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2章 ドノヴォン国立学院編
105 クラス委員長様と再会
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やがて、朝のホームルームは終わり、リュクサンドールは教室を出て行ってしまった。このあと、五分休憩ののち一時間目の授業が始まる――はずだったが、
「ねえねえ、君たち、どうして三人まとめて転校してきたの?」
当然のように、俺たちはクラスメートたちに囲まれ、質問攻めにあうことになった。ま、こういうのはお約束みたいなもんか。ただ、雑に名前しか紹介されなかったせいか、ほとんどの連中は、俺たちがどこかの学校から転校してきたと思っているようだった。まあ、俺の場合は当たらずとも遠からずではあるが。日本の高校通ってたしな。
ただ、ユリィとフィーオはそうじゃないし、いろいろ説明がめんどくさいので、俺は適当にクラスの連中にこう答えた。
「ああ、俺たちは別に学生やってたわけじゃないんだ。実は、つい最近まで三人で冒険者やってたんだけど、例の勇者様のせいで、失業してヒマになっちまったからな。いい機会だし、ヤクザな世界からは足を洗って、カタギになろうって考えて、学校に通うことにしたんだよ」
ふふん。我ながらなんと完璧な説明であるかー! これなら、俺が多少勉強できない子でも一応恰好がつくし、君たちひ弱な学生とは違う、特別な存在であることもアピールできる! 実際、失業した冒険者が社会問題になりかけているこのご時世だしなー。
「へえ、冒険者だったんだ!」
「すごいなあ! モンスターと戦ってたんだね!」
クラスの連中の反応は予想通りだった。みんな、いっせいに俺たちを尊敬とあこがれのまなざしで見始めた。まあ、そりゃそうだろう。ここは学費の高い名門校とかいうだけあって、親に箱入りで大事に育てられたやつらしかいなさそうだしな。
「トモキ君だっけ、君、もしかしてすごく強い?」
「ま、そこそこかな」
ノリと勢いで軽く世界救っちゃうレベルの「そこそこ」だけどナー。ふふん。
「編入の手続きのとき、モノクルで武術の数値調べたでしょ。いくつだった?」
「ああ、俺の場合は、計測途中でそれが故障しちまってな。よくわかんねえンだわ」
「えっ、それはつまり、君の数値が高すぎて演算結果がオーバーフローしてクラッシュしたんじゃ」
「いやあ、どうなのかなー。単に機械の調子が悪かっただけなのかもなあ」
かー! 元最強勇者様であること隠して、これからは普通の学生のふりしてなきゃいけないとか、つれーわ! まじつれーわ! にやにやしながら、適当にごまかすしかない俺だった。
「あ、そういえば、君もすごいよね。今朝、職員室で先生たちが話してたのを聞いたけど、魔力検査であの水晶壊しちゃったんでしょ!」
と、そこで俺を囲んでいる男子の一人が、遠くの席のユリィのほうを向いた。ユリィたちのほうも、女子連中にすっかり囲まれていた。
「君、確か、そこのフィーオ君って子と一緒にドラグーンウィッチってのを目指してるんだっけ? やっぱりすごく優秀なんだね!」
「テストの点数もよかったし。魔力がすごいだけじゃなくて、頭もいいんだなあ」
「それに、かわ……いや、なんでもない」
と、男子の一人があわてて口を手で押さえた。こいつ、かわいい、って言いたかったんだな。まあ、実際ユリィはそうなんだけどな! 見ると、今は女子連中に囲まれ、さらに遠くから男子連中に熱いまなざしを浴びて、ユリィはすっかりゆでだこのように赤くなっている。うん、やっぱりかわいい。赤いブレザー風の制服も予想以上に似合っていて、かわいい。その様子を見ていると、俺もちょっと顔がにやけてしまう……。えへへ。
と、しかし、そのとき、
「ユリィさん、またこんなところで顔を合わせるとは奇遇ですね」
