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1章 暴虐の黄金竜マーハティカティ再討伐編

1章エピローグ

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 さて、ユリィと二人きりで王都レーナを旅立った俺だったが、特に行くあてがあるはずもなく。

 とりあえず、この世界に召喚されてからずっと放置していたクエストを消化することにした。他にやることもないしな。

「そうか! 貴様が勇者アルドレイの生まれ変わりの小童か! 待ちわびたぞ、この瞬間を! 今こそ、復讐の秋《とき》!」

 ここはとある神殿の奥深く。俺たちが適当に中を探索していると、やがて、相手のほうから俺たちの前に現れてきた。前と同じように、床を突き破って、下から。

「お前はいちいち自分のすみかを壊さないと登場できないのかよ」

 なんだかなつかしいような気持ちになってくる。

 そう、俺たちの目の前に現れたのは、これから世界を滅ぼしかねないとされる竜だった。当然レジェンド・モンスターで、クラスは最高のディヴァイン。まあ、十五年前に俺に瞬殺されたやつだけどな。

「以前は少し油断したが、今度はそうはいかぬぞ! おとなしく我に倒されるがよい!」

 と、世界を滅ぼす竜(正式名称なんだっけ、忘れた)は、俺に襲い掛かってきた。

 そして――ゆうしゃのはんげき! かいしんのいちげき!

 なんと、またしても、一撃であっさり倒せてしまった。

「ちょっとこいつ、運のパラメータ低すぎだろ。またクリティカルで1ターンキルかよ」

 俺はゴミ魔剣、ネムを鞘におさめながら、ため息をついた。ネムによって斬られて吸収されたので、竜の体はもはやどこにもなかった。残骸のレジェンド・コアだけが近くに転がっているだけだった。つか、ロイヤル相手にあれだけ苦戦してたくせに、コンディション万全ならデヴァインだろうとあっさり斬れるのかよ。俺もアレだが、ネムのスペックもたいがいおかしいな。

「ま、いっか。これで世界は平和になったんだし。俺の仕事も終わりだ」

 俺は戦利品のレジェンド・コアを拾うと、後ろで俺たちの戦いを見守っていたユリィに放り投げて、渡した。

「そうですね。お疲れ様です。勇者トモキ様」

 ユリィは俺にやさしく微笑みかけながらそれを受け取った。俺たちはそのまま、神殿を出た。

 外に出ると、すっかり日は落ちて、あたりは暗くなっていた。とりあえず、俺たちは近くの森で野営することにした。

「さて、勇者としての仕事も片付けたし、これからどうするかな?」

 ユリィと向かい合って焚き火を囲みながら、俺はふとつぶやいた。

「少なくとも、勇者の仕事はもう必要ないよな? この世界はもう平和になって、魔物が暴れることもなくなったわけだし。つまり、俺、ただの無職ってことに……」
「だ、大丈夫ですよ! このレジェンド・コアを売れば、いいお金になるはずですし、無職でも当分は食べていくのには困らないはずです!」

 ユリィがフォローのように言うが、無職になったのは否定してないあたり、フォローになってないぞ、チクショウ。

「それに、トモキ様にはまだやることが残ってるじゃないですか。昔、なんでお姫様に刺されて殺されてしまったのかの謎を解き明かすってことが――」
「いや、俺の過去はもうどうでもいいだろ。あの竜も倒したし、アルドレイはもう死んだんだ。それより、今はお前のことだよ、ユリィ」
「わたしのこと、ですか?」
「そうだよ。かーちゃんのこと、思い出したいんだろ、お前は」

 そうだ、俺はこいつと約束したんだ。勇者アルドレイとしてではなく、ただのトモキとして、失くした母親の記憶については俺が何とかしてやると。だから、それが果たされるまでは、俺はこいつと一緒にいなくちゃいけないんだ。あ、あくまでそういう約束なんだからな! 他に深い意味はないんだからな!

「……本当に、思い出せるでしょうか?」

 ユリィは不安げに目を伏せた。

「思い出せる! いや、俺が思い出させてやるさ!」
「どうやって?」
「え、えーっと……また母親の夢を見ているときに起こしてやる、とか?」

 それぐらいしか方法が思いつかなかった。この件に関しては、我ながら相変わらずいい加減だ。

 だが、ユリィはそこで「そうですね。頼りにしています、トモキ様」と言って、笑った。なんだかとても楽しげで、うれしそうな笑顔だった。さっきまでの不安げな表情がうそのように。

「お、おう、まかせとけ!」

 俺も思わずつられて笑ってしまった。顔がちょっと熱くなるのを感じながら。

「あ、そうだ。わたし、トモキ様に報告したいことが一つあったんです」

 と、ユリィはそこで何か思いついたように、近くに落ちていた枯れ草を手に取った。

「見ていてください。今日はたぶん、大丈夫だと思います」

 ユリィはその枯れ草を自分の顔のすぐ前に持っていき、目を閉じ、何か集中し始めた。なんだろう、しばらくその様子を見守ったが、やがて五分くらい経過したところで、その草からわずかに煙が出始めた。お、これは……。

「まさか、発火の魔法か?」
「は、はい! ほんのちょっとだけですけど、使えるようになったんです!」

 ユリィは目を開け、誇らしげにその煙の出ている草を掲げた。その勢いで煙はすぐに消えてしまったが。ついでに、ユリィの額も脂汗がべっとりだ。たったこれだけの火を起こすのに、どれだけ集中してたんだ、コイツ。

 でも、全然何もできなかったときに比べると、間違いなく大きな進歩だ。

「よかったな、ユリィ。魔法が使えるようになって」
「はい。きっとこれも、お母さんのことを少しでも思い出せたからだと思うんです」

 ユリィはうれしそうに笑った。その瞳はうっすら潤んでいるように見えた。そんな笑顔を見ていると、俺もたまらなくうれしくなってきた。

「じゃあ、記憶が完全に戻ったら、お前はもっと魔法が使えるようになるってことか。いいな、それ」
「はい。それがいつになるかわからないですけど……」
「なーに、そんなの、きっとすぐだぜ」

 またしても根拠のない、適当なことを言ってしまう俺だったが、今のユリィを見ていると、そんなような気がしてならなかった。そう、こいつが失ったものを取り戻す日は、きっとそう遠くない未来だ。

「そうですね。トモキ様と一緒なら、そんなに時間はかからない気がします」

 ユリィは微笑み、ふと立ち上がって、俺のすぐ隣にやってきて座り込んだ。そして、俺にもたれかかってきた。

「そういうわけなので、これからもわたしのこと、よろしくお願いします。トモキ様」
「あ、ああ……」

 ユリィの体のぬくもり、息遣いを感じながら、俺はやはりドギマギせずにはいられなかった。
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