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1章 暴虐の黄金竜マーハティカティ再討伐編

59 最終形態、そして搭乗

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「うわっ!」

 暗黒レーザーの柱の太さはステージを一面全て多い尽くすほどだったが、とっさに隅っこに逃げて、鎖の結界に背中をぴったりつけると、かろうじて直撃は避けることができた。マオシュも、元からすみっこぐらしはじめてたので、鎧の脚が吹っ飛ばされた程度で、なんとか無事のようだった。キツネ本体は鎧のボディに格納されてるはずだしな。

 一方、巨体ゆえ、逃げ場がなかったバジリスク・クイーンは、アビス・ゲイザーという、魔術師たちがタメにタメた超攻撃魔法をもろに全身に食らったようだった。

「ぐ……ぐあああっ!」

 口から、一つかない瞳から、血を噴出させながら、苦しみもだえている。その体は弱弱しく震えており、口から漏れるうめき声も、もはや断末魔の叫びと同じだった。

「おお……効いてる、効いてる!」

 やるじゃん、魔術師軍団! やっぱ、みんなで力を合わせてタメる元気玉作戦が一番だよな! 思わず、ガッツポーズしちゃう俺だった。

 だが、そこで、

「油断しないで、勇者様! まだ終わってないわ!」

 と、サキが鋭く叫んだ。

 はっとして、バジリスク・クイーンのほうを見ると、なんと――またしても再生していやがるじゃないですか! なんという生命力……。

 ただ、今度は脱皮しながらの再生で、外側の皮を捨てた体は、一回り小さくなっていた。さらに、色もまた違っていた。今度は鱗の色は、淡いエメラルドグリーンだった。

「勇者様、聞いて! そいつはもう再生しないわ! それが最後の形態よ!」
「え、そうなの?」

 つまり、こいつは命を三つ持ってて、そのうち二つを消費した状態ってこと? なるほど、残機制だったのか……。

「じゃあ、トドメの一発はどうやって――」
「それは、えーっと……勇者様の気合とがんばりで!」

 って、そこはノープランかよ! 気合と頑張りって何? ムチャなノルマ押し付けるブラック企業かよ!

 見ると、魔術師軍団はすっかり魔力を使い果たしたらしく、みんな力なくその場に崩れている。アビス・ゲイザーのおかわりはもうなさそうだ。ならばと、魔剣を魔法で探索中という回復魔法チームのほうに目をやるが、リーダーのおばさんに無言で首を振られてしまった。こっちも手詰まりか、クソ!

「まさか、ここまで私を追い詰めてくれるとはね。人間を少し侮っていたわ」

 バジリスク・クイーンは体こそ小さくなったものの、迫力と威圧感はずっと増したようだった。お前はフリーザ様かよ、クソが。

「へへ、こっちはお前をあと一回倒せばいいだけだから、気楽なもんだぜ! だぜい!」

 大ピンチなのに必死に強がっちゃう俺だった。

「ふふ。その一回が、果たして可能なのかしらね?」

 外側の皮を脱ぎ捨て、身軽になったバジリスク・クイーンはすぐさま俺に襲い掛かってきた。今度はぬるっとした、なめらかな動きだ。速い。明らかに速さが増している。パワーはちょっと落ちてるようだが、この速さはさすがに俺でもヤバイ! 気を抜くと一瞬でやられそうだ。

 いや、だからって、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ(以下略)! 相手のパワーが落ちてるのは明らかなんだから、バリアだって弱くなってるかもしれないじゃあないか。速さ全振りの、デオキシススピードフォルムくらいのヤケクソ種族値になってるかもしれないじゃあないか! 

「よし、ここは一発!」

 乾坤一擲! ドカンと行くぜ! すぐに体の向きを変え、こちらに突撃してくるバジリスク・クイーンの攻撃を紙一重でかわし、その横っ腹に拳を一発お見舞いした。くらえ、勇者ぱーんち☆

 そしてそれは――当然のごとく、バリアに弾かれてしまった。反動で、俺の体はすぽーんと、後ろに吹っ飛ばされた。

「まあ……そんな甘い話はないか」

 最終形態だもんな。バリアだってちゃんと搭載してるに決まってるじゃあないか、ハハ……。鎖の結界に背中を叩きつけられたところで、俺はゆるく笑った。とりあえず、また受け身のおかげで、ダメージは特になかったが。

 しかし、この状況、いったいどうしたら……。

 と、そのとき、

「アル……ここはワイの出番やで……」

 ちょうどすぐ近くで倒れていたゲロ臭い鎧の中から、声が聞こえてきた。

「出番ってなんだよ。お前、もう鎧の足なくなってるじゃねえか。そんなんじゃ、動けねえだろ」
「フフ、脚なんてなくてもええんやで?」
「そうか、脚なんて飾りか」

 その鎧、モビルスーツだったんかい、ワレ。

「アル、実はこの鎧、まだ使ってないギミック残ってるねん。ほんまはまだ未完成やから、使いたくなかったんやけど、場合が場合や。今からワイが指示するから、その通りに操作して、それを起動させてくれんか?」
「いいけど、自爆とかじゃねえだろうな」
「ちゃうちゃう。はよせいや。あいつ、またこっちに来るで」

