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1章 暴虐の黄金竜マーハティカティ再討伐編
5 シスター(コスプレ)
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「ふーん。転生ねえ。それで、アルってば、今はこんな体なんだ?」
ティリセはものわかりがよかった。わりとすんなり話を信じてくれた。まあ、俺がアルドレイしか知らないことを色々話したせいもあるけど。
「あの、智樹様、こちらの方は……?」
ユリィが話に入ってきた。引き裂かれたローブを手で引っ張り、下着を隠しながら。
「ああ、こいつは、俺が勇者やってたころの仲間だよ。一緒にあの竜を倒した腕利きなんだぜ」
「まあ、そうなんですか! それはなんて素敵な出会いなんでしょう」
ユリィはたちまち目をきらきらさせた。おそらく、腕利きという言葉に反応したんだろう。今は、この世界は破滅の危機で、竜を倒せる超つよの人材が求められてるみたいだからな。
「腕利きって言っても、あたしは主にサポート役で、戦闘にはあんま参加してなかったんだけどね」
「でも、あのエルダーリッチを一撃で瞬殺されたじゃないですか。すごいです! 私、とても怖くて……あ、助けてくれてありがとうございました」
「いや、別に。あれぐらいどうってこと――」
「って、何勝手に、ワシを倒したことになってるんじゃあっ!」
と、そこで、二人の少女の前で白目をむいて倒れていたエルダーリッチが、起き上がって怒鳴った。
「ワ、ワシはアンデッド! ネバーデッド! あんな物理攻撃一発で倒した気分になられちゃあ、困るのじゃよ! ちゃんちゃらおかしくて、ヘソが茶を沸かして、頭がフットーしそうじゃよ!」
エルダーリッチは再び杖を構え、ユリィとティリセに向けて何やら魔法を放つ――が、
「うっさいわね! こっちは昔の知り合いに会ったばかりなのよ! 少しは空気読みなさいよ!」
恐ろしい速さで、ティリセはエルダーリッチに腹パンをかました。魔法は当然不発だ。
「ギャ、ギャワ……」
エルダーリッチはその場にひざをついて崩れた。そこをすかさずティリセは追撃、今度は回し蹴りをその頭に叩き込んだ。どごっ! またしても、エルダーリッチの体は吹っ飛ばされ、地面にたたきつけられた。
そして、
「こ、これぐらいでワシを倒した気になってもらっちゃあ、こま……ぐふっ!」
やつはまたしてもよろめきながら立ち上がった。まるで生まれたての子馬のようにぷるぷる四肢をふるわせながら。口からはだらだらと血を流している。(こいつ、血なんか通っていたのか)
「ティリセ、これ、もしかして無限ループってやつじゃねえか?」
「そうね。物理だと死なないみたいね。弱いのにめんどくさいわねえ」
「智樹様、ティリセ様、アンデッドを完全に葬るには、聖なる力が必要です。何か、そういう力を秘めたアイテムなど、お持ちですか?」
「お持ちじゃねえよ。俺、ほぼ手ぶらでこの世界に拉致されてきたんだぜ」
「あ、あるかも」
と、ティリセはぽんと手をたたいた。そして、おもむろに背中に背負っていた細長いものを手に取り、両手で握って構えた。見るとそれは……釘バット?
「聖なる杖よ。これなら、アンデッドを浄化できるはずよ」
「え? いやそれ、どう見ても違うものじゃ――」
めっちゃ世紀末風の武器だし。
「さあ、邪悪なるモノよ、覚悟しなさい! 聖なる乙女の浄化の祈りで滅してあげるわ!」
ティリセは聞いちゃいねえ。雄雄しく叫ぶと、それを近くのエルダーリッチ(冷たい雨に打たれて濡れそぼった子犬のように弱弱しく震えている)に振り下ろした! どごっ!
「ギャワーッ!」
エルダーリッチ死亡。そして――またすぐに起き上がる。
「はやく浄化されなさいよ!」
どご! ばき! ぐちゃ! エルダーリッチ死亡。そして、すぐに再生。そしてそして、またすぐに殴打され、死亡。再生……。なんだこの光景は?
