声優召喚!

白川ちさと

文字の大きさ
上 下
148 / 153
ウンディーネ編

第148話 力を合わせて

しおりを挟む

 サラマンダーの背中に掴まり、どうすればいいか思考を巡らせる。

 まず、わたしたちは完全敵の懐の中だ。

 月に来た以上、避けられなかったけれど、ここからどう抜け出せばいいか分からない。普通に考えたら敵を倒せば出られそうだけれど、敵は闇そのものだと本人は言っている。

 それに精霊の王たちの影という、強敵を従えていた。

 一体ずつ倒していくのも大変だったのに、四体同時だなんてどうやって戦えばいいのだろう。実際、どの局面を見てもみんな苦戦している。

「今です! イオ殿!」

「ハアッ!」

 ノームは作り出したゴーレムで戦い、イオがそのゴーレムを足掛かりにノームの影の巨像に斬りつけている。

 だけど、巨像は斬られたそばからすぐに再生させていて決定打にはならない。

「ルーシャ! 行くよ!」

「ええ!」

 ルーシャちゃんはシルフと連携して、影を大斧で攻撃している。

 大斧にシルフの力を加算しているのだ。それでも力は拮抗しているようで、中々影を斬りつけることは出来ない。

 風がぶつかり合い、周りでは竜巻が渦巻いていた。

「ウンディーネ! 左!!」

「はい、エルメラさま!」

 ウンディーネは肩にエルメラを乗せて、縦横無尽に滑るように走る影を追いかけていた。精霊の気配が分かるエルメラが次はどう動くか察知しているようだ。動きを読んで氷を生み出して先制攻撃する。

 けれど、影は攻撃を物ともせずに反撃していた。

「このままじゃダメだ。何とかしないと……!」

 サラマンダーも自分の影との攻防に手一杯だ。影は本当に本人と同じか、それ以上の力を持っているように見える。

「シュウマ山に登ったときの比じゃない……。そうだ!」

「どうした、ユメノ」

「うん! あのときみたいに歌を聞かせたらどうかな!?」

 影と言っても、サラマンダーの影だ。同じ感覚を持っているかもしれない。

『無駄だ』

 返事をしたのはサラマンダーではなかった。

 頭上にある闇の眼だ。

『この者たちは主から切り離された影。意志などない。歌などが通じるはずがないだろう?』

 なんだか上からの物言いにムッとする。

 けれど、確かに何も言わずに戦っているから、歌は聞いてくれないだろう。

 なら、どうしたら……。

「くッ! さすがにブレスを吐き過ぎである!」

 サラマンダーはぜぇぜぇ言いながら息を吸って、大きく影から距離をとった。影は好機と思ったのか、さらに追い詰めようと攻撃してくる。

「でも、こっちには、わたしがいる!」

 本体と影との違い。

 それは、パートナーの仲間がいることだ。

「ホムラ! 矢を!」

 すぐに白い矢がホムラの弓に装填され、キリキリと弦を引く。

 炎の矢はサラマンダーの吐き出す炎に比べれば、すごく細くてちっぽけだ。それでも、かく乱するぐらいなら出来るかもしれない。

 影が再び炎を吐こうとしている。

「今だ! 行けッ!」

 気合を入れた声と共に矢を放った。

 矢は真っ直ぐ、サラマンダーの影に向かっていく。狙いは額だ。

 少しでも時間稼ぎが出来たら――。

 ギャアアアア!

