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2章 ドノヴォン国立学院編
126 勇者、イケメェェンに落ちかける
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その後、魔術の実技のテストは再開され、結局、俺とユリィは何も魔法を発揮できないまま終わった。チビの不良のザック君は、それなりに派手な電撃魔法を披露していたが。
やがて、テストはすべて終わり、俺たちは一年四組の教室に戻って、四時間目の授業を受けた。数学の時間だった。教えている内容は日本の高校とあまり変わらないようだったが、ゆえに俺にはちんぷんかんぷんだった。数学は苦手なのだ。前世の勇者時代はもちろんのこと、きっと前々前世くらいから苦手。
というわけで、授業中、俺は隣の席のヤギとメモの交換をした。
『レオ、さっきは助かったぜ。嘘ついてまで俺のことかばってくれて、サンキュー』
まあ、正直なお礼の手紙だ。
『礼にはおよばない。俺が自分の判断で勝手にしたことだ』
返事もさすがのイケメェェンだった。
『でも、嘘ついたせいで、お前まで変な誤解受けただろ。あれはさすがにイヤじゃねえか?』
『俺はお前の頭に登るのが好きだ。そういう意味では誤解ではないだろう』
『いや、お前、あきらかに、俺の頭じゃなくて違うところ攻略してるように思われてただろ!』
『お前の人体のすべては、お前の頭頂に通じていて、俺はそこを目指して登攀する。何の間違いも誤解もない。俺はただ、登るだけだ! この蹄にかけて!』
その返事のメモには、なぜかまた蹄を強く押し付けたような跡が残っていた。くそう、このヤギ。登ることに固執しすぎて、細かいことはどうでもよくなっているようだ。誤解を解く気ないのかよ。
まあ、いいか。誤解を解いたら解いたで、最終的に俺の正体がハリセン仮面だとバレてしまう可能性がある。どうせ一か月しかいない学校だしな。ここは周りに何を言われようと我慢するしか……。
と、俺がぼんやり考えてると、今度はヤギのほうからメモが飛んできた。
『ただ、俺としてはどうしても気がかりなことが一つある。トモキ、お前は本当に、ハリセン仮面ではないのか?』
げえっ! やっぱまだ疑われてるぅ!
『そんなわけないだろ! 強さはともかく、俺が軍を相手に暴れまわる動機がねーっての!』
あわてて弁明のメモを書いて、返す。
『まあそうなのだろうが、あの岩を感情的に壊したお前の行動を見ると、何か一時的な衝動にかられて、ハリセン仮面のようなことをしても不思議はないと思えてな』
ぐううっ! まったくその通りすぎる答えが返ってきちゃったあっ!
と、俺がヤギの慧眼に震撼していると、さらにメモが送られてきた。
『ただ、俺としてはたとえお前がハリセン仮面だとしても、たいした問題には感じないが』
あ、あれ? なんかあったけえ言葉が……。
『どういう意味だよ、レオ。ハリセン仮面っつうのは、高額懸賞金がかけられている凶悪犯だぞ』
『人の社会においては、それだけ大きなことなのだろう。しかし、ハリセン仮面のやったようなことは、俺たちの世界ではそう珍しくはない。強者が弱者を蹂躙し、食い物にする。実に当たり前の自然の摂理だ。ゆえに、俺はハリセン仮面というものが、それほど悪には思えないのだ』
なるほど。野性みなぎるケモノらしい考えだ。
さらに、メモは送られてきた。
『そして、そんなハリセン仮面がお前であっても、俺はお前に対する感謝の気持ちが揺らぐことはない』
『感謝の気持ち? 頭の上に登らせてくれてありがとうってことか?』
『それももちろんあるが、それだけではない。お前は勇者アルドレイなのだろう。すなわち、あの忌まわしい竜を倒し、世界を救った男だ。それも二度も。この世界に生きるもので、これに感謝しないものはそうはいないだろう。俺もだ。お前があの竜を倒してくれたおかげで、この世界の空気はどれだけ清浄になったことだろう。心から礼を言う。ありがとう、トモキ』
あ、あれ? 俺が最初にお礼のメモを送ったはずなのに、なんかめっちゃ感謝されちゃった……。
『いや、でも、お前モンスターじゃん。人間じゃないじゃん?』
『モンスターという呼び名は、しょせん人間が、自分たちとは違う存在を指して言っているだけのものだ。その中にもいろいろな種族がいるのだ』
なるほど。そういえば、前にユリィに聞いたことがあったな。あの竜の「混沌と滅びの浸食」とかいう邪悪な力の影響を受けてないモンスターもいると。おそらく目の前のヤギは、聖獣と呼ばれるだけに、はじめからそういう邪悪な力の影響は受けてなかったんだろう。あの竜が死んで世界が清浄になったって、喜んでるっぽいし。
『俺の旧い友人、ファニファも、お前の功績には深く感謝している』
ふうん? ヤギ友達も同じ意見らしい。一族総出で俺に感謝してるってことかな。いやー、まいったなー、はは。
『ゆえに、俺は思うのだ。お前が救って清めた世界だ。その片隅で、お前がハリセン仮面として少しばかり暴れようとも、何の罪になるのだろうと。むしろ、それぐらいのことをしても許される権利はあるのではないかと』
おおっ! なんかしらんけど、俺、ヤギ様に罪を許されちゃったあっ!
『トモキ、お前がハリセン仮面かどうかは、俺には気がかりなことではあるが、これ以上追及するつもりはない。お前は俺の友人であり、勇者アルドレイであるのだからな。お前がたとえハリセン仮面であったとしても、この事実は揺るがない。俺は、お前が何者であろうとも、お前を決して見限ったりはしない。お前のすべてを受け入れる』
やべえ。このヤギ、マジでイケメェェンすぎる……。俺、なんか今、胸がキュンッ!としちゃったんですけど! 相手はどう見てもただの黒ヤギなのにさ!
『ありがとう、レオ。お前のその心遣い、助かるよ』
とりあえず、胸に湧き上がったトキメキを隠して、無難な感じの返事を送った。
『礼にはおよばない。俺は先ほどから至極当然なことしか言ってないのだからな』
と、その返事をよこしたところで、ヤギは前と同じように、目の前に散らばった使用済みのメモ紙をもしゃもしゃと食べ始めた。
あ、こいつ、やっぱただのヤギじゃん……。
ときめいて損しちゃったわよ、もー。とりあえず、俺も手元に残ったメモ紙を隣のヤギさんに食べさせてあげた。餌付けは大事だからな。
やがて、テストはすべて終わり、俺たちは一年四組の教室に戻って、四時間目の授業を受けた。数学の時間だった。教えている内容は日本の高校とあまり変わらないようだったが、ゆえに俺にはちんぷんかんぷんだった。数学は苦手なのだ。前世の勇者時代はもちろんのこと、きっと前々前世くらいから苦手。
というわけで、授業中、俺は隣の席のヤギとメモの交換をした。
『レオ、さっきは助かったぜ。嘘ついてまで俺のことかばってくれて、サンキュー』
まあ、正直なお礼の手紙だ。
『礼にはおよばない。俺が自分の判断で勝手にしたことだ』
返事もさすがのイケメェェンだった。
『でも、嘘ついたせいで、お前まで変な誤解受けただろ。あれはさすがにイヤじゃねえか?』
『俺はお前の頭に登るのが好きだ。そういう意味では誤解ではないだろう』
『いや、お前、あきらかに、俺の頭じゃなくて違うところ攻略してるように思われてただろ!』
『お前の人体のすべては、お前の頭頂に通じていて、俺はそこを目指して登攀する。何の間違いも誤解もない。俺はただ、登るだけだ! この蹄にかけて!』
その返事のメモには、なぜかまた蹄を強く押し付けたような跡が残っていた。くそう、このヤギ。登ることに固執しすぎて、細かいことはどうでもよくなっているようだ。誤解を解く気ないのかよ。
まあ、いいか。誤解を解いたら解いたで、最終的に俺の正体がハリセン仮面だとバレてしまう可能性がある。どうせ一か月しかいない学校だしな。ここは周りに何を言われようと我慢するしか……。
と、俺がぼんやり考えてると、今度はヤギのほうからメモが飛んできた。
『ただ、俺としてはどうしても気がかりなことが一つある。トモキ、お前は本当に、ハリセン仮面ではないのか?』
げえっ! やっぱまだ疑われてるぅ!
『そんなわけないだろ! 強さはともかく、俺が軍を相手に暴れまわる動機がねーっての!』
あわてて弁明のメモを書いて、返す。
『まあそうなのだろうが、あの岩を感情的に壊したお前の行動を見ると、何か一時的な衝動にかられて、ハリセン仮面のようなことをしても不思議はないと思えてな』
ぐううっ! まったくその通りすぎる答えが返ってきちゃったあっ!
と、俺がヤギの慧眼に震撼していると、さらにメモが送られてきた。
『ただ、俺としてはたとえお前がハリセン仮面だとしても、たいした問題には感じないが』
あ、あれ? なんかあったけえ言葉が……。
『どういう意味だよ、レオ。ハリセン仮面っつうのは、高額懸賞金がかけられている凶悪犯だぞ』
『人の社会においては、それだけ大きなことなのだろう。しかし、ハリセン仮面のやったようなことは、俺たちの世界ではそう珍しくはない。強者が弱者を蹂躙し、食い物にする。実に当たり前の自然の摂理だ。ゆえに、俺はハリセン仮面というものが、それほど悪には思えないのだ』
なるほど。野性みなぎるケモノらしい考えだ。
さらに、メモは送られてきた。
『そして、そんなハリセン仮面がお前であっても、俺はお前に対する感謝の気持ちが揺らぐことはない』
『感謝の気持ち? 頭の上に登らせてくれてありがとうってことか?』
『それももちろんあるが、それだけではない。お前は勇者アルドレイなのだろう。すなわち、あの忌まわしい竜を倒し、世界を救った男だ。それも二度も。この世界に生きるもので、これに感謝しないものはそうはいないだろう。俺もだ。お前があの竜を倒してくれたおかげで、この世界の空気はどれだけ清浄になったことだろう。心から礼を言う。ありがとう、トモキ』
あ、あれ? 俺が最初にお礼のメモを送ったはずなのに、なんかめっちゃ感謝されちゃった……。
『いや、でも、お前モンスターじゃん。人間じゃないじゃん?』
『モンスターという呼び名は、しょせん人間が、自分たちとは違う存在を指して言っているだけのものだ。その中にもいろいろな種族がいるのだ』
なるほど。そういえば、前にユリィに聞いたことがあったな。あの竜の「混沌と滅びの浸食」とかいう邪悪な力の影響を受けてないモンスターもいると。おそらく目の前のヤギは、聖獣と呼ばれるだけに、はじめからそういう邪悪な力の影響は受けてなかったんだろう。あの竜が死んで世界が清浄になったって、喜んでるっぽいし。
『俺の旧い友人、ファニファも、お前の功績には深く感謝している』
ふうん? ヤギ友達も同じ意見らしい。一族総出で俺に感謝してるってことかな。いやー、まいったなー、はは。
『ゆえに、俺は思うのだ。お前が救って清めた世界だ。その片隅で、お前がハリセン仮面として少しばかり暴れようとも、何の罪になるのだろうと。むしろ、それぐらいのことをしても許される権利はあるのではないかと』
おおっ! なんかしらんけど、俺、ヤギ様に罪を許されちゃったあっ!
『トモキ、お前がハリセン仮面かどうかは、俺には気がかりなことではあるが、これ以上追及するつもりはない。お前は俺の友人であり、勇者アルドレイであるのだからな。お前がたとえハリセン仮面であったとしても、この事実は揺るがない。俺は、お前が何者であろうとも、お前を決して見限ったりはしない。お前のすべてを受け入れる』
やべえ。このヤギ、マジでイケメェェンすぎる……。俺、なんか今、胸がキュンッ!としちゃったんですけど! 相手はどう見てもただの黒ヤギなのにさ!
『ありがとう、レオ。お前のその心遣い、助かるよ』
とりあえず、胸に湧き上がったトキメキを隠して、無難な感じの返事を送った。
『礼にはおよばない。俺は先ほどから至極当然なことしか言ってないのだからな』
と、その返事をよこしたところで、ヤギは前と同じように、目の前に散らばった使用済みのメモ紙をもしゃもしゃと食べ始めた。
あ、こいつ、やっぱただのヤギじゃん……。
ときめいて損しちゃったわよ、もー。とりあえず、俺も手元に残ったメモ紙を隣のヤギさんに食べさせてあげた。餌付けは大事だからな。
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