「智樹様、あれには本当に聖なる力が宿っているのでしょうか?」
「う、うん、まあ、何かの力は感じるよな。みなぎってるよな。ほとばしってるよな」
額にきらきら汗をきらめかせ、釘バットを一心不乱に振り下ろす少女。まるで千本ノックをしているようだった。青春だなあ。なんか時折、汚い悲鳴が聞こえ、赤い汁が飛び散ってるけど、こまけえことはいいか。
やがて、再生力も限界に達したのだろう。エルダーリッチはこときれ、灰になって、すっかり消失してしまった。
「やったわ、アンデッドを聖なる力で浄化したわ!」
ティリセは満足げに額の汗をぬぐった。いや違う、そうじゃない。聖なる力なんてどこにもなかったし! ただ力任せにかわいそうなアンデッドモンスターをサンドバッグにしてただけだし!
「これが聖職者の浄化の儀式……お見事ですわ」
だから、ちげーよ、ユリィ! お前までボケ倒してどうするよ!
「つか、ティリセ、そもそもお前、なんでそんな格好してんの? 俺とパーティー組んでたときは、自称・盗賊だっただろ。自称、な」
「ああ、それはもうあたしの中では古いのよ。今の時代は、やっぱり、清楚でストイックな僧侶系美少女! 世界がちょうど荒廃している今だからこそ、人々は救いを求め、おのずと清廉にして可憐なシスターのあたしを求めるのよ。わかる?」
「せ、清廉……」
そんなお前様の顔には、エルダーリッチの返り血がべっとりついてますが?
「あの、智樹様、もしかして、このお方は、本物の聖職者ではないのですか?」
さすがにユリィもおかしいと気づいたようだ。小声でたずねてきた。
「当たり前だろ。あいつは、昔から超絶ミーハーで、これって思ったモノはすぐ真似するんだよ。あくまでうわっつらのカタチだけな。おおかた、今のマイブームが聖職者なんだろ。だから、あんなコスプレして、僧侶なりきりプレイしてんだよ」
そう、昔はそれが盗賊だった。スキルも適性も何もないくせに、索敵やトラップ解除してあげると、何かにつけてしゃしゃり出て、当然全部失敗してた。超絶ミーハーな上に、超絶ガサツ。それが、この目の前のエルフの少女の正体だ……。
「あと、ついでに言うと、あいつは超絶ジコチューで、超絶クズで、超絶金に汚い――」
「え? アル、今何か言ったかしら?」
と、ティリセが俺をにらんだ。その顔は笑顔だが、目は笑っていない。ひややかそのものだ。さらに、体には修羅のオーラをまとっている。
「い、いや、別になんでもないぜ……」
目をそらしながら、適当にごまかした。
ティリセはものわかりがよかった。わりとすんなり話を信じてくれた。まあ、俺がアルドレイしか知らないことを色々話したせいもあるけど。
「あの、智樹様、こちらの方は……?」
ユリィが話に入ってきた。引き裂かれたローブを手で引っ張り、下着を隠しながら。
「ああ、こいつは、俺が勇者やってたころの仲間だよ。一緒にあの竜を倒した腕利きなんだぜ」
「まあ、そうなんですか! それはなんて素敵な出会いなんでしょう」
ユリィはたちまち目をきらきらさせた。おそらく、腕利きという言葉に反応したんだろう。今は、この世界は破滅の危機で、竜を倒せる超つよの人材が求められてるみたいだからな。
「腕利きって言っても、あたしは主にサポート役で、戦闘にはあんま参加してなかったんだけどね」
「でも、あのエルダーリッチを一撃で瞬殺されたじゃないですか。すごいです! 私、とても怖くて……あ、助けてくれてありがとうございました」
「いや、別に。あれぐらいどうってこと――」
「って、何勝手に、ワシを倒したことになってるんじゃあっ!」
と、そこで、二人の少女の前で白目をむいて倒れていたエルダーリッチが、起き上がって怒鳴った。
「ワ、ワシはアンデッド! ネバーデッド! あんな物理攻撃一発で倒した気分になられちゃあ、困るのじゃよ! ちゃんちゃらおかしくて、ヘソが茶を沸かして、頭がフットーしそうじゃよ!」
エルダーリッチは再び杖を構え、ユリィとティリセに向けて何やら魔法を放つ――が、
「うっさいわね! こっちは昔の知り合いに会ったばかりなのよ! 少しは空気読みなさいよ!」
恐ろしい速さで、ティリセはエルダーリッチに腹パンをかました。魔法は当然不発だ。
「ギャ、ギャワ……」
エルダーリッチはその場にひざをついて崩れた。そこをすかさずティリセは追撃、今度は回し蹴りをその頭に叩き込んだ。どごっ! またしても、エルダーリッチの体は吹っ飛ばされ、地面にたたきつけられた。
そして、
「こ、これぐらいでワシを倒した気になってもらっちゃあ、こま……ぐふっ!」
やつはまたしてもよろめきながら立ち上がった。まるで生まれたての子馬のようにぷるぷる四肢をふるわせながら。口からはだらだらと血を流している。(こいつ、血なんか通っていたのか)
「ティリセ、これ、もしかして無限ループってやつじゃねえか?」
「そうね。物理だと死なないみたいね。弱いのにめんどくさいわねえ」
「智樹様、ティリセ様、アンデッドを完全に葬るには、聖なる力が必要です。何か、そういう力を秘めたアイテムなど、お持ちですか?」
「お持ちじゃねえよ。俺、ほぼ手ぶらでこの世界に拉致されてきたんだぜ」
「あ、あるかも」
と、ティリセはぽんと手をたたいた。そして、おもむろに背中に背負っていた細長いものを手に取り、両手で握って構えた。見るとそれは……釘バット?
