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2章 ドノヴォン国立学院編

89 仲間をまた増やして次の街へ

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「実は私たちの学院では、ここ最近、この廃村のあたりで子供のゾンビが出るという噂が流れていました」

 と、ルーシアが言うと、

「なので、そんな穏やかじゃない話はほうっておけないということで、学院から僕たちが調査にやってきたというわけです」

 リュクサンドールがさらに説明した。

 なるほど、それでこの呪いオタクは、魔改造ゴブリンの群れを前にして、あんなことを……。あれは一応、ゴブリンを子供のゾンビと勘違いしての行動だったってわけだ。

「まあ、実際には噂はガセで、ゾンビになった子供はいなかったみたいだが、これはこれで、穏やかじゃない案件みたいだぜ?」

 俺は倒れているゴブリンの足首の金属の輪を指さした。

「これは……」

 ルーシアとリュクサンドールはそこで初めて、その存在に気付いたようだった。二人そろってゴブリンのすぐ近くにしゃがみ、注意深くそれを観察し始めた。

「実は、俺たちもゆうべ、ここの近くで、これと同じようなものを足にハメているモンスターに襲われたところなんだよ。そっちはゴブリンじゃなくてトロルだったが」

 俺は懐から、トロルたちから回収した金属の輪を取り出し、二人に見せた。

「俺の剣の解析によると、そいつらは人工的に改造されたモンスターらしいんだが――」
「剣の解析?」

 と、二人はそこで不思議そうに尋ねてきたが、

「あ、いや、そういう解析機能付きの便利な剣で……」

 説明がめんどくさいので適当に流した。まあ、便利どころか、他にもいらん機能がいろいろついてるんだがな。ストーカー機能とかな。

「なるほど。では、このゴブリンたちも、あなたが昨夜遭遇したトロルたちと同じように、何者かによって改造され、凶暴さを増した集団だったのでしょうね」

 ルーシアは冷静に分析する。リュクサンドールが成績優秀と紹介していたように、きっと頭の回転も速いんだろう。

「まあ、そういうわけだから、これはお前たちにやるぜ」

 俺はルーシアたちにトロルから回収した金属の輪をすべて渡した。二人は俺からそれらを受け取ると、さらに近くに倒れているゴブリンの足首からも金属製の輪を回収し始めた。持って帰って調べる気なんだろうか。

 と、そこで、

「あ、あのう、あんたらさっきから何を話して……?」

 ゴブリンの死体を前に放心していた荷馬車の持ち主のおっさんが、正気を取り戻したようだった。

「そもそも、なんで俺はこんなところにいるんだ? 確か、モメモを目指してあの街を出ようとしていたら、お前たちが相乗りさせろと言ってきて、それを断ったはず――」
「あー、そっから記憶が飛んでるんだな、かわいそうに! おお、かわいそうに!」

 俺は困惑しているおっさんの背中を叩いて、大げさな口調で言った。

「おっさん、さっきの話は聞こえてただろ? ゆうべ、俺たちはトロルに襲われたんだよ。そりゃもう、狂暴なやつらでさ、俺たちは必死に戦ったんだが、おっさんを守り切ることはできなかったんだ。気が付いた時には、おっさんはトロルの一匹に頭を強打されてて……うう」
「ま、まさか、それで記憶が飛んでるのか?」
「そうだよ! 全部凶悪なモンスターのせいなんだよ!」
「いやでも、そもそもお前たちの相乗りは断ったはずなんだが――」
「その後、あんた、急に気が変わったんだよ! そんなことも忘れちまったのかよ!」
「ああ、さっぱり覚えてな――」
「思い出せよ! 思い出しちまえよ!」

 俺はそこで、再びゴミ魔剣をそっとおっさんに手渡した。

「アッハイ、確かにアナタとワタシ、そんなエモーショナルなシーンもありましたネー」

 おっさんの目つきはおかしくなったが、物分かりはすこぶるよくなった。思い出してくれて何よりだ、おっさん!

「トモキ様、さすがにこれ以上魔剣さんに体を使わせるのは、この男性に悪いのではないですか?」

 と、そこでユリィが耳打ちしてきた。

「いいんだよ。俺たちがいなかったら、このおっさんは今頃、あのトロルのえさになってたんだし」

 そうそう。謎の凶悪なモンスターがうろついてる中、ただで護衛してやってるんだ。ちょっと記憶が飛ぶぐらい、どうってことないだろ、別に。

「……ところで、今の彼の話を聞く限り、君たちもこれからモメモに向かうところなんですか?」

 と、リュクサンドールが尋ねてきた。

「そーだよ。アタイたち、そこで誰かに会う予定なのー」

 俺が何か答える前にフィーオが勝手に答えた。しかも、その会う予定の誰かが、すでに目の前にいることをまだ理解していないときてやがる。まあ、いいか。

「そうですか。実は僕たちも、これからモメモにある学院に戻る予定なんですよ」
「ふーん、じゃあ、一緒に行くか?」

 と、俺が軽く提案すると、ルーシアとリュクサンドールは「そうですね」と、異口同音にうなずいた。荷馬車の持ち主のおっさんも、心が広く、さらに二人が乗り込むことを快諾した。

 というわけで、俺たちは、すぐにそろって荷馬車に乗り込み、その廃村を出発し、モメモに向かったわけだった。
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