広くて狭いQの上で

白川ちさと

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第二章 オランダ旅行編

第十一話 電車で行こう

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 その後も僕らは写真を撮りながら、観光を続ける。蚤の市に行ったり、船に乗って運河を巡ったり。写真を撮りがいがあった。

 オランダは海が近いから魚料理も多い。焼き立てのスワロープワッフルも売っていて、すっかり水上くんのお気に入りだ。僕もお土産に買っておいた。

 アムステルダム以外の都市にも電車で向かう。

「ここがミッフィーの町か」

 ユトレヒトはミッフィーが生まれた町らしい。

「本当にミッフィーの信号機がある」

 ミッフィーの歩道の信号機と像の写真の指定があったのだ。

 写真を撮って、ミッフィーミュージアムへ。

「可愛い!」

「可愛いね……」

「うん。可愛い」

「可愛い、可愛い」

 倉野さんは興奮していたけれど、僕ら男三人はあまり興味が沸かない。サイクリングの方が楽しいと思えてしまう。

 だけど、妹たちにお土産を買うことが出来た。小学生の妹にはぬいぐるみ。

 中学生の妹は僕のセンスがどうのって言っていたから、倉野さんに選んでもらう。ポストカードとカバンに着けたらいいとチェーンのついた小さなぬいぐるみだ。

 弟たちにはお菓子も買ったし、文句はないだろう。

 写真を撮ることも忘れていない。

 ミッフィーの町らしく、指定はオレンジ色の服を着た女の子だ。

 ところが、それが見かけない。夏らしく白いTシャツの女の子はいくらでもいるのに。

 倉野さんが他の指定の写真を撮りがてら、オレンジの服を着た女の子を見かけなかったか聞いてくれる。

 すると、地元の子だったようで、五人ほど引き連れてきてくれた。

 わざわざ、家でオレンジの服に着替えてきてくれたようだ。なんだか、モデル撮影会みたいになってしまったけれど、楽しく過ごすことが出来た。

 マーストリヒトという町にも行った。教会だった建物を改装した書店を訪れると、案の定津川先輩は大興奮だ。

「すごい! 全くの異文化を足して混ぜたらこんな風になるんだ!」

 津川先輩でなくても、すごく珍しい光景に僕らも興味津々だ。教会独特のアーチ状の高い天井に、本棚が並んでいる様は壮観だった。

「世界一美しい書店と言うだけのことある」

 倉野さんも訪れるのははじめてだったようだ。物珍しそうにしている。

 だけど、肝心の本の内容が分からない。津川先輩が本を睨みつけるように、ページをめくっている。

「こんな悔しいことは、初めてだ。でも、語学も勉強したら、読める本もどんどん増えていくんだよね」

 厳選した英語の本を三冊ほど、購入していた。

 本好きの津川先輩のことだ。英語の成績は爆上がりのはずだ。




 そんなこんなで、数日があっという間に過ぎていく。

「良かったね。旅行楽しんで。でも、音楽祭にはいかないんだよね」

「叔父さんがいじけている」

 お酒を飲むといつも陽気になるバートさんが見るからにしぼんでいた。リビングに入ったときから、暗いオーラを背負っているとは思っていたけれど――

 僕と水上くんはコソコソ話す。

「ど、どうしよう。こんなに気にしているなんて」

「でも、日程が合わないんだからしょうがないよ」

「そういえば、楽器を演奏する人も写真の指定があった気がするよ」

 僕と水上くん、倉野さんも、そういえばと声を揃えた。思わず、みんなでバートさんを注目してしまう。

「写真。楽器と言ってもギターだけじゃないんだろ」

 バートさんがギターを弾く写真はすでに撮影済みだ。楽団の人の写真がいるだろう。

 下を向いたまま、ふふふと怪しく笑うバートさん。

「アナベル、叔父さんがいないと困るなあ」

「うっ」

 そういえばと思い出す。倉野さんは確か叔父さんがいなくても寂しくないなどと豪語していた。

「叔父さん。たまたま、楽団に入っていて、たまたま、楽器出来る友達も多いからな」

「ううう……」

 気の強い倉野さんが完全に押されている光景なんて初めてだ。だけど、すぐにスッとビール瓶を掲げて、バートさんは笑う。

「なんて、もちろん協力するさ。可愛い姪のためだからね。それに……」

「それに?」

「いや。キミらは旅行を楽しむんだ。最終日までには何とかするよ」

 意味ありげな言葉が気になったけれど、僕らは言われた通り再び理事長が遺した謎を解くことに専念することにした。

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