「聖なる杖よ。これなら、アンデッドを浄化できるはずよ」
「え? いやそれ、どう見ても違うものじゃ――」
めっちゃ世紀末風の武器だし。
「さあ、邪悪なるモノよ、覚悟しなさい! 聖なる乙女の浄化の祈りで滅してあげるわ!」
ティリセは聞いちゃいねえ。雄雄しく叫ぶと、それを近くのエルダーリッチ(冷たい雨に打たれて濡れそぼった子犬のように弱弱しく震えている)に振り下ろした! どごっ!
「ギャワーッ!」
エルダーリッチ死亡。そして――またすぐに起き上がる。
「はやく浄化されなさいよ!」
どご! ばき! ぐちゃ! エルダーリッチ死亡。そして、すぐに再生。そしてそして、またすぐに殴打され、死亡。再生……。なんだこの光景は?
「智樹様、あれには本当に聖なる力が宿っているのでしょうか?」
「う、うん、まあ、何かの力は感じるよな。みなぎってるよな。ほとばしってるよな」
額にきらきら汗をきらめかせ、釘バットを一心不乱に振り下ろす少女。まるで千本ノックをしているようだった。青春だなあ。なんか時折、汚い悲鳴が聞こえ、赤い汁が飛び散ってるけど、こまけえことはいいか。
やがて、再生力も限界に達したのだろう。エルダーリッチはこときれ、灰になって、すっかり消失してしまった。
「やったわ、アンデッドを聖なる力で浄化したわ!」
ティリセは満足げに額の汗をぬぐった。いや違う、そうじゃない。聖なる力なんてどこにもなかったし! ただ力任せにかわいそうなアンデッドモンスターをサンドバッグにしてただけだし!
「これが聖職者の浄化の儀式……お見事ですわ」
だから、ちげーよ、ユリィ! お前までボケ倒してどうするよ!
「つか、ティリセ、そもそもお前、なんでそんな格好してんの? 俺とパーティー組んでたときは、自称・盗賊だっただろ。自称、な」
「ああ、それはもうあたしの中では古いのよ。今の時代は、やっぱり、清楚でストイックな僧侶系美少女! 世界がちょうど荒廃している今だからこそ、人々は救いを求め、おのずと清廉にして可憐なシスターのあたしを求めるのよ。わかる?」
「せ、清廉……」
そんなお前様の顔には、エルダーリッチの返り血がべっとりついてますが?
「あの、智樹様、もしかして、このお方は、本物の聖職者ではないのですか?」
さすがにユリィもおかしいと気づいたようだ。小声でたずねてきた。
「当たり前だろ。あいつは、昔から超絶ミーハーで、これって思ったモノはすぐ真似するんだよ。あくまでうわっつらのカタチだけな。おおかた、今のマイブームが聖職者なんだろ。だから、あんなコスプレして、僧侶なりきりプレイしてんだよ」
そう、昔はそれが盗賊だった。スキルも適性も何もないくせに、索敵やトラップ解除してあげると、何かにつけてしゃしゃり出て、当然全部失敗してた。超絶ミーハーな上に、超絶ガサツ。それが、この目の前のエルフの少女の正体だ……。
「あと、ついでに言うと、あいつは超絶ジコチューで、超絶クズで、超絶金に汚い――」
「え? アル、今何か言ったかしら?」
と、ティリセが俺をにらんだ。その顔は笑顔だが、目は笑っていない。ひややかそのものだ。さらに、体には修羅のオーラをまとっている。
「い、いや、別になんでもないぜ……」
目をそらしながら、適当にごまかした。
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