声優召喚!

白川ちさと

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シルフ編

第98話 三体目

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 サラマンダーを呼ぶと、イオが肩を貸してシュルカさんを背中に運ぶ。

「シュルカさんは俺が支えている」

「まるでシュウマ山のときのようだな」

 シュルカさんの言うシュウマ山とは、サラマンダーが住んでいる山のことだ。あのときは、戦い終わったサラマンダーがシュルカさんじゃなくて別の怪我人を運んでくれた。

「確かにちょっと状況似ているかも」

「あのときは大変だったよね」

 エルメラが腕を組んで、うんうん頷く。シュルカさんは穏やかな顔で言う。

「怪我人を連れて撤退するはずが、イオが飛び出してしまってな」

「そうそう」

 あのときの事を思い出しただけで、熱さで汗がでる。イオはノームを倒すためにサラマンダーを使役しようとして躍起になっていたんだ。

 バツが悪そうにイオがつぶやく。

「……あのときは、未熟だった」

「しかし、ユメノの歌声がなければ、吾輩もこうして友と共にいることもなかった。そう思うと、お互いゾッとするものだな」

 サラマンダーも首をこちらに向けて言う。

 あれから、一年も経っていないけれど、こうしてみんなと話していると随分と昔のことのようだ。

「あの、村に向かいませんの?」

 ルーシャちゃんが少し気まずい様子で聞いた。

 そういえば、ルーシャちゃん以外はサラマンダー討伐に行ったメンバーだ。知らない昔話を聞いていると、ちょっと一人だけ居心地が悪いかもしれない。

「そうだね。シュルカさんの怪我があるから、早く行かなきゃ。サラマンダー、なるべく速く飛んでね」

「了承した。振り落とされないように気を付けるのである」

 サラマンダーは羽ばたき、上空に行くとシウン村の方へと空を飛び始めた。




 空の旅は順調だった。

 サラマンダーが飛ぶ行く手には雲だけ。その雲もサラマンダーのスピードなら一瞬で突っ切ってしまう。

 しかし、そのままシウンの村へ一気に行くことは出来なかった。

「サラマンダー! ちょっと待って」

 突如、シルフがルーシャちゃんの精霊石から声を上げる。

「なんだ、シルフ。突然には止められぬぞ」

 そうは言ってもサラマンダーは羽をはばたかせて、急ブレーキとは言わずとも、かなりスピードを落とした。すると、シルフが姿を現す。

「あの、雲の中に、いる」

「え?」

 シルフは大きな黒い雲の塊を指さした。

 どうみても雷雲だ。

 少し離れた空に浮かんでいるサラマンダーも避けて通るだろう。

「いるって、もしかしてシルフの影が?」

「そうだよ。三体目の僕の影だ」

「しかし」

 イオが支えているシュルカさんを見る。その怪我を見ると、とてもじゃないが彼を連れて雲の中に飛び込もうなんて思わない。

 けれど、当のシュルカさんが首を横に振る。

「俺のことは気にしなくていい。影はいつどこに現れるか分からない。見つかったときに捕えておくべきだ。それに今はユメノの弓がある。シルフの影を捕えるためには絶好の武器だ」

「そりゃ、そうかもしれないけれど……」

 風を追える炎の弓は有効だと自分でも思っている。

 それでも簡単には頷けない。

「けど、万全な状態で挑んだ方がいいんじゃないのかな?」

「だ! 大丈夫ですわ!」

 ルーシャちゃんが自分の胸を叩く。

「シュルカさんを支える役目は、わたくしにお任せくださいな。それぐらいならできます!」

 わたしたちは顔を見合わせた。

「じゃあ、まずいと思ったらすぐに退くよ」

「それがいい」

 イオも頷いて、サラマンダーは黒い雲に近づいていく。

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