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ウンディーネ編
第148話 力を合わせて
しおりを挟むサラマンダーの背中に掴まり、どうすればいいか思考を巡らせる。
まず、わたしたちは完全敵の懐の中だ。
月に来た以上、避けられなかったけれど、ここからどう抜け出せばいいか分からない。普通に考えたら敵を倒せば出られそうだけれど、敵は闇そのものだと本人は言っている。
それに精霊の王たちの影という、強敵を従えていた。
一体ずつ倒していくのも大変だったのに、四体同時だなんてどうやって戦えばいいのだろう。実際、どの局面を見てもみんな苦戦している。
「今です! イオ殿!」
「ハアッ!」
ノームは作り出したゴーレムで戦い、イオがそのゴーレムを足掛かりにノームの影の巨像に斬りつけている。
だけど、巨像は斬られたそばからすぐに再生させていて決定打にはならない。
「ルーシャ! 行くよ!」
「ええ!」
ルーシャちゃんはシルフと連携して、影を大斧で攻撃している。
大斧にシルフの力を加算しているのだ。それでも力は拮抗しているようで、中々影を斬りつけることは出来ない。
風がぶつかり合い、周りでは竜巻が渦巻いていた。
「ウンディーネ! 左!!」
「はい、エルメラさま!」
ウンディーネは肩にエルメラを乗せて、縦横無尽に滑るように走る影を追いかけていた。精霊の気配が分かるエルメラが次はどう動くか察知しているようだ。動きを読んで氷を生み出して先制攻撃する。
けれど、影は攻撃を物ともせずに反撃していた。
「このままじゃダメだ。何とかしないと……!」
サラマンダーも自分の影との攻防に手一杯だ。影は本当に本人と同じか、それ以上の力を持っているように見える。
「シュウマ山に登ったときの比じゃない……。そうだ!」
「どうした、ユメノ」
「うん! あのときみたいに歌を聞かせたらどうかな!?」
影と言っても、サラマンダーの影だ。同じ感覚を持っているかもしれない。
『無駄だ』
返事をしたのはサラマンダーではなかった。
頭上にある闇の眼だ。
『この者たちは主から切り離された影。意志などない。歌などが通じるはずがないだろう?』
なんだか上からの物言いにムッとする。
けれど、確かに何も言わずに戦っているから、歌は聞いてくれないだろう。
なら、どうしたら……。
「くッ! さすがにブレスを吐き過ぎである!」
サラマンダーはぜぇぜぇ言いながら息を吸って、大きく影から距離をとった。影は好機と思ったのか、さらに追い詰めようと攻撃してくる。
「でも、こっちには、わたしがいる!」
本体と影との違い。
それは、パートナーの仲間がいることだ。
「ホムラ! 矢を!」
すぐに白い矢がホムラの弓に装填され、キリキリと弦を引く。
炎の矢はサラマンダーの吐き出す炎に比べれば、すごく細くてちっぽけだ。それでも、かく乱するぐらいなら出来るかもしれない。
影が再び炎を吐こうとしている。
「今だ! 行けッ!」
気合を入れた声と共に矢を放った。
矢は真っ直ぐ、サラマンダーの影に向かっていく。狙いは額だ。
少しでも時間稼ぎが出来たら――。
ギャアアアア!
