声優召喚!

白川ちさと

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シルフ編

第85話 シルフの正体

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 シルフが居なくなると、空にいた人たちも降りてきて、慌ただしく動き出した。

「けが人を手当てするんだ!」

「灯りをつけろ!」

 わたしがホムラで灯りをつけたとはいえ、まだ十分な明るさじゃない。

 続けてホムラに命令して、村の人が持った松明に火を付けていった。

「あなた! 大丈夫!?」

 一人の男の人が、肩を抱えられて家の中に入っていく。

 お腹に大きな傷を受けていて、血がしたたり落ちていた。

 大変な大けがで、心配だ。だけど、わたしが出来ることは――。

「薬草をかき集めろ!」

 みんな、家の中から薬品を持って出て来る。子供たちもまだ家の中からだけど、心配そうに大人たちの動向を見つめていた。

「あ! ザックお兄様、わたしは何を」

「家から薬草や包帯を持ってこい!」

「はい!」

 ルーシャちゃんも家へと薬草を取りに行った。こういうとき、回復魔法があればいいんだけど。でも、精霊はいてもこの世界には魔法はない。

 わたしも大けがをした人は無理だけど、傷ついた人の手当てをした。

「みな、なんとかさらわれずに済んだようじゃの」

「長老」

 振り返ると杖をついた長老が歩いてきていた。

 どこかから見守っていたのだろう。

「ユメノ、イオ」

「え、は、はい!」

 名前を呼ばれて、わたしとイオは長老の前へと走った。

「あれがシルフの影の一つじゃ」

「影の一つ?」

 すごく嫌な言い方だ。それでは、まるで……。

 長老はこくりと頷く。

「そう。シルフの影は一つではない。四つに分かれておる」

「それは……初耳です。一体が次々に襲ってくるのだと思っていました」

 わたしとイオだけじゃない。ザックさんも知らなかったみたいだ。

 長老の話にみんな、手を止めて耳を傾けている。

 ルーシャちゃんも話を聞くためにわたしの横にやって来た。

「はじめて話したからのう。シルフの影は元々一つじゃった。それが三百年前、闇に包まれ五つに分かれてしまったのじゃ」

「ん? 五つ? 影は四つじゃないの?」

「一つは倒されちゃったとか?」

 わたしとエルメラが聞くと、長老はしわくちゃの手の平を前に出す。

「まぁ、話を聞きなされ。シルフの影の正体は風そのもの。実態のない風は倒すことは出来ぬ。ただ、捕まえることは出来るじゃろう」

「風を捕まえる……」

 そういえば、以前サラマンダーがノームを完全に倒してしまったら天変地異が起きるって言っていた。シルフでもきっと同じだろう。

「それが、サラマンダーやノームならば出来るとわしは考えている」

 なるほど。強い火で追いやったり、土の檻に閉じ込めたりしたらいいんだ。

「うん! 出来そう。だよね、イオ」

 顔を見上げると、ああとイオも頷いた。シュルカさんが難しそうな顔をして言う。

「もしかして、だから精霊の王たちが訪れしとき、シルフが目覚めるのですか」

 長老が話していた村に伝わる話だ。

 しばらく、長老は黙っている。だけど、口元をニヤッとさせた。

「その通りだよ」

「ん?? 今の長老の声?」

 さっきよりも若々しくて、とても老人が話すような声じゃなかったような――。

 周りが不思議に思っているのが、面白いのか長老はさらにニンマリと笑った。

 なんだろう……。

「今こそ、目覚めのときだ」

 風が吹き荒れる。さっきの禍々しい風と違って、爽やかで優しい風だ。

 その中心にいるのは長老。

 なんだけど……。

 長老が緑色の光に包まれる。それはすぐに収縮された。

「長老?!」

 そこに立っている。ううん、浮かんでいるのは長老じゃなかった。

 肩までの緑色の髪に、背中には妖精のようなガラス細工の羽が生えている。

 身長はわたしよりちょっと低いぐらい。

 つまり子供の姿だ。長老だったシルフはその猫のような瞳を細める。

「僕の名はシルフ。風の精霊の王だ」

「シルフだと!?」

「まさか、長老が!?」

 村人たちは騒めき立つ。わたしたちですら、呆然としているぐらいだ。一緒に暮らしていた老人が、まさか精霊だなんて思わない。

「まさか、長老が精霊だったなんて……。確かにずっと元気だと思っていたけど」

 ルーシャちゃんもびっくりして目を見開いている。

「長老、長老って言うけれど何歳だったの?」

「……知らない」

 つまりずっと昔から長老として、この村にいたんだ。

 もしかしたら、だからシルフの気配が村に漂っていたのかもしれない。

「なんだなんだ! シルフよ! その姿は!」

 そこに、わたしの精霊石からサラマンダーの声が響き渡る。ノームもイオの精霊石から口を出した。

「随分と小さくなりましたね」

「さっき言っただろう。五つに分れたときに縮んでしまったんだ。唯一、自我が残った僕はこの村で子孫たちを見守っていたってわけ」

 シルフはすっかり長老の口調じゃなくなっている。

「ところで、二人はどう思う? 三百年前のことを」

「うむ。吾輩の身に何か起こったことは間違いないが」

「わたしの元に突然黒い花が現れたのも三百年前です」

 サラマンダーとノームがそう言うと、シルフははぁとため息をついた。

 なんだろう。二人は事実を言っただけに思えるけれど――。

「そうじゃなくて、もっと具体的なことがあっただろう。三百年前、なくなったものがある」

 シルフは天を指さす。わたしは自然とその先を見つめた。

 夜空にはたくさんの星が瞬いている。都会の街の光なんて、この世界にあるはずもないから、いつでも満点の星空だ。

 そう、いつでも――。

「ああッ! 月がない!!」

 思えばこちらの世界に来てから、一度も月の姿を見たことがなかった。 
 
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