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2章 ドノヴォン国立学院編

81 ハリセン仮面

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 翌朝、俺たちは宿を出た。ただ、起きてすぐに、というわけではなかった。俺は例の動画のせいで、アルドレイの生まれ変わりの少年として顔が軽く割れていることが発覚しため、そのまんま外に出るわけにはいかなかったのだ。かといって、ずっと覆面し続けるのも暑苦しいし不審者全開すぎる……というわけで、俺はそれなりに時間をかけて「イメチェン」してから出かけたわけだった。

「……この髪型、本当に俺に似合ってるか?」

 ユリィと一緒に宿を出て、道を歩きながら、俺は尋ねずにはいられなかった。俺は今、朝すぐにユリィに買ってきてもらった整髪用の油で、髪をぴったり頭皮になでつけていた。ようするにオールバックだ。クッキングパパ派なのに山岡士郎みたいな髪型になっちまっているのだった。

「はい。大人っぽくていいと思いますよ」

 ユリィはにっこり笑って俺に答えた。

 まあ、ユリィが気に入ってるみたいだから、いいか……。正直、俺自身はこの髪型はあまり好きではなかったが、とりあえず気にしないことにした。今は、身バレしない程度にイメチェンしておくことが大事だしな。

 と、そんなふうに二人で街の門のほうまで歩いていると、

「おい、見たか、あの広場のお触れ!」
「あー、勇者様が暴マーを倒したっていう?」
「ちげーよ! さっき新しいお触れが立ってたんだよ! かなりやべーやつ!」
「やべーのか」
「ああ、マジやばっ!」

 なんか若い男二人が、中身があるようでなさそうな話をしているのが聞こえてきた。とりあえず、やばいニュースが新しく告知されているのは間違いなさそうだが。

「いったいなんでしょうね、トモキ様?」
「ああ、ちょっと見てみるか」

 俺たちはいったん方向転換し、街の中央の広場に行ってみた。

 すると、そこには、昨日と同じくらいの人だかりができており、新しいお触れの立て札もあった。勇者様が暴マーを倒したというお触れの立て札の隣に、追加される形で。

 見ると――、

『恐怖! ハリセン仮面、ロザンヌ公国の正規軍を襲撃!』

 と、あった……って、こ、これはっ!

「まあ、なんておそろしいんでしょう。昨日、ハリセン仮面という謎の人物が、この国の兵士たちを残らず倒してしまったそうですよ」

 ユリィはその「やべーニュース」にぎょっとしているようだ……。

「ひどい話ですね。奇跡的に死者はでなかったってありますけど、一方的に殴る蹴る投げ飛ばすで、暴れまわるなんて」
「そ、そうだな。ひどいことするやつもいるもんだな……はは……」

 俺は動揺のあまり、声が震え、顔がひきつった。やべえ。昨日のやらかし、めっちゃ大事になってる!

 さらに立て札を見ると、当初の俺の狙い通り?、ハリセン仮面が両国の先陣部隊を壊滅させたことによって、戦争は休止に追い込まれたとあった。ハリセン仮面という無法者の情報提供を広く呼び掛ける告知も……。逮捕につながる情報提供をしたり、その身柄を確保した者には、懸賞金二千万ゴンス、日本円にして一千万円くらい支払われるらしい――って、高いな、おい! マジで当局激おこ案件じゃねえか!

「しかし、せっかく勇者様が世界を救ってくださったのに、こんなひでえことするやつがいるとはな!」
「ああ、許せねえな! どこのどいつだよ!」
「勇者様とは大違いだ!」

 と、周りからなんか怒りの声が聞こえてくるわけだが……だが? すまぬ、犯人はその勇者様なんだ、すまぬっ!

「でも、たった一人で、二つの国の兵士を全員倒してしまうなんて、相当お強い方ですね。まるで、トモキ様みたい――」
「そ、そそそんなわけないだろう、ユリィ!」

 俺は必死に否定した! 否定するしかなかった!

「あ、そういえば、昨日トモキ様はどこかに出かけられてましたよね? いったいどこに?」
「ちょ、ちょっと酒場で一杯やってて……」
「それだけですか?」
「そうよ! そうわよ!」
「あと、宿に帰ってきたとき、トモキ様はスカーフのようなものを持っていたような……」
「あ、あれは、ただのおしゃれなの! 首に巻いてただけなのよ!」

 なぜ今日に限って、的確に俺を追い詰めてくるのか、ユリィ! まさか俺を疑ってるのか、ユリィ!

 と、そのとき――俺はいきなり後ろから何者かに抱きつかれた!

「わっ!」

 その力強い腕の感触には覚えがあった。はっとして、振り返ると、案の定、俺に抱きついてきたのはフィーオだった。

「あー、やっぱその声、このにおい、トモちんだ!」

 フィーオは俺と目が合うと無邪気に笑った。

「ふーん、トモちん、こんな顔してたんだねー。昨日は覆面してたからわかんなかったけど――」
「って、いきなり何言ってんだ、お前!」

 俺はあわててその腕から抜け出しながら叫んだ。昨日俺が覆面してたとか、こんなところで、バカでかい声で言うの、やめてえ!

「あの、トモキ様、そのお方は?」

 ユリィが尋ねてきた。

「ああ、こいつとは昨日、酒場で出会って――」
「アタイはフィーオ、よろしくね☆」

 と、フィーオは言うと、ユリィに近づいた。そうはさせるか。あわてて、二人の間に割り込み、ユリィの代わりにその挨拶ハグ攻撃を受けた。めりめり。うーん、相変わらず力加減がおかしい……。

「わー、トモちん、またアタイに抱きつかれてるぅ」

 フィーオは実に能天気だ。たった今、何も知らない少女のアバラを折ろうとしたというのに、この態度である。

「ト、トモキ様、もしかして、このお方とは、とても親しい間柄なのですか?」

 しかし、いきなり目の前で抱き合っている俺たちに、ユリィはびっくりしたようだった。

「いや、違う――」
「そうだよー」
「違うってば!」

 くそ、この大女め、空気を読まないにもほどがある。

「こいつと俺とは、別になんでもないんだ! 本当に、昨日ちょっと知り合っただけで――」
「えー、アタイとトモちん、もう秘密のカンケーじゃん?」
「え」
「昨日は、一緒にイケないことしちゃったんだよね? 楽しかったけど、ナイショなんだよね、トモちん?」
「そ、それはそのう……」

 確かにそうなんですけど! なんでそんな言い方するのかな、この大女!

「そ、そうですか。お二人はすごく仲がいいんですね……」

 ユリィはとたんに、おろおろしたように顔を青くした。そして、俺から気まずそうに目をそらした……。

「だから、違うんだってば!」

 何か誤解をしているらしいユリィに、俺は必死に訴えずにはいられなかった。
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