少し離れたところから、金髪碧眼の少女がユリィのほうに近づいてきた。その顔と、ツンとした態度は見覚えがあった。ルーシアだ。そういえば、こいつはリュクサンドールのクラスの生徒だっけ。さらに、ルーシアの背後には、その下僕のように三人ほど地味な女子が控えていて、何か険悪な表情でユリィをにらんでいるようだ。
「先ほどのリュクサンドール先生のお話、すばらしいですね。今まで冒険者をしていたのに、あんなによい成績をおさめるなんて」
ルーシアは言葉でこそユリィをベタ褒めだったが、その声音は慇懃無礼というか、すごくトゲがある感じだった。
「きっと、とてもよい先生に師事されていたのでしょうね」
「はい。お師匠様のところで、ずっと勉強してましたから……」
なるほど。ユリィってば、魔法が使えなくても、三年間、勉強はしっかりしてたんだな。真面目な奴だもんなあ。かわいいし。料理もうまいし。かわいいし。
「そうですか。しかし、編入してきたばかりで、この学院のことでわからないことも多いでしょう」
ルーシアはそこでずいっとユリィに近づいた。
「よければ、クラス委員長である私が、この学院のことについていろいろ教えて差し上げましょう」
「ありがとうございます」
「では、今日のお昼休みに、校舎裏の大きなニレの木の前までいらしてください。お一人で」
ルーシアの口調は高圧的で、うむを言わせない迫力があった。ユリィはそれに気おされるように、反射的に「は、はい」と答えた。ってか、何気にルーシアのやつ、フィーオはガン無視かよ。
「では、今日のお昼休み、楽しみにしてますね」
ルーシアと、その取り巻きの女子たちは、ユリィの前から去って行った。やがてすぐに、一時間目の始業の鐘が鳴り、他の生徒たちも自分の席に戻った。
「なんかめっちゃ感じ悪かったんだが、あいつユリィに何する気だよ」
ふと、気になって、隣のヤギ君に小声で尋ねてみた。
「さあな。ただ、ルーシアはこの学院に入学して以来、ずっと成績は学年一位の優等生でな。この間の中間テストも、六教科合計五百九十二点で学年トップだったはずだ」
「へえ、五百九十二点で学年トップねえ……って、ユリィより点数悪いじゃねえか」
「そうだな。だから、彼女なりにいろいろ思うところはあるのだろう」
「なるほど。あいつ、自分より優秀な女が編入してきてイラついてんのか」
何よりかわいいしなあ、ユリィは。同性の嫉妬の的になるのもわかる気がするぜ。
「ねえねえ、君たち、どうして三人まとめて転校してきたの?」
当然のように、俺たちはクラスメートたちに囲まれ、質問攻めにあうことになった。ま、こういうのはお約束みたいなもんか。ただ、雑に名前しか紹介されなかったせいか、ほとんどの連中は、俺たちがどこかの学校から転校してきたと思っているようだった。まあ、俺の場合は当たらずとも遠からずではあるが。日本の高校通ってたしな。
ただ、ユリィとフィーオはそうじゃないし、いろいろ説明がめんどくさいので、俺は適当にクラスの連中にこう答えた。
「ああ、俺たちは別に学生やってたわけじゃないんだ。実は、つい最近まで三人で冒険者やってたんだけど、例の勇者様のせいで、失業してヒマになっちまったからな。いい機会だし、ヤクザな世界からは足を洗って、カタギになろうって考えて、学校に通うことにしたんだよ」
ふふん。我ながらなんと完璧な説明であるかー! これなら、俺が多少勉強できない子でも一応恰好がつくし、君たちひ弱な学生とは違う、特別な存在であることもアピールできる! 実際、失業した冒険者が社会問題になりかけているこのご時世だしなー。
「へえ、冒険者だったんだ!」
「すごいなあ! モンスターと戦ってたんだね!」
クラスの連中の反応は予想通りだった。みんな、いっせいに俺たちを尊敬とあこがれのまなざしで見始めた。まあ、そりゃそうだろう。ここは学費の高い名門校とかいうだけあって、親に箱入りで大事に育てられたやつらしかいなさそうだしな。
「トモキ君だっけ、君、もしかしてすごく強い?」
「ま、そこそこかな」
ノリと勢いで軽く世界救っちゃうレベルの「そこそこ」だけどナー。ふふん。
「編入の手続きのとき、モノクルで武術の数値調べたでしょ。いくつだった?」
