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シルフ編
第105話 ルーシャの遊び
しおりを挟むルーシャは村の広場に、音もなく降り立つ。
村人たちは騒動に気づいていて、男たちは武器を持ち、ルーシャの家へ向かっていた。
だから、広場にいたのは女性や子供ばかりだ。
「みなさま、ごきげんようですわ」
広場の中央でルーシャは頭を丁寧に下げる。すると、ルーシャを中心にして風が吹いた。
やっと、その場にいた人々が振り返る。
「え、だ、だれ?」
「その羽? まさか黒い風の……」
ルーシャと同年代の女の子たちが、怯えた視線を向けてくる。
「あら? 誰とは失礼ですわね。わたくし、ルーシャですわ。融合出来ましたの。さぁ、これで仲間はずれはなしですわ。遊びましょう」
ルーシャは黒いオーラをまとったまま、にっこり笑う。
その場にいた人々はすぐに危険を察知した。
「みんな! 逃げるの!」
「あら、遊びましょうと言っているじゃありませんの。小さいときは遊んでくださいませんでしたけど、今なら遊んで下しますでしょう?」
女の子たちが走り出すが、風に乗ってルーシャが先回りする。
羽ですくいあげるような仕草をした。すると、彼女たちを風に乗せて、空高く舞い上がっていく。
「きゃあああ!」
「アハハハハ! ほら楽しいでしょう?!」
風が止む。女の子たちは真っ逆さまに落ちて行く。
だが、地面に激突する前に自分の精霊たちとなんとか融合して、空に浮かんだ。
「ル、ルーシャ、止めてよ。ご、ごめんなさい。謝るから!」
「そ、そう、子供のときから、できぞこないだなんて、あなたを笑って、仲間はずれにして。謝るから、もう止めて」
引きつった顔で女の子たちは必死に頭を下げる。
それでも、ルーシャは怪しく笑った。
「あら? わたくし、謝って欲しいだなんて一言も言っていませんわ。ただ、遊んで欲しいだけですの。さあ、遊びましょうよ。遊べないなんてもう言いませんわよね」
ルーシャは羽の一枚を女の子たちに向かわせる。翼が生えていても、それを避けることは不可能だ。
「ルーシャちゃん!」
ガガガガッと音が鳴り、ルーシャの羽に白い矢が何本も刺さる。女の子たちに向かっていたが、軌道を変えられてそれた。
女の子たちは涙目で振り向く。
「巫女さま!」「助けに来てくださったのですね!」
「いいから。早く安全な所へ」
ユメノが厳しい声で指示すると、きまり悪そうに女の子たちは村の方へと降りて行く。
ルーシャは伸ばしていた羽をしまった。
「あら、ユメノではありませんの」
サラマンダーの背に乗ったユメノは弓を構えていた。
「ルーシャちゃん! 助けに来たよ!」
「助けに? 何を言っていますの? でも、そうですわね。よく、来てくださいましたわ。わたくしの遊び相手になるのは、やっぱりユメノしかいませんものね!」
ルーシャは黒い羽を大きく、広く伸ばした。
◇◇◇
サラマンダーは空に舞い上がる。
「ユメノよ! 声をルーシャに届けるのだ! 吾輩に届いたのであるから、ルーシャに届かぬはずがない!」
「うん!」
わたしはしっかり頷く。それしか手はないだろう。
髪に掴まっているエルメラが不安そうに尋ねてくる。
「でも、歌を歌ってもきっとルーシャには……」
ルーシャちゃんには歌は効かない。今回は精霊に声を伝えるわけじゃない。
一対一の人間同士。ただ、心地よい声を出しているだけじゃダメだ。
「ルーシャもああしているけれど、影を追いだすために心の中では戦っているはずだよ。声援を送ろう」
小さくなったシルフも付いて来ている。
ルーシャちゃんが影を追い出してくれれば、シルフが後はどうにかしてくれるはずだ。
「さぁ、遊びましょう」
だけど、どう声を掛ければいいのだろう。
とにかく、何でも言ってみるしかない。
「ルーシャちゃん! 気をしっかり持って!」
「何を言っていますの? わたくしは、しっかりしていますわ!」
声掛けにはまともに答えず、ルーシャちゃんは黒い羽を私たちに向けて放ってきた。
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