80 / 436
2章 ドノヴォン国立学院編
79 「若気の至り防衛隊」はなぜ実在しないのか
しおりを挟む
「あれ? 俺はいったい何をやって……」
気がつけば、俺の周りに動く者はなくなっていた。ただ鎧姿のまま横たわっている兵士たちの姿が無数にあるだけだった。
「こいつら、死んで……は、いないか?」
その一人に顔を近づけると、かろうじて呼吸はしているようだった。やはりハリセンで手加減したのがよかったか。
「わー、覆面クン、超つよーい! みんな倒しちゃったね☆」
そんな俺のもとに、小型のドラゴン、フィーオが飛んできた。
「俺は別に、こいつらを倒しに来たわけじゃなかった気がするんだが……?」
どうしてこうなったんだっけ。まだかなり酔いが残っていて、よく思い出せない。
「いーじゃん。この調子で、あっちの軍隊も倒しに行こうよ!」
「ああ、確か、聖ドノヴォン帝国とやらも兵を集めてるはずだっけ」
「そーだよ。こっちの軍隊だけ倒しちゃったら、不公平だよー」
「それもそうか」
このまま街に帰ったら、俺はその聖ドノヴォン帝国とやらの勝利を手助けしただけになるからな。それはアカン。俺が救ったこの世界において、勝利者の幸せなど許されるはずはないのだ! 絶対に!
「よし、このまま聖ドノヴォン帝国の軍の駐留場所に行こう」
俺は依然として酔いでおぼつかない足取りのまま、フィーオの背中に乗った。フィーオはまたしてもすぐに飛び立った。
「ねー、覆面クンってなんて名前なの?」
移動中、ふとフィーオが尋ねてきた。
「ああ、俺はトモキだ」
「トモちん?」
「トモキ、な」
「うん、わかった、トモちん!」
わかってねえ。が、めんどくさいので、もうその呼び名でいいか。あだ名みたいな響きだしな。
やがて、俺たちは聖ドノヴォン帝国の軍の駐留地点を発見し、ロザンヌ公国の時とまったく同じ流れで、反戦の願いを込めた話し合いからのハリセン無双で軍を壊滅させ、街に戻った。そのころには酒もだいぶ抜けていた。
そして、当然――、
「ちょ、俺、今まで何をやって……」
自分のしでかしたことの大きさに、そこで初めて気づく俺だった。酔った勢いで、ハリセン片手に二つの国の軍を壊滅させちゃったって何? どんなやらかしなの、俺!
「トモちん、今日は楽しかったねー」
フィーオはしかし、事の深刻さなどまるでわかっていないようだった。俺たちが今いるのは街のはずれの、人気のない路地裏だ。すでにフィーオは人の姿に戻っていて、皮のワンピースを着ている。
「フォーオ、頼む! さっき俺がやったことは誰にも言わないでくれ!」
「えー、なんでー?」
「なんででもに決まってるだろ!」
どう考えてもバレたらお縄になるに決まってんだろ、このハイパーやらかし! そこはわかれよ! 察しろよ!
「フィーオ、俺がさっきやらかしたことは、ようするにただのテロ行為だ。反戦を訴えながらテロに走るのは、俺が前いた世界ではそう珍しくないことだったが、事情はどうであれ、テロはあかん! 大義名分があってもあかん! つか、そんなんなかったし、俺たちただの犯罪者ですやん!」
「えー、犯罪者とか、トモちんなーんか、かっこわるぅ」
「お前も共犯なんだよ!」
俺はフィーオのでかい体を揺さぶりながら、必死に訴えた。ぷるぷるっと、俺の目の前でそのたわわな乳が揺れるが、今はそれに目を奪われている場合じゃあ、ない!
