠っていたところに、口からドロドロに溶けた鉛を流し込まれ、棺桶ごと谷底に捨てられてしましました。いやあ、あのときはお気に入りの棺桶が大破してすごく悲しかったですね。みなさんも、そんなことにならないよう、物は大切に使ってくださいねー」
だから、なんでこの男の狂った話は着地点がおかしいんだよ。溶けた鉛を口から流し込まれるってどういう体験だよ。
また、さらに、
「……正直、お恥ずかしいことに、僕は過去に三回ほど、こっそり呪術を使っちゃったのがバレて、討伐対象になってしまったことがありましてね」
前科三犯だと、いきなりぶっちゃける男である。しかも、こいつの場合、逮捕じゃなくて討伐されるのかよ。
「最後に討伐されかけたのは、砂漠の真ん中で呪術を使ったときでした。そこなら誰にも迷惑かけないだろうと思ったんですが、近くのオアシスをうっかり呪術で枯らしてしまったみたいだったんですね。それで、当時勤めていたモメモ大学もクビになってしまって、ドノヴォン聖騎士団も総出で僕の討伐に乗り出してきまして、なんやかんやひと悶着ありまして、女帝陛下の大いなる祝福をこの身に頂戴して浄化されそうにもなったんですが、あきらめて素直に捕まって、反省文を書いて提出したら、大目に見てもらえて釈放されました。いやー、陛下がおやさしくて本当によかったです」
着地点というか、もうなんか話の流れが全部おかしいんだが? 女帝様の大いなる祝福ってのもなんだよ?
「トモキ、大いなる祝福というのは、聖ドノヴォン帝国の処女女帝が『ニニアの寵愛』と共に受け継ぐ、三つの最高位神聖魔法の一つだ。あらゆる不浄なる者を滅する力があるという」
と、首をかしげていると、近くのヤギが教えてくれた。というか、人数が異常に少ないので、誰とでも席が近いんだが。
「あらゆる不浄なる者を滅するって……それを食らったっていう不死族教師は、今も元気に授業やってるみたいなんだが?」
「前にも言っただろう、あの先生は色々おかしいと」
「色々っつうか、ほぼ全部おかしくないか、アイツ?」
「…………」
ヤギは気まずそうに沈黙するだけだった。うん、やっぱ全部おかしいよね、アイツ。
選択授業は三組の生徒と一緒に専用の教室で受けることになっており、二時間目が終わった直後から、生徒たちはそれぞれの選んだ教科の教室に散って行った。この学校の選択授業は四つあり、音楽、美術、DIY、呪術だった。一番人気はDIYらしい。そして、圧倒的不人気が呪術らしい。まあ、その理由はいやというほどわかる……。というか、なぜ俺は自動的に呪術の授業を選択したことになっているのか。高い金を払って入った学校なんだし、どうせならDIY(日曜大工のオサレな言い方だぞ!)の授業で、家具やら小物やら作ってみたかった……。
しかも、呪術の授業をやるのは、リュクサンドールの住みついているオンボロ木造校舎の一階にある部屋だった。そこに入ってみると、来ている生徒の数は十人前後くらいで、三組と合同の授業にも関わらず、異常に少なく、まともな机や椅子もなかった。木箱が生徒の数だけ置かれており、その前に座布団のようなものもあった。これが生徒が使う席らしい。江戸時代の寺子屋かよ。
ただ、一応は担任をやっているということもあり、俺のいる一年四組からは、知った顔はだいたい来ているようだった。おそらくは選択の余地なくぶち込まれた新規編入組の俺、フィーオ、ユリィ、それに、ヤギ、ラティーナ、ルーシアもここにいた。また、三組からはあのチビの不良、ザックも来ていた。今日は右腕に包帯を巻いて、首からつるしていたが。怪我でもしたのか。
適当に席を選んで座ると、やがてリュクサンドールもやってきた。
「みなさん、今日も楽しく呪術を勉強しましょうね!」
やつは担任をやっているときよりも、相当テンション高めのようだった。
とりあえず、俺は手を上げ、
「先生、俺、呪術じゃなくてDIYの授業を受けたいんですけど」
ダメもとで聞いてみたが、
「いやー、DIYの教室は席が余ってないんですよね。残念ですねー」
予想通り、さらっとかわされてしまった。
「じゃあ、音楽」
「それも余ってないですね」
「じゃあ、美術」
「うーん、残念。そこもいっぱいだったんですよねー」
あからさまな嘘で押し切られてしまった。チクショウ、なんて汚い男だ。学費返せよ。
