声優召喚!

白川ちさと

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シルフ編

第92話 風を追い込め

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 攻撃を避けながら、なんとか立ち上がって杖を構えた。

「ホムラ! 我と契約せし、火の精霊ホムラよ。紅蓮の業火を燃やし、その身を我にゆだねたまえ。その真なる力を解放せん」

 ホムラを呼び出して解放させた。蛇のしっぽが生えた炎の髪の男の子だ。

「ミルフィーユ! わたくしたちも!」

 ルーシャちゃんの精霊石からも、小鳥のミルフィーユが出て来る。

「我と契約せし、風の精霊ミルフィーユよ。清らかなる風に乗り、その身を我にゆだねたまえ。その真なる力を解放せん」

 ミルフィーユは羽の生えた女の子に変化した。

 イオが指をさす。

「ノームがいるのは向こうだ! あっちに追い込め!」

 周りは竹林ばかりで、方向も分からなくなっていたけれど、イオにはノームのいる方向が分かるみたいだ。

「ホムラ! 炎の玉で攻撃して!」

 すぐさまホムラに命令を出した。炎の玉はシルフの影に向かっていく。けれど、スイッと避けられてしまった。その避けた炎の玉が、後ろの竹に当たる。

 パアンッ

「「きゃああ!!」」

 一気に熱せられた竹が勢いよく破裂する。破裂した竹の破片が、攻撃したわたしたちにまで襲い掛かってきた。

「もう! こんな竹だらけじゃ、上手く攻撃出来ない!」

「ユメノは下がってなさい!」

 ルーシャちゃんが前に出る。風の攻撃なら竹が破裂したりしない。

「ミルフィーユ! 風で斬り裂きなさい!」

「きゅるう!」

 ミルフィーユもいまは機嫌がいいみたい。

 ルーシャちゃんの命令に従って、風の斬撃を放つ。

「やった!」

 ――命中する。そう思ったけど、シルフの影から黒い風が吹いた。それが、ミルフィーユが放った風の斬撃をあっさりかき消しちゃった。

「うそ!」

「さすがはシルフということか……」

 わたしとルーシャちゃんは役に立たず、イオだけがシルフの影に向かっていく。
そこに黒い羽が襲い掛かった。

「イオ!」

 あの鎌のような羽は、本当に鋭くて何でも斬れてしまうのではないかと思うほどだ。

 だけど、イオは剣を使って、素早く襲い掛かって来た切っ先を受け止めていた。

「はああぁッ!」

 イオは鎌を斬りつける。すると、黒い鎌は真っ二つにスッパリ割れてしまった。

「すごい! さすがは何でも斬れる剣!」

 イオはノームから物質なら何でも斬れる剣を授かっているのだ。

 相手は風だけど、こうやって実体化しているならきっと負けたりしない。

「行けるよ、イオ!」

「いや……」

 明らかに優勢なのに、イオは渋い顔をしている。

「このまま、倒してしまう訳にはいかない。ノームの元に追い込まなくては」

 言われてみたら、そうだった。

 影と言っても、元はシルフの一部。倒してしまったら何が起こるか分からない。

「じゃあ、ホムラ戻って。オトヒメ出てきて!」

 わたしはホムラを精霊石に戻して、代わりにオトヒメを出す。

 オトヒメは水の精霊で、長い胴体の魚、リュウグウノツカイの姿をしていた。

「オトヒメ! 水で敵を追い込むのだ!」

 わたしはユーリの声を使って、オトヒメに命令を出す。

 オトヒメが水色に光り、シルフの影に向かって水のビームを繰り出した。

 イオが押さえているので、避けられることはない。今度こそ直撃して、後ずさるようにシルフの影は動き出した。

「さぁ、ルーシャも!」

「わかっていますわ、エルメラ! シルフ、手伝って下さいませ」

 ルーシャちゃんが精霊石に向かってシルフを呼ぶ。

 確かにシルフなら、影に対してでも追い風を送ることが出来るだろう。

 だけど――。

「うーん。大丈夫じゃない? 行けそうだよ」

 返って来たのはひょうひょうとした返事だ。

「な、何言っていますの!? ここで参加しなければただのお荷物ですのよ!」

「次頑張るからさ。じゃ!」

「ちょ、ちょっと、シルフ!?」 

 シルフは答えなくなってしまった。ミルフィーユといい、風の精霊は本当に気まぐれだ。仕方なく、ルーシャちゃんはミルフィーユで追い風を送る。

 協力して、じりじりとシルフの影を追いやり、なんとかノームが見える場所までやって来た。

「あとはあの中に入れるだけだね!」

 ずっと傍で応援していたエルメラが言う。

「おーい、こっちですよ!」

 ノームが大きく手を振る。

 だけど、そのそばの箱をみてびっくりした。土の箱だったはずが、宝石や花でデコレーションされている。

 ノームがキラキラした笑顔で入口を示す。

「さぁ、この美しき檻にいれてください!」

 イオが嫌そうな顔をするけど、ここはしょうがない。

「みんな! 行くよ!」

 抵抗される前に一気に威力を強めるしかない。わたしたちは声を張る。

「オトヒメ、全力放射!!」

「ミルフィーユ! 吹き荒れなさい!」

 水と風の勢いが増し、シルフの影が吹き飛ばされる。イオが土で足場を作って、さらに切りつけた。

 そして――。

「大人しく捕まれ」

 イオは剣の側面でシルフの影を野球のボールのようにかっ飛ばした。その先にはノームが作った箱がある。勢いよく突っ込んでいく影。

「蓋をします!」

 ノームが用意していた蓋を上から勢いよく覆いかぶせる。

「やった!」「捕まえたんですの!?」

 わたしたちはへとへとで、杖にしがみつくように立っている。

 ミッションクリア! と思ったんだけど――。

 ガン、ガンガン!

 中でシルフの影が暴れている音が聞こえる。

「まさか出て来る!?」

 そう思ったけれど、やがて音は止んだ。

「わたしがきらびやかに飾っていたおかげですね。作戦通りです」

 ノームが自慢げに胸を張る。

 ……たぶん、偶々だろう。

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