「お願いだ、今日のことは俺たち二人だけの秘密にしよう!」
「あ、二人だけの秘密って響き、ちょっといいかもー?」
「ですよね! ですよね! 俺たち今日から秘密同盟!」
「わーい、秘密同盟!」
「わーい!」
よくわからんが、秘密を守ってくれる気になったようだ。俺は、ウキウキのフィーオとハイタッチしながら、「秘密、秘密な!」と、さらに念を押した。
そして、
「じゃ、じゃあ、もう俺、宿に帰るから」
フィーオの前から速足で走り去った。
「トモちん、また遊ぼうねー!」
と、後ろから、そんな無邪気な声が聞こえてきた。
気がつけば、俺の周りに動く者はなくなっていた。ただ鎧姿のまま横たわっている兵士たちの姿が無数にあるだけだった。
「こいつら、死んで……は、いないか?」
その一人に顔を近づけると、かろうじて呼吸はしているようだった。やはりハリセンで手加減したのがよかったか。
「わー、覆面クン、超つよーい! みんな倒しちゃったね☆」
そんな俺のもとに、小型のドラゴン、フィーオが飛んできた。
「俺は別に、こいつらを倒しに来たわけじゃなかった気がするんだが……?」
どうしてこうなったんだっけ。まだかなり酔いが残っていて、よく思い出せない。
「いーじゃん。この調子で、あっちの軍隊も倒しに行こうよ!」
「ああ、確か、聖ドノヴォン帝国とやらも兵を集めてるはずだっけ」
「そーだよ。こっちの軍隊だけ倒しちゃったら、不公平だよー」
「それもそうか」
このまま街に帰ったら、俺はその聖ドノヴォン帝国とやらの勝利を手助けしただけになるからな。それはアカン。俺が救ったこの世界において、勝利者の幸せなど許されるはずはないのだ! 絶対に!
「よし、このまま聖ドノヴォン帝国の軍の駐留場所に行こう」
俺は依然として酔いでおぼつかない足取りのまま、フィーオの背中に乗った。フィーオはまたしてもすぐに飛び立った。
「ねー、覆面クンってなんて名前なの?」
移動中、ふとフィーオが尋ねてきた。
「ああ、俺はトモキだ」
「トモちん?」
「トモキ、な」
「うん、わかった、トモちん!」
わかってねえ。が、めんどくさいので、もうその呼び名でいいか。あだ名みたいな響きだしな。
やがて、俺たちは聖ドノヴォン帝国の軍の駐留地点を発見し、ロザンヌ公国の時とまったく同じ流れで、反戦の願いを込めた話し合いからのハリセン無双で軍を壊滅させ、街に戻った。そのころには酒もだいぶ抜けていた。
そして、当然――、
「ちょ、俺、今まで何をやって……」
自分のしでかしたことの大きさに、そこで初めて気づく俺だった。酔った勢いで、ハリセン片手に二つの国の軍を壊滅させちゃったって何? どんなやらかしなの、俺!
「トモちん、今日は楽しかったねー」
フィーオはしかし、事の深刻さなどまるでわかっていないようだった。俺たちが今いるのは街のはずれの、人気のない路地裏だ。すでにフィーオは人の姿に戻っていて、皮のワンピースを着ている。
「フォーオ、頼む! さっき俺がやったことは誰にも言わないでくれ!」
「えー、なんでー?」
「なんででもに決まってるだろ!」
どう考えてもバレたらお縄になるに決まってんだろ、このハイパーやらかし! そこはわかれよ! 察しろよ!
「フィーオ、俺がさっきやらかしたことは、ようするにただのテロ行為だ。反戦を訴えながらテロに走るのは、俺が前いた世界ではそう珍しくないことだったが、事情はどうであれ、テロはあかん! 大義名分があってもあかん! つか、そんなんなかったし、俺たちただの犯罪者ですやん!」
「えー、犯罪者とか、トモちんなーんか、かっこわるぅ」
「お前も共犯なんだよ!」
俺はフィーオのでかい体を揺さぶりながら、必死に訴えた。ぷるぷるっと、俺の目の前でそのたわわな乳が揺れるが、今はそれに目を奪われている場合じゃあ、ない!
「お願いだ、今日のことは俺たち二人だけの秘密にしよう!」
「あ、二人だけの秘密って響き、ちょっといいかもー?」
「ですよね! ですよね! 俺たち今日から秘密同盟!」
「わーい、秘密同盟!」
「わーい!」
よくわからんが、秘密を守ってくれる気になったようだ。俺は、ウキウキのフィーオとハイタッチしながら、「秘密、秘密な!」と、さらに念を押した。
そして、
「じゃ、じゃあ、もう俺、宿に帰るから」
フィーオの前から速足で走り去った。
「トモちん、また遊ぼうねー!」
と、後ろから、そんな無邪気な声が聞こえてきた。
0
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる