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1章 暴虐の黄金竜マーハティカティ再討伐編
14 レジェンド
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「……くっ! ちょこまかと逃げおって!」
どすんどすん。領主の館の玄関ホールの中で、デューク・デーモンが俺を追い回し、暴れまわっている。だが、その攻撃は大振りすぎて、俺にとって回避するのは容易だった。やつの拳はただ、空を切るばかりだった。
「お前、悪魔族だろ。攻撃魔法は使わないのか?」
「は! 貴様ごときにそんなものは不要!」
「あ、そうか。使いたくても使えないやつか。肉弾戦系スキルにステ全振りみたいな?」
「ち、ちがーう!」
デューク・デーモンはますます顔を真っ赤にして叫んだ。図星のようだった。
「なるほど。格闘しか出来ないのか」
俺は安心した。広範囲の攻撃魔法とか使われたら、俺はともかく、他の人間に被害が出そうだからな。ここにも兵士が何人も倒れてるし。
「はっ! たとえ貴様が少しばかり素早かろうと、我は絶対に倒せぬのだぞ!」
と、デューク・デーモンは暴れるのをやめ、その場で上半身の筋肉を見せ付けるようなポーズをとった。まるでボディービルダーだ。
「……ああ、もしかして、お前、アレなのか」
「そうだ!」
アレで話が通じてしまった。そうかあ。めんどくさいなあ、アレ。
「まー、まだホントかどうかわかんねえし、試しに一発入れとくか」
と、瞬間、俺は無防備そのもののやつの懐に飛び込んだ。そして、膝頭にパンチを一発、叩き込んだ――ら、
「わっ!」
俺の拳はやつの膝に命中する直前、突如現れた光の壁に弾かれた! そして、俺の体は後ろに吹っ飛ばされ、壁にめりこんだ。
「いててて……」
今日は二回目だぞ。体を強く打ち付けられるの。受け身覚えててよかったよ、ほんと。
「見たか、人間。これが、我の体を守る絶対の障壁。この前では、あらゆる物理攻撃は無効なのだ!」
デューク・デーモンはそんな俺を見て、高笑いをしている。
「いや、無効じゃなくて、反射だろ。物理攻撃全反射能力。某悪魔召喚RPGの初見殺しの象さんみたいな。ほんと、めんどくせーよな。レジェンドモンスターってやつは」
俺は壁から抜け出し、床に着地しながら言った。そう、今の能力はレジェンドと呼ばれる最上位クラスのモンスター特有のものだ。基本的にこいつらは、人間の拳や武器や弓が一切効かない。攻撃しても今みたいに弾かれてしまう。
そして、今俺の目の前にいるデューク・デーモンもまた、そういう能力を持ったレジェンドモンスターの一種ってわけだ。まあ、こいつはレジェンドの中でも「ノーブルクラス」っていう下っ端の階級だったはずだけどな。
「フフ……思い知ったか、人間。貴様の勝ちは万に一つもないということをな!」
「そうか? 今の俺はお前を倒す手段はないが、それはお前も同じじゃねえか。お前の攻撃、俺に少しも当たらんし」
「はっ! ならばとことん追い詰め、疲弊させ、動きが鈍ったところをとらえるまでだ!」
デューク・デーモンは再び俺に襲い掛かってきた。相変わらず、その攻撃をかわすのは簡単だった。だが、こっちのスタミナ切れを待つ作戦というのは、気になった。相手は見ての通り、筋肉ダルマ、スタミナの塊だ。対する俺はちょっと喧嘩が強いぐらいの、普通の学生だ。帰宅部だ。趣味はゲームと深夜アニメ。スタミナ勝負では、さすがに勝ち目はなさそうだ――って、何気にピンチじゃねえか、俺? 負け筋しか見えないですよ、この状況?
俺はデューク・デーモンの攻撃をかわしながら、アルドレイ時代の記憶を必死に掘り起こし、レジェンドを倒す方法を思い出した。まず一つのやり方は、魔法攻撃。それも普通の魔法じゃだめだ。エインシャントと頭につく古代上級攻撃魔法じゃないと、レジェンドには通用しない。だが、そんなもの使える魔法使いはそうそういな――って、いるいる! いるよ、ちょうど! さっき、俺をここまでぶっ飛ばしたクソアマは間違いなくそれ系の魔法使えるよ!
つまり、あいつが離れた俺のピンチを察して、ここまで駆けつけてくれば俺の勝ちか。
そう、あいつが、俺を助けに来れば――。
「…………って、ないわー」
思わず自分にツッコミを入れてしまった。どうせ、あいつは今頃、あの部屋で二度寝しているだろう。そういうやつなんだ、昔から。スペック高いのに、肝心なときにまったく頼りにならないやつなんだ、あいつは。
「いい加減、観念したらどうだ!」
考えている間にもデューク・デーモンの拳や蹴りが飛んでくる。やはりそれらは俺に当たることはなかったが、反撃の手段が一切ないというのもなかなかのプレッシャーだった。
やっぱり、二つ目のやり方、魔剣しかないか……。
俺は玄関ホールの中央に飾られたままの勇者の剣をチラリと見た。あれは真っ赤な偽物に間違いないが、もしかすると、ニセモノなりに気合を入れて作られたもので、すごい力を秘めたものなのかもしれない? 見た感じ、そんな気配はまったくないが、あのおっさんは偉そうに自慢してたし、なんだかすごそうな鑑定書も見せてくれたし、今はそれに乗っかるのもいいかもしれない? というか、この状況……他に選択肢はないよな?
よし、いちかばちかだ! ここは使わせてもらうか!
俺は即座に横に飛び、ニセモノの勇者の剣の台の上に乗った。そして、刀身がむきだしのまま飾られている剣の柄を握り、構えた。
「ほう……アルドレイの魔剣を貴様ごときが使いこなすつもりか?」
「ええ、まあ……」
実際手にとってみてもやっぱり魔剣じゃねえっぽいし、貴様ごときがっていうか、本人ですけど何か?って反論したくなるが、面倒なのでそれは省略する。俺はそのまま、台の上から跳躍し、デューク・デーモンの肩に剣を振り下ろした。
が、直後、その剣の刀身は光の障壁にぶちあたって、折れてしまった。そう、ぱきっと。ガラスのように。
「やっぱニセモノじゃねえか!」
着地しながら思わずキレちゃう俺だった。なお、レジェンドの物理反射能力は、今のように攻撃に使われた武器に最優先で向かう。さっき俺が吹っ飛ばされたのは、素手で殴りかかったからだった。
「ふっ、やはりアルドレイの魔剣は、素人には使いこなせるものではなかったな」
デューク・デーモンは俺の腕のせいで壊れたと勘違いしている。ちげーよ、アホ。魔剣どころか、ただの綺麗な鉄くずですやん、これ。
クソッ、他に何か使えそうなのはないか? 俺は周囲を見回した。周りには兵士たちが倒れており、それぞれ武器を携えている……。
「おい、おっさん! ここに魔剣はあるか?」
ちょうど近くで寝ていた隊長らしきおっさんの腹を軽く蹴りながら尋ねた。おっさんはうめき声とともに目を開けて、「ある……」と答えた。
「本当か? どこにある? 早く教えろ」
「それは、ここに……」
おっさんは、自分が握っていた剣を掲げた。そして、おもむろに、「これは暗いところで光る魔法が付与されている」と、つぶやいた……って、ナニソレ!
「いや! そんな便利魔剣いらないから! レジェンド倒したいわけなの、俺は!」
「レジェンドの障壁を破る魔化が施された剣? そんなたいそうなもの、ここにあるわけな……ぐふっ!」
と、おっさんは急にそこで気絶してしまった。まるで、気まずくなってタヌキ寝入りを決め込んだように。
「ねーのかよ!」
平和ボケしすぎだろ、ここの連中。兵士ならレジェンド対策ぐらいしとけや。
「さっきから何をごちゃごちゃ言っている、人間!」
と、そこでデューク・デーモンが俺たちめがけて突進してきた。まずい。俺はともかく、このままじゃおっさんが危ない。使えないおっさんだけど、さすがに見捨てるわけには行かない。
俺はそこで、とっさに、床を渾身の力で殴った! どごっ! たちまち床に大きく亀裂が走る。
「ぬおっ!」
デューク・デーモンはその衝撃によろめき、さらに亀裂に足を踏み入れて、大きくバランスを崩した。そして、そのまま横に転倒した。俺はそのスキにおっさんを担いで、近くの窓から外に放り投げた。よし、邪魔なおっさんを処分したぞ。他にも兵士がいるのが、アレだが。
「お、おのれ、いきなり何を……」
デューク・デーモンは頭を手で押さえながら、立ち上がった。見ると、耳の上あたりに大きなたんこぶを作っている。
って、あれ? 俺、今、こいつにダメージ与えることに成功したのか?
俺ははっとした。
「……なるほどな。レジェンドの障壁も、別に穴がないってわけじゃないのか」
シャツの襟を両手で正しながら、俺はにやりと笑った。
どすんどすん。領主の館の玄関ホールの中で、デューク・デーモンが俺を追い回し、暴れまわっている。だが、その攻撃は大振りすぎて、俺にとって回避するのは容易だった。やつの拳はただ、空を切るばかりだった。
「お前、悪魔族だろ。攻撃魔法は使わないのか?」
「は! 貴様ごときにそんなものは不要!」
「あ、そうか。使いたくても使えないやつか。肉弾戦系スキルにステ全振りみたいな?」
「ち、ちがーう!」
デューク・デーモンはますます顔を真っ赤にして叫んだ。図星のようだった。
「なるほど。格闘しか出来ないのか」
俺は安心した。広範囲の攻撃魔法とか使われたら、俺はともかく、他の人間に被害が出そうだからな。ここにも兵士が何人も倒れてるし。
「はっ! たとえ貴様が少しばかり素早かろうと、我は絶対に倒せぬのだぞ!」
と、デューク・デーモンは暴れるのをやめ、その場で上半身の筋肉を見せ付けるようなポーズをとった。まるでボディービルダーだ。
「……ああ、もしかして、お前、アレなのか」
「そうだ!」
アレで話が通じてしまった。そうかあ。めんどくさいなあ、アレ。
「まー、まだホントかどうかわかんねえし、試しに一発入れとくか」
と、瞬間、俺は無防備そのもののやつの懐に飛び込んだ。そして、膝頭にパンチを一発、叩き込んだ――ら、
「わっ!」
俺の拳はやつの膝に命中する直前、突如現れた光の壁に弾かれた! そして、俺の体は後ろに吹っ飛ばされ、壁にめりこんだ。
「いててて……」
今日は二回目だぞ。体を強く打ち付けられるの。受け身覚えててよかったよ、ほんと。
「見たか、人間。これが、我の体を守る絶対の障壁。この前では、あらゆる物理攻撃は無効なのだ!」
デューク・デーモンはそんな俺を見て、高笑いをしている。
「いや、無効じゃなくて、反射だろ。物理攻撃全反射能力。某悪魔召喚RPGの初見殺しの象さんみたいな。ほんと、めんどくせーよな。レジェンドモンスターってやつは」
俺は壁から抜け出し、床に着地しながら言った。そう、今の能力はレジェンドと呼ばれる最上位クラスのモンスター特有のものだ。基本的にこいつらは、人間の拳や武器や弓が一切効かない。攻撃しても今みたいに弾かれてしまう。
そして、今俺の目の前にいるデューク・デーモンもまた、そういう能力を持ったレジェンドモンスターの一種ってわけだ。まあ、こいつはレジェンドの中でも「ノーブルクラス」っていう下っ端の階級だったはずだけどな。
「フフ……思い知ったか、人間。貴様の勝ちは万に一つもないということをな!」
「そうか? 今の俺はお前を倒す手段はないが、それはお前も同じじゃねえか。お前の攻撃、俺に少しも当たらんし」
「はっ! ならばとことん追い詰め、疲弊させ、動きが鈍ったところをとらえるまでだ!」
デューク・デーモンは再び俺に襲い掛かってきた。相変わらず、その攻撃をかわすのは簡単だった。だが、こっちのスタミナ切れを待つ作戦というのは、気になった。相手は見ての通り、筋肉ダルマ、スタミナの塊だ。対する俺はちょっと喧嘩が強いぐらいの、普通の学生だ。帰宅部だ。趣味はゲームと深夜アニメ。スタミナ勝負では、さすがに勝ち目はなさそうだ――って、何気にピンチじゃねえか、俺? 負け筋しか見えないですよ、この状況?
俺はデューク・デーモンの攻撃をかわしながら、アルドレイ時代の記憶を必死に掘り起こし、レジェンドを倒す方法を思い出した。まず一つのやり方は、魔法攻撃。それも普通の魔法じゃだめだ。エインシャントと頭につく古代上級攻撃魔法じゃないと、レジェンドには通用しない。だが、そんなもの使える魔法使いはそうそういな――って、いるいる! いるよ、ちょうど! さっき、俺をここまでぶっ飛ばしたクソアマは間違いなくそれ系の魔法使えるよ!
つまり、あいつが離れた俺のピンチを察して、ここまで駆けつけてくれば俺の勝ちか。
そう、あいつが、俺を助けに来れば――。
「…………って、ないわー」
思わず自分にツッコミを入れてしまった。どうせ、あいつは今頃、あの部屋で二度寝しているだろう。そういうやつなんだ、昔から。スペック高いのに、肝心なときにまったく頼りにならないやつなんだ、あいつは。
「いい加減、観念したらどうだ!」
考えている間にもデューク・デーモンの拳や蹴りが飛んでくる。やはりそれらは俺に当たることはなかったが、反撃の手段が一切ないというのもなかなかのプレッシャーだった。
やっぱり、二つ目のやり方、魔剣しかないか……。
俺は玄関ホールの中央に飾られたままの勇者の剣をチラリと見た。あれは真っ赤な偽物に間違いないが、もしかすると、ニセモノなりに気合を入れて作られたもので、すごい力を秘めたものなのかもしれない? 見た感じ、そんな気配はまったくないが、あのおっさんは偉そうに自慢してたし、なんだかすごそうな鑑定書も見せてくれたし、今はそれに乗っかるのもいいかもしれない? というか、この状況……他に選択肢はないよな?
よし、いちかばちかだ! ここは使わせてもらうか!
俺は即座に横に飛び、ニセモノの勇者の剣の台の上に乗った。そして、刀身がむきだしのまま飾られている剣の柄を握り、構えた。
「ほう……アルドレイの魔剣を貴様ごときが使いこなすつもりか?」
「ええ、まあ……」
実際手にとってみてもやっぱり魔剣じゃねえっぽいし、貴様ごときがっていうか、本人ですけど何か?って反論したくなるが、面倒なのでそれは省略する。俺はそのまま、台の上から跳躍し、デューク・デーモンの肩に剣を振り下ろした。
が、直後、その剣の刀身は光の障壁にぶちあたって、折れてしまった。そう、ぱきっと。ガラスのように。
「やっぱニセモノじゃねえか!」
着地しながら思わずキレちゃう俺だった。なお、レジェンドの物理反射能力は、今のように攻撃に使われた武器に最優先で向かう。さっき俺が吹っ飛ばされたのは、素手で殴りかかったからだった。
「ふっ、やはりアルドレイの魔剣は、素人には使いこなせるものではなかったな」
デューク・デーモンは俺の腕のせいで壊れたと勘違いしている。ちげーよ、アホ。魔剣どころか、ただの綺麗な鉄くずですやん、これ。
クソッ、他に何か使えそうなのはないか? 俺は周囲を見回した。周りには兵士たちが倒れており、それぞれ武器を携えている……。
「おい、おっさん! ここに魔剣はあるか?」
ちょうど近くで寝ていた隊長らしきおっさんの腹を軽く蹴りながら尋ねた。おっさんはうめき声とともに目を開けて、「ある……」と答えた。
「本当か? どこにある? 早く教えろ」
「それは、ここに……」
おっさんは、自分が握っていた剣を掲げた。そして、おもむろに、「これは暗いところで光る魔法が付与されている」と、つぶやいた……って、ナニソレ!
「いや! そんな便利魔剣いらないから! レジェンド倒したいわけなの、俺は!」
「レジェンドの障壁を破る魔化が施された剣? そんなたいそうなもの、ここにあるわけな……ぐふっ!」
と、おっさんは急にそこで気絶してしまった。まるで、気まずくなってタヌキ寝入りを決め込んだように。
「ねーのかよ!」
平和ボケしすぎだろ、ここの連中。兵士ならレジェンド対策ぐらいしとけや。
「さっきから何をごちゃごちゃ言っている、人間!」
と、そこでデューク・デーモンが俺たちめがけて突進してきた。まずい。俺はともかく、このままじゃおっさんが危ない。使えないおっさんだけど、さすがに見捨てるわけには行かない。
俺はそこで、とっさに、床を渾身の力で殴った! どごっ! たちまち床に大きく亀裂が走る。
「ぬおっ!」
デューク・デーモンはその衝撃によろめき、さらに亀裂に足を踏み入れて、大きくバランスを崩した。そして、そのまま横に転倒した。俺はそのスキにおっさんを担いで、近くの窓から外に放り投げた。よし、邪魔なおっさんを処分したぞ。他にも兵士がいるのが、アレだが。
「お、おのれ、いきなり何を……」
デューク・デーモンは頭を手で押さえながら、立ち上がった。見ると、耳の上あたりに大きなたんこぶを作っている。
って、あれ? 俺、今、こいつにダメージ与えることに成功したのか?
俺ははっとした。
「……なるほどな。レジェンドの障壁も、別に穴がないってわけじゃないのか」
シャツの襟を両手で正しながら、俺はにやりと笑った。
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