声優召喚!

白川ちさと

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ウンディーネ編

第113話 ノーマレッジへ

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 結局、大人しかったカニがなぜいきなり襲いだしたのかは分からない。

 シルフも、原因は分からないと言っていた。

 なんだか、精霊の王たちに異変があったときと似ている気がする。

 以前は人間とは仲良くしていたのに、精霊の王たちは人間を襲うようになった。感情の高ぶりに任せて。そのときは、月がなくなったと言っていたけれど。

「兄さん! ユメノさん! おかえりなさい!」

 ノーマレッジにつくと、ジュリさんが迎えてくれた。

「ただいま、ジュリ」

「どなたですの?」

 イオの態度がいつもより柔和なことを不思議に思ったのだろう。ルーシャちゃんがわたしにこっそり耳打ちして来た。

「イオの生き別れていた妹だよ」

「そうですの」

 少し寂しそうな表情をするルーシャちゃん。

 もしかしたら、眠ったままのザックさんのことを思い出しているのかもしれない。

「じゃあ! ルーシャにノーマレッジを案内するね!」

 気を遣ったのだろう。エルメラが人一倍元気に言って飛んでいった。




 だけど、わたしとエルメラもびっくりした。少し離れていた間に、ノームとの闘いで荒れ果ていていたノーマレッジは激変していた。

 妖精の樹を中心にして、木造の建物がたくさん建っている。周りも畑があって、豊かな農村といった雰囲気になっていた。

「巫女さま! おかえりなさい!」

「ただいま!」

 村の人たちがわたしに気づいて、あいさつしてくる。

 ここが故郷というわけじゃないけど、おかえりって言われると何だか落ち着ける場所のように感じる。

「畑作りをしているんだね」

「ええ。宝石はもう取れなくなってしまいましたから、加工できる職人は他の都市に移って行きました。でも、ここはやはり肥よくな土地で作物がよくなりますよ」

 カゴにはたくさんの野菜が入っている。人が住みやすいように、ノームが土に何かしているのかもしれない。

 元々ノーマレッジは花にあふれた町だったけれど、畑の端では可憐な花が揺れている。

「地味だけど、良い村ですのね」

 ルーシャちゃんも気にいったようだ。

「おお! イオ、ユメノ、エルメラ! 帰って来たのか!」

「カカ!」

 ノーマレッジに残った妖精のカカが飛んで来た。

「元気だったか?」

「おう! 俺も妖精の樹を復活させるために旅に出ていて、この前戻ってきたばかりだ。すごいんだぞ! ここの妖精の樹には、妖精たちがたくさん帰ってきているんだ!」

「そうなんだ! 良かったね!」

 妖精たちは母親である妖精の樹から旅立つと、生命力を集めて来て、戻って来るのが習わしらしい。

 以前、妖精たちが旅立つ様子は幻想的だった。

「この前、旅立った子たちがもう帰ってきているの?」

「いいや。あいつらはまだ赤ん坊だ。妖精はだいたい、五十年ぐらいで成人するからな。それ以前に旅立っていた子たちが帰ってきているんだ!」

 カカの言うことにわたしは驚いた。

 妖精は五十年で成人。それなら――。

「カカとエルメラって、五十年以上生きているってこと?」

「そうだぞ! な! エルメラ! 俺たちの方がユメノたちより、ずーっと年上なんだ!」

「う、うん」

 エルメラは微妙な表情をする。女の子の年齢なんてあまり詳しく聞かれたくないのかもしれない。

「でも、良かった。みんな元気そうで」

 わたしがそう言ったときだ。

「おいおい、俺たちを忘れていないか?」

 振り返ると、カッツェとムウさんがこちらにやって来ていた。

「二人ともノーマレッジにいたんだね」

「まあな。以前と違って精霊たちは襲って来るようになったし、村はまだまだ仕事がたくさんあるしな」

 カッツェの言う通り、工事をしている場所はたくさんある。

 でも、やっぱり精霊は人を襲うようになったんだ。以前のきらびやかなノーマレッジのときは、共存していたのに。

「それで、シルフはどうなったんだ? シルフを倒しに行ったんだろう」

「カッツェさん、恐らく彼女が」

 ムウさんがルーシャちゃんの方を示す。

 ルーシャちゃんはスカートの端を持って、ちょこんと会釈をする。

「ええ。初めまして、わたくしはルーシャと言うものです。シルフはわたくしと共にあります」

「やあやあ。よろしくね。君たち」

 ルーシャちゃんの杖の精霊石は、緑色に光り、シルフの声が軽い調子で聞こえた。

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