上 下
1 / 436
1章 暴虐の黄金竜マーハティカティ再討伐編

1 勇者アルドレイ死す! そして転生へ……

しおりを挟む
「俺、この戦いに勝ったら、姫様に告白するんだ……」

 勇者アルドレイは、うす暗い、朽ちた神殿の奥地でぼそっとつぶやいた。彼の周りには二人の女と、一人の男がいた。みな、アルドレイと同様に、きっちり武装している。

「アル、そういうことは思っていても口に出さないほうがいいんじゃ」
「不吉よ」
「つか、この状況で唐突に色ボケとかマジありえないんですけど!」

 男と二人の女から矢継ぎ早にツッコミが飛んできた。「う、うるさい!」アルドレイは顔を赤くして怒鳴った。

「人間どもめ、何をさえずっておる!」

 と、そこで彼らの倒すべき敵が現れた。神殿の床を突き破って、彼らの足元から。

 それは一匹の巨大なドラゴンだった。

「確かに今はおしゃべりしてる暇はなさそうだな!」

 アルドレイ他三名は、すぐにコメディモードからシリアスモードにスイッチを入れ替え、それぞれの武器を構えた。

 そしてすぐに、気合の掛け声とともにドラゴンに攻撃した!

「うおおおっ!」 

 ゆうしゃアルドレイのこうげき! かいしんのいちげき!

 わりとすぐにドラゴンを倒すことができた。

「いきなりクリティカルで1ターンキルとか、あっけなさすぎなんですけど!」
「俺にも仕事させろよなー」
「拍子抜けね」
「いやあ、ちょっとレベリングしすぎたかなあ」

 ドラゴンの帰り血を浴びながら、四人は和気あいあいとハイタッチしあった。彼らの長き戦いは終わった。悪しきドラゴンは死に、人類は破滅の危機から救われたのだった……完!

 と、綺麗に終わってもいいところだったが、彼らの話には続きがあった。そう、アルドレイの立てた死亡フラグである。

 ドラゴンを見事倒し、王都に凱旋した彼らを待ち受けていたのは、民衆から多大な賞賛と、王からの褒美の金銀財宝だった。

 そして、その晩、城のバルコニーで姫と二人きりになったアルドレイは、有言実行とばかりに告白したわけだが……。

「ごめんなさい。勇者様……」

 ぐさ! なんと姫にナイフで刺されてしまった!

「え、なんで――」

 意味わからんし! 俺、殺される理由ないし! 全力でツッコミたいが、的確に急所を突かれたらしく、力が入らない。素人のくせにやりおる、姫ぇ……。

「お父様に命令されたんです。勇者様を殺せと……」
「な……」

 なにそれえ……。へろへろになってその場に崩れちゃうアルドレイだった。

「本当にごめんなさい。ごめんなさい……」

 姫は泣いていた。しかし、泣いて済む問題ではない。いかな絶大な効能を秘めた乙女の涙といえど、殺人行為を正当化できるわけはない。

 アルドレイは朦朧としながら、なぜこんなことになってしまったのか考えた。

 俺、どこかで選択肢間違ったかな……。

 やがて彼は絶命した。




 さて、以上が、俺が頻繁に夢に見る、勇者アルドレイのバッドエンドの物語だ。それはまるで前世の記憶のように鮮明だ。

 だが、前世と呼ぶには、俺とアルドレイとでは生きている世界が違いすぎた。俺は現代日本に生きる、男子高校生、二宮智樹《にのみや・ともき》。アルドレイみたいなファンタジー世界には生きていないのだ。

 したがってこの謎の記憶は、俺の妄想なんだろうと思う。あるいは、どこかで見聞きした物語の断片か。そう、現実に起こったことじゃないんだ。世界を救ったのに、愛しの姫に殺された勇者なんていないはずなんだ。

 だが、その日、俺のクラスに転校してきた女子は、俺を見るなり、こう言った。

「勇者アルドレイ様。どうかまた世界を救ってください」

 朝のホームルームの真っ最中で、周りには他の生徒も教師もいるのに、そいつは俺のすぐ前にやってきて、真顔でそう言ったのだ。そして、俺に跪きやがった!

「な、何言ってんの、お前……」

 俺はぽかんとするほかなかった。

「あの竜が再び目覚めたのです。倒せるのはもはや、アルドレイ様達しかいません」

 その女子はやはり真剣そのものだった。長くつややかな黒髪をポニーテールにしてまとめた、すらりとした長身の少女だ。切れ長の涼しげな目をしていて、顔立ちはよく整っている。美少女と言ってもいい。

「そんなこと急に言われても……」

 意味わからんし! 

「時間がありません。詳しい説明は後でします」

 と、ポニテ美少女はそこですっと立ち上がり、ポケットから水晶の球を取り出して真上に放り投げた。

 たちまち、強い光がそこから迸った! うお、まぶし!

「さあ、アルドレイ様、行きましょう!」

 まぶしくて何も見えない中、ポニテ美少女は俺の手をつかみ、ぐいっと引っ張った。そして、その瞬間、俺達は大きな穴の中にでも吸い込まれてしまったようだった。

「うわああっ!」

 ぐにゃあ、と、一瞬周りの光が歪んだように見えた。そして、直後、俺とポニテ美少女は何もない草原に立っていた。俺は制服のままだが、ポニテ少女はローブ姿に変わっている。

「あ、あれ?」

 俺ってば教室にいたはずなんですけど。きょろきょろ周りを見回すが、やはりそこは原っぱだ。空は青く澄んでいて、小鳥のさえずりが遠く聞こえる。

「ここはアルドレイ様の生まれ故郷の世界、ルーンブリーデルです」
「え、何それ? 地球じゃないの?」
「はい。アルドレイ様が先ほどまでいらした世界ではない、いわゆる一つの異世界というやつです」
「えええええ!」

 なんだこの急展開! 超展開! 唐突にもほどがあるだろ! ただひたすら度肝を抜かれる俺だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...