広くて狭いＱの上で

第四章 学園祭編

第七話 警察官の仮装の人 その２

　チャーリンは人が映らないよう配慮しながら撮影している。

　そのまま、こちらにやって来た。

「ここで撮影してもいいかな。編集してチャンネルで配信することになるけれど」

　チャーリンが聞いたのは津川先輩だ。エプロンもしているし、落ち着いているし、責任者に見えたのだろう。

　しかし、元気よく答えたのは倉野さんだ。

「もちろん！　トレジャーハンター部の部長はわたし。食べ物も展示しているものも、店員も、全部遠慮なく配信していい！」

「ええッ！？　店員も！」

　さすがに五百万人も登録しているチャンネルに出演する勇気はない。

「もちろん、許可なく映った人にはモザイクをかけるよ。ははは、そんなに嫌なら撮影してもらえる？」

　隣にいる人はマネージャーさんだろうけれど、僕にスマホを渡してくる。

「あ、ええ。まぁ、構いませんけど」

　映る気もないのに断るのは何なので、僕はスマホを受け取った。

「オレたち、めちゃくちゃ出演オッケーだし！」

「わたしも、わたしも！」

　チャーリンの手を勝手に取るのは、弟妹のチビたちだ。さすがに中学生の妹は恥ずかしいようで遠慮している。

「あっ！　こら！　すみません。うちの弟と妹が」

「親御さんが良ければ、僕は全く構わないよ」

　僕が父さんと母さんに目線を向けると、無言でコクコクと頷かれた。どうやら、有名人の前では声を出すこともはばかれるらしい。

　お茶とお菓子が新しく運ばれてきて、撮影は始まった。

「視聴者のみんな、可愛いゲストが来てくれたよ！　紹介してくれるかな？」

「ここは！　わたしのお兄ちゃんのお店です！」

「これは！　お兄ちゃんの友だちの国のお菓子です！」

「紅茶と一緒に食べると美味しいです！」

　緊張していて、すごく棒読みだけどちゃんと言うことが出来た。動画を撮りながら、なぜだか授業参観に来た父兄の気分を味わっている。

「じゃあさっそく味見だ。食べたことはないけれど、オランダのお菓子でストロープワッフルっていうらしいよ」

　チャーリンが補足情報をキッチリ入れてから、ひと口かじった。

「うん。とても美味しい。キャラメルソースの甘さが紅茶を飲みたくさせる。うん。紅茶もいい味だしているよ」

　一生懸命作った料理を褒められて、周りの協力してくれている店の子たちが、わっと盛り上がる。僕も素直に嬉しかった。

「とてもいい店だね。警察官の出番は全く必要なかったかな」

　そのあとは僕からスマホを取り戻して、自撮りしながら店内を一周。ファンにサービスしてから、店を後にした。