「へ?」

 額に矢が命中した影は、思いのほか大打撃を受けたかのように苦しむ。

「そ、そんなに効くの!? サラマンダーって頭が弱点!?」

「いや、吾輩に弱点などない! もちろん炎も効かぬ!」

「じゃあ、どうして……」

 そうこう話しているうちに、影は頭を振って矢を霧散させる。効くことは効くけれど、致命傷とはいかないみたい。

 サラマンダーの影は再び炎を吐いて攻撃してくる。

「サラマンダー! わたしに影をよく観察させて!」

「分かったである!」

 サラマンダーは言われた通り、炎を吐かれても反撃しないで避けるように飛ぶ。
よく見えるように、炎を浴びない程度に近づいた。

 影の額もよく見える。放った矢はもうないけれど、そこだけ影が綻んでいるようだ。

 サラマンダーにわたしの矢は効かない。炎同士だから。

 だけど、影には効いた。サラマンダーの炎はいまいち効果がないみたいなのに。

 どうしてわたしの矢なら効いたのだろうか。イオの剣やルーシャちゃんの大斧は、影には効いていないように見える。

 ホムラが作り出す炎の矢。出来る限り炎が凝縮されていて、――白い。

「そっか!」

「分かったか、ユメノ!」

「うん! 上手く行けば影たち全員を倒せるかもしれない! このまま、避けながら皆のところへ!」

「あい、分かった!」

 サラマンダーは影の攻撃を避けながら、まずはイオとノームの元に向かう。

 未だにノームが作り出した巨大ゴーレムと影の巨像が組み合っている。

「イオ!」

「どうした、ユメノ!」

 ゴーレムの頭の上にいるイオが剣を止めて振り返った。

「ノームに伝えて! 影たちを一か所に集めて閉じ込めるの!」

 イオの返事も聞けない内に、次はエルメラとウンディーネの元へ。

 ウンディーネは高速で移動していて、目の前に来たと思ってもすぐに遠ざかってしまう。

「おーい! エルメラ!」

 わたしは手を振って大声でエルメラを呼んだ。

「どうしたの、ユメノ!」

 気づいたエルメラは炎が当たらない程度に近づいて来てくれた。

「うん! ウンディーネに伝えて! 四体の影を一か所に集めて閉じ込めるの!」

「分かった!」

 エルメラはすぐにウンディーネの元へ飛んでいく。

 後はルーシャちゃんとシルフだ。

 そう思ったら、追って来ていたサラマンダーの影に何かが激突する。

 ギャアアア!

「あ! シルフの影!」

 ぶつかって来たのは、ルーシャちゃんの姿だけど、シルフの羽を生やした影だ。わたしとサラマンダーの元にシルフとルーシャちゃんが飛んでくる。

「話は聞いたよ」

「影たちを一か所に集めるのは、わたくしたちにお任せなさい!」

 かなり満身創痍な状態だけれど、歯を食いしばって二人は影の元に飛んでいく。

「「ハアアッ!!」」

 大きな風の塊を二人で作って、サラマンダーの影とシルフの影に向けて放った。二体はノームたちがいる方へと飛ばされていく。

「イオ殿!」「ああ」

 イオがノームの影の巨像の足を斬った。

 バランスを崩した巨像をノームのゴーレムが巴投げで投げ飛ばす。投げた空中にはサラマンダーの影とシルフの影が――。

 三体がぶつかり、ノームの影に押しつぶされるように地面に倒れ込む。

「ウンディーネ! こっち!」

 そこへウンディーネが自らの影を連れてやって来た。

「左へ抜けようとしているよ!」

「はい!」

 エルメラが影の進路を予測して、ウンディーネが先回りして氷で進路を塞ぐ。追い込まれた先には、ルーシャちゃんとシルフが待機していた。

「あなたも、あちらへ行きなさいませ!」

 ルーシャちゃんとシルフの生み出した風が、ウンディーネの影を他の影の元へとさらに追い込む。

「よし! 今の内に!」

 わたしはノームを振り返る。

「ノーム、天井が開いた箱で影を覆って! その間にサラマンダーは上へ!」

 了解しましたとノームは頷く。サラマンダーも上空に向かって羽ばたいた。

 ノームが作り出したゴーレムがどろりと溶けて、影たちの周りを囲む。

 あっという間に閉じ込めたけれど、中の影たちも黙って見ていない。壁を壊そうとするし、サラマンダーとシルフの影は飛んで天井から出て来ようとする。

 サラマンダーに乗って、箱の中の影たちを見下ろしながらわたしは弓を引く。

 そして、お腹に力を入れて思い切り声を張り上げた。

「ホムラ! 一斉射撃、用意!」

 弓の矢だけではなく、私の周りには矢が大量に現れる。

「撃てーッ!」

 何百と言う矢が同時に放たれた。

 白い矢は光の束になり影を余すことなく覆う。

「くッ!」

 あまりの眩しさに、サラマンダーは目を背けた。

 それはほんの数秒のことだった。辺りはシンと静まり返る。

 わたしは薄っすらと目を開けて、穴の中をのぞき込んだ。

「やった……」

 四体の影は跡形もなく消え去っていた。

「なんと! ユメノが炎の矢で影を消したのか?」

「正確には炎の光で、だけどね」

 太陽の光だって、元は太陽の炎だ。

 炎は強ければ強いほど光を増す。

 精霊の王たちの影は確かにそれぞれのコピーかもしれない。

 けれど、その前に闇属性なのだ。強い光が当たればかき消えてしまう。

 わたしは勝ち誇って、空を見上げた。

「見たか! 私たちの力を!」

 そこには、やはり闇の中に眼がある。あいつも間違いなく闇属性だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サビアンシンボルのタロット詩集、ときどき英文読解

都築 愛
児童書・童話
サビアンシンボルは、占星学と霊性的な成長に関連する一連の象徴的なイメージです。これらのシンボルは、宇宙のメッセージや導きを受け取るためのツールとして使用されることがあります。また、タロットカードも占いや霊的な瞑想のために使用される道具であり、各カードには固有の象徴があります。 サビアンシンボルとタロットカードを組み合わせて、ジョークと照らし合わせながら詩を書くことは、霊的な啓示や洞察を得るための深い表現の手段として楽しむことができます。 時々気まぐれで、猫でもわかる英文読解をしたりして、人生を楽しむ勉強をしています。 《サビアンシンボルに関する日本語WEBサイト》 ☆さくっとホロスコープ作成 http://nut.sakura.ne.jp/wheel/sabian.html ☆松村潔のページ http://matsukiyo.sakura.ne.jp/sabiantxt.html ☆sabian symbol http://www.246.ne.jp/~apricot/sabian/sabianfr.html ☆すたくろ https://sutakuro.com/sabianhome1/ ☆絵でわかるサビアンシンボル占星術 https://sabianimage.link/ ☆心理占星術研究会 http://astro-psycho.jugem.jp/?cid=18 ☆サビアンシンボルとは?ー星読みテラス https://sup.andyou.jp/hoshi/category/sabian-symbol/ ☆ サビアンシンボル<一覧> https://heart-art.co/list-of-savian-symbols/ 《サビアンシンボルに関する英語WEBサイト》 ★Sabian Assembly https://sabian.org/sabian_philosophy.php ★The Sabian Symbols http://www.mindfire.ca/An%20Astrological%20Mandala/An%20Astrological%20Mandala%20-%20Contents.htm ★Sabian Symbols https://sabiansymbols.com/the-sabian-symbols-story/

共感性能力(短編集)

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)
児童書・童話
色弱の人の為に信号に⭕❌🔺マークをつけてね

普通じゃない世界

鳥柄ささみ
児童書・童話
リュウ、ヒナ、ヨシは同じクラスの仲良し3人組。 ヤンチャで運動神経がいいリュウに、優等生ぶってるけどおてんばなところもあるヒナ、そして成績優秀だけど運動苦手なヨシ。 もうすぐ1学期も終わるかというある日、とある噂を聞いたとヒナが教えてくれる。 その噂とは、神社の裏手にある水たまりには年中氷が張っていて、そこから異世界に行けるというもの。 それぞれ好奇心のままその氷の上に乗ると、突然氷が割れて3人は異世界へ真っ逆さまに落ちてしまったのだった。 ※カクヨムにも掲載中

【完結】誰かの親切をあなたは覚えていますか?

なか
児童書・童話
私を作ってくれた 私らしくしてくれた あの優しい彼らを 忘れないためにこの作品を

アポロ・ファーマシー

中靍 水雲
児童書・童話
薬局・アポロファーマシーは不思議な薬局だ。 店主の玉野は常にカラスの被り物をしているし、売っている薬も見たことのないものばかり。 そして、対価は「マテリアル」という薬に使われる素材。 マテリアルは人間からしか取れないもので、それは爪や髪の毛のように取り出しても痛くも痒くもないのだ。 店主の玉野の不思議な力で取り出し、対価としていた。 * この町に引っ越して来たばかりのモコはアポロファーマシーの存在を知り、店を訪ねる。 仲よくなったクラスメイト・ユナが可愛がっていたペットを亡くし、元気をなくしていたのだ。 どうにか元気づけたいと言ったモコに玉野が処方したのは「ソレイユの花の種」。 植えると一生の友情が咲くと言う。 早速それをユナにプレゼントしたモコ。 ユナはモコの気持ちに応え、懸命に花を育てる。 そしてある日、「いよいよ咲きそう」とユナに言われ、花を見に行くことになったモコ。 しかし、家に着くとユナは「間に合わなかった」と泣いていた。 モコは薬の説明書を読んでいなかったのだ。 薬には副作用があった。 「一週間以内に咲かせないと、一生の友情を失う」。 もうダメだとモコは落ち込む。 「ユナの笑顔を見たかっただけなのに」と。 するとユナは「違うよ」とモコに言う。 「私は二人で花を見たかった。 そのために花を咲かせたかった」。 すると、悪天候だった空が晴れ、突然ソレイユの花が開き始めた。 目的は達成したが、納得がいかないモコはそのまま玉野の元へ。 「副作用なんて聞いてない」「一般の薬局でも言っていますよ。 用法容量は守るようにと」玉野の言い分にぐうの音も出ないモコ。 「でも何でいきなり花が咲いたんだろう」「あの花は最後に友情という養分を与えなければ咲かないのですよ」。 * 他にも「アプロディテのと吐息」「石清水のせせらぎジェル」「妖精用丸型オブラート」「ヒュギエイアの整腸薬」など多数取り揃えております。 * 表紙イラスト ノーコピーライトガールさま

沖縄のシーサーとミケネコーンとわたしの楽しい冒険をどうぞ~

なかじまあゆこ
児童書・童話
友達がいることは素晴らしい! 異世界(怪獣界)から地球に落っこちてきたミケネコーンも人間もみんな友達だよ。 門柱の上に置かれていたシーサーの置物が目に入った。その時、猫の鳴き声が聞こえてきた。だけど、この生き物は白、茶色、黒の三色の毛色を持つ短毛のいわゆる三毛猫と同じ柄なんだけど、目なんて顔からはみ出すほど大きくて、お口も裂けるくらい大きい。 猫ではない不思議な生き物だった。 その生き物は「ミケネコーンですにゃん」と喋った。 シーサーとぶさかわもふもふ猫怪獣ミケネコーンと中学一年生のわたし夏花(なつか)とクラスメイトみっきーのちょっと不思議な元気になれる沖縄へテレポートと友情物語です。 ミケネコーンは怪獣界へ帰ることができるのかな。

氷の魔女と春を告げる者

深見アキ
児童書・童話
氷の魔女と呼ばれるネージュは、少女のような外見で千年の時を生きている。凍った領地に閉じこもっている彼女の元に一人の旅人が迷いこみ、居候として短い間、時を共にするが……。 ※小説家になろうにも載せてます。 ※表紙素材お借りしてます。

【完結】だるま村へ

長透汐生
児童書・童話
月の光に命を与えられた小さなだるま。 目覚めたのは、町外れのゴミ袋の中だった。 だるまの村が西にあるらしいと知って、だるまは犬のマルタと一緒に村探しの旅に出る。旅が進むにつれ、だるま村の秘密が明らかになっていくが……。

処理中です...