「ああ、俺の場合は、計測途中でそれが故障しちまってな。よくわかんねえンだわ」
「えっ、それはつまり、君の数値が高すぎて演算結果がオーバーフローしてクラッシュしたんじゃ」
「いやあ、どうなのかなー。単に機械の調子が悪かっただけなのかもなあ」
かー! 元最強勇者様であること隠して、これからは普通の学生のふりしてなきゃいけないとか、つれーわ! まじつれーわ! にやにやしながら、適当にごまかすしかない俺だった。
「あ、そういえば、君もすごいよね。今朝、職員室で先生たちが話してたのを聞いたけど、魔力検査であの水晶壊しちゃったんでしょ!」
と、そこで俺を囲んでいる男子の一人が、遠くの席のユリィのほうを向いた。ユリィたちのほうも、女子連中にすっかり囲まれていた。
「君、確か、そこのフィーオ君って子と一緒にドラグーンウィッチってのを目指してるんだっけ? やっぱりすごく優秀なんだね!」
「テストの点数もよかったし。魔力がすごいだけじゃなくて、頭もいいんだなあ」
「それに、かわ……いや、なんでもない」
と、男子の一人があわてて口を手で押さえた。こいつ、かわいい、って言いたかったんだな。まあ、実際ユリィはそうなんだけどな! 見ると、今は女子連中に囲まれ、さらに遠くから男子連中に熱いまなざしを浴びて、ユリィはすっかりゆでだこのように赤くなっている。うん、やっぱりかわいい。赤いブレザー風の制服も予想以上に似合っていて、かわいい。その様子を見ていると、俺もちょっと顔がにやけてしまう……。えへへ。
と、しかし、そのとき、
「ユリィさん、またこんなところで顔を合わせるとは奇遇ですね」
少し離れたところから、金髪碧眼の少女がユリィのほうに近づいてきた。その顔と、ツンとした態度は見覚えがあった。ルーシアだ。そういえば、こいつはリュクサンドールのクラスの生徒だっけ。さらに、ルーシアの背後には、その下僕のように三人ほど地味な女子が控えていて、何か険悪な表情でユリィをにらんでいるようだ。
「先ほどのリュクサンドール先生のお話、すばらしいですね。今まで冒険者をしていたのに、あんなによい成績をおさめるなんて」
ルーシアは言葉でこそユリィをベタ褒めだったが、その声音は慇懃無礼というか、すごくトゲがある感じだった。
「きっと、とてもよい先生に師事されていたのでしょうね」
「はい。お師匠様のところで、ずっと勉強してましたから……」
なるほど。ユリィってば、魔法が使えなくても、三年間、勉強はしっかりしてたんだな。真面目な奴だもんなあ。かわいいし。料理もうまいし。かわいいし。
「そうですか。しかし、編入してきたばかりで、この学院のことでわからないことも多いでしょう」
ルーシアはそこでずいっとユリィに近づいた。
「よければ、クラス委員長である私が、この学院のことについていろいろ教えて差し上げましょう」
「ありがとうございます」
「では、今日のお昼休みに、校舎裏の大きなニレの木の前までいらしてください。お一人で」
ルーシアの口調は高圧的で、うむを言わせない迫力があった。ユリィはそれに気おされるように、反射的に「は、はい」と答えた。ってか、何気にルーシアのやつ、フィーオはガン無視かよ。
「では、今日のお昼休み、楽しみにしてますね」
ルーシアと、その取り巻きの女子たちは、ユリィの前から去って行った。やがてすぐに、一時間目の始業の鐘が鳴り、他の生徒たちも自分の席に戻った。
「なんかめっちゃ感じ悪かったんだが、あいつユリィに何する気だよ」
ふと、気になって、隣のヤギ君に小声で尋ねてみた。
「さあな。ただ、ルーシアはこの学院に入学して以来、ずっと成績は学年一位の優等生でな。この間の中間テストも、六教科合計五百九十二点で学年トップだったはずだ」
「へえ、五百九十二点で学年トップねえ……って、ユリィより点数悪いじゃねえか」
「そうだな。だから、彼女なりにいろいろ思うところはあるのだろう」
「なるほど。あいつ、自分より優秀な女が編入してきてイラついてんのか」
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