「トモキ君、DIYの教室って、ここよりうーんと広くて、先生も二人いて、それぞれ拡声器持って授業してるんだよー」
近くの席のラティーナがこっそり教えてくれた。このあばら屋の授業とは大違いのようだ。
「先生、俺やっぱりDIYの教室に行きま――」
「はは、もう手遅れですよ、トモキ君。君たちの呪術の教材はすでに用意されているのですから!」
リュクサンドールはそう言うと、俺たち新規編入組に、すばやく呪術の教科書を配って回った。
「そもそも、DIYなんかに励んで、心を建設的にしてどうするのですか? 若いうちこそ、もっと暗鬱とした気持ちに身をゆだねて、落ちぶれてしまいましょう。心に自分だけの闇を育ててこそ、呪術は光り輝くものなのですよ」
「は、はあ……」
この男、しょっぱなから意味わからんこと言いすぎだろ。つれえ。
まあ、とりあえず、俺はもう観念して、そのまま呪術の授業を受けることにした。一応、俺もハードに呪われている身の上だし、何か役に立つ知識が得られるかもしれないし。
ただ、教科書の内容をそのまま解説している間はまだマシだったが、途中の雑談じみた話が、やはり相当おかしかった。
「……さて、みなさんは、ここまで僕の話を聞いて、さぞや呪術を使いたくてたまらなくなったことでしょうね」
いや、それはねーから。
「しかし、呪術というのは実に悲しいことに、ほとんどの国で禁術として使用を禁止されているものなのです。使っちゃダメなんですよ、絶対に」
ならなぜお前はそんなもんを生徒に教えてるんだ。
「ただ、ここだけの話、呪術を禁止してない小さい国もいくつかあってですね、僕も若いころ、そういう国で呪術の修行をしてたわけなんですよ。禁止されてないから、思う存分に使える、そう思って、いろんな術をたくさん使って、そりゃもう、楽しい日々でした。しかし、ある日、僕は現地の部族に邪悪な存在として目をつけられてしまい、昼間、棺桶の中で眠っていたところに、口からドロドロに溶けた鉛を流し込まれ、棺桶ごと谷底に捨てられてしましました。いやあ、あのときはお気に入りの棺桶が大破してすごく悲しかったですね。みなさんも、そんなことにならないよう、物は大切に使ってくださいねー」
だから、なんでこの男の狂った話は着地点がおかしいんだよ。溶けた鉛を口から流し込まれるってどういう体験だよ。
また、さらに、
「……正直、お恥ずかしいことに、僕は過去に三回ほど、こっそり呪術を使っちゃったのがバレて、討伐対象になってしまったことがありましてね」
前科三犯だと、いきなりぶっちゃける男である。しかも、こいつの場合、逮捕じゃなくて討伐されるのかよ。
「最後に討伐されかけたのは、砂漠の真ん中で呪術を使ったときでした。そこなら誰にも迷惑かけないだろうと思ったんですが、近くのオアシスをうっかり呪術で枯らしてしまったみたいだったんですね。それで、当時勤めていたモメモ大学もクビになってしまって、ドノヴォン聖騎士団も総出で僕の討伐に乗り出してきまして、なんやかんやひと悶着ありまして、女帝陛下の大いなる祝福をこの身に頂戴して浄化されそうにもなったんですが、あきらめて素直に捕まって、反省文を書いて提出したら、大目に見てもらえて釈放されました。いやー、陛下がおやさしくて本当によかったです」
着地点というか、もうなんか話の流れが全部おかしいんだが? 女帝様の大いなる祝福ってのもなんだよ?
「トモキ、大いなる祝福というのは、聖ドノヴォン帝国の処女女帝が『ニニアの寵愛』と共に受け継ぐ、三つの最高位神聖魔法の一つだ。あらゆる不浄なる者を滅する力があるという」
と、首をかしげていると、近くのヤギが教えてくれた。というか、人数が異常に少ないので、誰とでも席が近いんだが。
「あらゆる不浄なる者を滅するって……それを食らったっていう不死族教師は、今も元気に授業やってるみたいなんだが?」
「前にも言っただろう、あの先生は色々おかしいと」
「色々っつうか、ほぼ全部おかしくないか、アイツ?」
「…………」
ヤギは気まずそうに沈黙するだけだった。うん、やっぱ全部おかしいよね、アイツ。
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