 と、マオシュは身をよじり、鎧の背中をこっちに向け、首の後ろのボタンを押すように俺に言った。なるほど、見ると確かにそこには赤い丸いボタンがあった。「緊急用」「非常用」「急にボールが来た時用」と、ゴテゴテと謎の説明が添えられていたが。

 とりあえず、迷っている暇はなかった。俺はすぐにそのボタンを押した。ぽちっとな。

 すると、とたんに、鎧はキュイーンキュイーンと激しく駆動音をたてながら、小刻みに震え始めた。そして、次の瞬間、背中のプレートがぱかっと大きく開き、中から二本のアームが飛び出してきて、俺をわしづかみにし、鎧の中に引きずり込んだ!

「のわああっ!」

 なにこれ! 意味わかんない! 暗がりの中でじたばたするが、アームは力強く、強引で、かつテクニシャンで、なにがなんだかわからないうちに俺は鎧の内部の座席らしき部分に座らされていた。

「あ、あれ……?」

 ここは果たして、本当に鎧の中なのか? それにしては妙に広いなと思った。俺が座っているシートの周りには少し隙間すらあった。それに俺の目の前にはモニターのようなものまである。これはまるで……何かの機械のコックピット?

「おい、マオシュ、これはいったいどういうことだよ?」

 俺は、いつのまにやら俺の首にまたがっているキツネにたずねた。お前の席はそこかよ。毛で首筋がチクチクするじゃねえか。

「どうって、ワイらが今乗ってるのはこんなんやで!」

 と、マオシュは前に身を乗り出し、モニターをいじった。たちまち、そこに白い大きな人型ロボットが映し出された。身長4メートルぐらいの大きさだ。立っているのは……このコロシアムのステージ? そう、明らかにそこはさっきまで俺たちがいたところだった。

「変形するとき、近くに小型カメラのビットを飛ばしたんや。これはそっからの映像やでー」
「え、なに? まさか、この人型ロボットが、さっきまでお前が中に入ってた鎧なの? で、今俺たちが乗ってるやつってことなの?」
「せやでー」
「せやでー、じゃねえっ!」

 相変わらずこいつは、妙に軽いんだから、もー!

「おま、なんなんだよ! こんな変形、いくらなんでも自由すぎるだろ! つか、脚はどうした! なんで新しく生えてんだよ! 質量保存の法則とかどうなってんの、この機械! あと、この席、ゲロくさい――」
「細かいことはどうでもええやろ。それより、今は、バトルや! あのトカゲ野郎をぶちのめさんとな! アル、行くで!」
「いや、行くって言われても、どうやって動かせばいいのか……」

 めちゃ初見なんですけど! ロボアニメ1話の急に搭乗させられた主人公状態なんですけど!

「大丈夫や。このマシンはすでにお前の動きを解析済みや。お前の意思に合わせて動くようになっとる! ついでに外部カメラもお前の視覚情報にリンク済みや!」
「ほ、ほんまか?」
「ほんまや!」
「……えーい! もうどうにでもなれ!」

 目を閉じ、モニターに映っているロボットと一体になるイメージで、手足に動けと念じてみた。すると……本当にすっと動いたじゃないですか! というか、自分の体が、まるでロボットそのものになったようだった。ロボットの目を通じて外の世界を見ることもできた。うほっ! これがシンクロ率100%の世界か!

「でも、こんなデタラメなロボットで、今さら何かできるのか?」
「できる! ワイを信じるんや!」
「お、おう!」

 よくわからないが、さっそく、目の前のトカゲに突撃してみた。食らえ、新勇者ぱーんち☆

 すると、なんと! 今度は拳を弾かれなかった。

 まあ、正確には、弾かれなかったがバリアで拳を止められた状態だった。

「バリアはそのままだが、攻撃の反動がない?」

 とっさにバジリスク・クイーンから退きながら俺はつぶやいた。ロボットのスピードやパワーは、俺の身体能力を十二分に再現しているようだった。

「せや! このまま攻撃し続ければ、バリアを破れるはずやで!」
「そういうもんなのか?」
「どんなもんにも限界ってもんがあるさかいな!」
「そ、そうか――」

 そういえば、かつて、再生能力を持つアンデッドを、それが枯れるまで釘バッドでぼこぼこにして倒したエルフの少女がいたな。レジェンドのバリアだって、あれと同じように無限に発動できるわけじゃないのなら、あるいは――。

「でも、マオシュ、それはそうと、この席、ゲロくさい――」
「いいから行くで! 覚悟決めーや! 勇者アルドレイ!」
「わ、わかったよ!」

 ゲロくさいのはあきらめて、俺はロボットを再び動かした。今度こそ、俺たちの力で、あいつを倒すぞ!
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