「へ?」
額に矢が命中した影は、思いのほか大打撃を受けたかのように苦しむ。
「そ、そんなに効くの!? サラマンダーって頭が弱点!?」
「いや、吾輩に弱点などない! もちろん炎も効かぬ!」
「じゃあ、どうして……」
そうこう話しているうちに、影は頭を振って矢を霧散させる。効くことは効くけれど、致命傷とはいかないみたい。
サラマンダーの影は再び炎を吐いて攻撃してくる。
「サラマンダー! わたしに影をよく観察させて!」
「分かったである!」
サラマンダーは言われた通り、炎を吐かれても反撃しないで避けるように飛ぶ。
よく見えるように、炎を浴びない程度に近づいた。
影の額もよく見える。放った矢はもうないけれど、そこだけ影が綻んでいるようだ。
サラマンダーにわたしの矢は効かない。炎同士だから。
だけど、影には効いた。サラマンダーの炎はいまいち効果がないみたいなのに。
どうしてわたしの矢なら効いたのだろうか。イオの剣やルーシャちゃんの大斧は、影には効いていないように見える。
ホムラが作り出す炎の矢。出来る限り炎が凝縮されていて、――白い。
「そっか!」
「分かったか、ユメノ!」
「うん! 上手く行けば影たち全員を倒せるかもしれない! このまま、避けながら皆のところへ!」
「あい、分かった!」
サラマンダーは影の攻撃を避けながら、まずはイオとノームの元に向かう。
未だにノームが作り出した巨大ゴーレムと影の巨像が組み合っている。
「イオ!」
「どうした、ユメノ!」
ゴーレムの頭の上にいるイオが剣を止めて振り返った。
「ノームに伝えて! 影たちを一か所に集めて閉じ込めるの!」
イオの返事も聞けない内に、次はエルメラとウンディーネの元へ。
ウンディーネは高速で移動していて、目の前に来たと思ってもすぐに遠ざかってしまう。
「おーい! エルメラ!」
わたしは手を振って大声でエルメラを呼んだ。
「どうしたの、ユメノ!」
気づいたエルメラは炎が当たらない程度に近づいて来てくれた。
「うん! ウンディーネに伝えて! 四体の影を一か所に集めて閉じ込めるの!」
「分かった!」
エルメラはすぐにウンディーネの元へ飛んでいく。
後はルーシャちゃんとシルフだ。
そう思ったら、追って来ていたサラマンダーの影に何かが激突する。
ギャアアア!
「あ! シルフの影!」
ぶつかって来たのは、ルーシャちゃんの姿だけど、シルフの羽を生やした影だ。わたしとサラマンダーの元にシルフとルーシャちゃんが飛んでくる。
「話は聞いたよ」
「影たちを一か所に集めるのは、わたくしたちにお任せなさい!」
かなり満身創痍な状態だけれど、歯を食いしばって二人は影の元に飛んでいく。
「「ハアアッ!!」」
大きな風の塊を二人で作って、サラマンダーの影とシルフの影に向けて放った。二体はノームたちがいる方へと飛ばされていく。
「イオ殿!」「ああ」
イオがノームの影の巨像の足を斬った。
バランスを崩した巨像をノームのゴーレムが巴投げで投げ飛ばす。投げた空中にはサラマンダーの影とシルフの影が――。
三体がぶつかり、ノームの影に押しつぶされるように地面に倒れ込む。
「ウンディーネ! こっち!」
そこへウンディーネが自らの影を連れてやって来た。
「左へ抜けようとしているよ!」
「はい!」
エルメラが影の進路を予測して、ウンディーネが先回りして氷で進路を塞ぐ。追い込まれた先には、ルーシャちゃんとシルフが待機していた。
「あなたも、あちらへ行きなさいませ!」
ルーシャちゃんとシルフの生み出した風が、ウンディーネの影を他の影の元へとさらに追い込む。
「よし! 今の内に!」
わたしはノームを振り返る。
「ノーム、天井が開いた箱で影を覆って! その間にサラマンダーは上へ!」
了解しましたとノームは頷く。サラマンダーも上空に向かって羽ばたいた。
ノームが作り出したゴーレムがどろりと溶けて、影たちの周りを囲む。
あっという間に閉じ込めたけれど、中の影たちも黙って見ていない。壁を壊そうとするし、サラマンダーとシルフの影は飛んで天井から出て来ようとする。
サラマンダーに乗って、箱の中の影たちを見下ろしながらわたしは弓を引く。
そして、お腹に力を入れて思い切り声を張り上げた。
「ホムラ! 一斉射撃、用意!」
弓の矢だけではなく、私の周りには矢が大量に現れる。
「撃てーッ!」
何百と言う矢が同時に放たれた。
白い矢は光の束になり影を余すことなく覆う。
「くッ!」
あまりの眩しさに、サラマンダーは目を背けた。
それはほんの数秒のことだった。辺りはシンと静まり返る。
わたしは薄っすらと目を開けて、穴の中をのぞき込んだ。
「やった……」
四体の影は跡形もなく消え去っていた。
「なんと! ユメノが炎の矢で影を消したのか?」
「正確には炎の光で、だけどね」
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炎は強ければ強いほど光を増す。
精霊の王たちの影は確かにそれぞれのコピーかもしれない。
けれど、その前に闇属性なのだ。強い光が当たればかき消えてしまう。
わたしは勝ち誇って、空を見上げた。
「見たか! 私たちの力を!」
そこには、やはり闇の中に眼がある。あいつも間違いなく闇属性だ。
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