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ウンディーネ編
第135話 本当の企み
しおりを挟む神殿内は相変わらずシンと静まり返っていた。陽が傾いてきたせいか、ステンドグラスの光が長く伸びている。
わたしたちはなるべく気配を消して、奥へと進んだ。
柱の影からウンディーネの方を覗き込む。
そこにはやはり凍り付いたままのウンディーネ。その前にはメジロが目を閉じて、座禅を組んでいた。
わたしたちは一言も発しなかったのに、メジロはゆっくりと目を開けた。
「来なさったか」
わたしたちは身を隠すのを辞めて前に出た。
「戻って来るのが分かっていたみたいだね」
「あの程度で精霊の王たちと共にしているエレメンタルマスターたちが、倒れたとは到底思えぬ。……このまま、ウンディーネを諦めるとも」
メジロは立ち上がって、短い杖をわたしたちに向ける。
「さぁ、ツルオリ。決戦のときである」
静かな声でメジロはツルオリを呼んだ。
杖の先にある精霊石から出てきた氷のオオカミは、メジロの後ろでこっちをジッと睨みつけている。
その後ろにはウンディーネ。やっぱり、メジロも分かっているみたい。
「ウンディーネを盾にするつもり?」
うかつに攻撃したらウンディーネを壊しかねない。
メジロはちらりと背後を振り返った。
「……ウンディーネがどうなろうと構わない。お主たちも分かっているだろうが、恐らくウンディーネが壊れれば未曽有の大災害が起こるだろう」
わたしはぎゅっと杖を握る。
まだメジロとにらみ合っているだけだけど、想像以上に緊迫した状況だ。
「家族はもう誰もいない。拙者は世界がどうなろうと構わない。それに、そうなれば村を襲った精霊使いも労せずして復讐することもできる」
「そんな! あなた一人の私怨のためにわたくしたちの大事な村まで巻き込むつもりですの!?」
カッと靴音を立てて、ルーシャちゃんが一歩前に出る。
「致し方あるまい」
メジロは冷静な口調で言った。イオがルーシャちゃんを引き戻す。
「ルーシャ、あまり前に出るな。どんな罠が仕掛けてあるか分からない」
「でも」
「メジロ。一度俺たちを地下の洞窟に落したのは、自らの目的を知らせるため。そして、ここで戦闘をするためだな」
「いかにも」
「ウンディーネを凍らせたのは、一年前だ。それなのに、こうして壊れていないのは、メジロは自分では壊せなかったんじゃないのか?」
イオの言うことに、わたしもハッとした。
メジロがウンディーネを凍らせたことも怪しいのに、壊せるはずがない。
「じゃあ、わたしたちを連れて来たのって……」
イオが頷く。
ずっとメジロがわざわざわたしたちを連れて来た理由が分からなかった。
強い精霊使いなら誰でもいいなら、わたしたちを連れにわざわざノーマレッジまで出向いたりしない。
「そうだ。俺たち精霊の王を呼び出せる者たちなら、ウンディーネを破壊することが出来る。そう踏んだのだろう」
イオの鋭い視線を受けて、メジロは沈黙する。
きっと、その通りなのだろう。
「メジロ、いまならまだ間に合うよ。みんなでウンディーネの氷を溶かそう!」
メジロに訴えかける。メジロが大人しくさえしてくれていたら、きっと氷も溶かせるし、ウンディーネもきっと許してくれるはずだ。
「全てお見通しというわけか……、だが!」
メジロは杖を横に薙ぐ。
「皆の者! 出合え!!」
ズズズズと神殿が揺れ始めた。
「な、なに?」
「みんな、気をつけろ」
身構えているうちに神殿の壁や床が不自然に膨張していく。
「これは、氷の精霊?」
膨張した壁や床の中にいたのは、眼を閉じている動物。熊や狐、鹿などの様々な種類の動物がいる。
きっと氷や雪の精霊だ。
氷がはじけ飛び、中の精霊たちがこちらを睨んだ。明らかに殺気を帯びた視線に、わたしは手に汗を握る。
「戦う気満々ですわね、ミルフィーユ」
「説得には応じないか、クロック」
イオとルーシャちゃんは、武器を具現化させて構える。
「エルメラ」
「うん。ユメノ」
空中にいるエルメラと頷き合う。わたしたちが出来ることは一つ。
――ウンディーネに声を届けることだ。
「拙者は誇り高きジュレ族が戦士メジロ! もはや後戻りなど出来ぬのだ!」
だけど、メジロの声はとても力強い。そう感じた。
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