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シルフ編
第93話 捕まえた風
しおりを挟むさてと、と言って、シルフがルーシャちゃんの杖から出てきた。
「これから、影を取り込むよ」
「あ! ねぇ、まだシュルカさんが戻ってきていないよ」
シュルカさんは空へ見回りに行った切り、帰ってきていなかった。もしかしたら、精霊に襲われているかもしれない。
イオも竹林の上空を見上げる。
「探しに行くか」
「それには及ばない」
探しに行く前に、竹林からシュルカさんが出てきた。
「影の配下の精霊に襲われていた。すまない。影を追い込むのに、手伝えなくて」
シュルカさんは所々細かい傷を負っている。
「それならしょうがないよ。いま、シルフが影を取り込むところだよ」
「じゃあ、行くよ。ノーム蓋を開けて」
シルフが言うと、ノームは頷き、土の手を操って蓋を開けた。その途端に影が飛び出そうとする。
しかし、その前にシルフが待ち構えていた。
シルフは腕を大きく広げる。胸の前には緑色に光る渦が出てきた。
「さあ! 僕の元へ戻るんだ!」
黒いシルフの影が渦の中に吸い込まれていく。完全に影の羽まで見えなくなると、緑色に光る渦も一緒に消えていった。
どう見ても成功だ。
「やったー!」「やったね!」「やりましたわ!」
わたしとエルメラとルーシャちゃんは手を取り合って喜ぶ。
「ふう。何とかなったな」
イオも額の汗をぬぐった。
「それにしても、時間がかかったね」
シルフがケロッとして言う。シルフが手伝ってくれたら、もっと早く終わっていたのではと思うけれど、シルフは飄々としている。
「これじゃ、先が思いやられるよ。おそらく影たちは情報を共有しているはずだからね」
わたしたちはシルフの言うことに頭を捻る。
「情報を共有?」
「ああ。だって、もともと僕たちは一つだったんだよ。だから、起こったことは全て別の影に伝わっているんだ」
なるほどとは思うが、そんなの向こうに都合がいいだけ。
もう、わたしたちが影を捕まえようとしていることは伝わっている。
そして、それを影は待ち構えているわけだ。
イオが渋い顔をして言う。
「……パワーアップが必要だな。シュルカさんが居なかったとはいえ、一体捕まえるのにもギリギリだった」
「確かにそうかもしれないけれど、いきなりパワーアップだなんて」
自分で言うのも何だけど、わたしの火力は相当なものだ。これ以上、火力を上げるなんて無理だろう。出来たとしても、辺り一帯が焼け野原になってしまう。
「……わたしには必要かも。どうしたら、パワーアップできますの!?」
「そうだな。例えば精霊による武器の具現化だ」
ルーシャちゃんの質問に答えたのはシュルカさんだ。わたしにも心当たりがあった。
「武器の具現化……。それって、イオの剣やシュルカさんの薙刀みたいな?」
うんと頷くシュルカさん。サラマンダーに挑んだときに一緒だったビューロさんは、槍を持っていた。みんな、精霊に命令して作った武器だ。
胸の前でグッと拳を握るルーシャちゃん。
「わたくしも武器を持ちたい……!」
「うん! わたしも、もっと役に立ちたいから、一緒にがんばろう! ルーシャちゃん!」
シルフの影を追いながら、わたしとルーシャちゃんは武器を作り出す修行をすることになった。
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