声優召喚!

白川ちさと

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シルフ編

第72話 最初の浮島に上陸

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 サラマンダーは島の間を風に乗って飛び回る。

「いっぱい島があるけれど、どの島に行くの?」

「さて、シルフがいるかは分からないが、以前訪れたときにシルフと会った島に向かってみるか」

「……それって何年前のこと?」

「確か、四百年前であった」

 四百年前。今もシルフがその島にいるとは思えない。

 でも、他に手がかりはなかった。

「よし! 行ってみよう!」

「うむ!」

 サラマンダーは羽を羽ばたかせて、さらに上空へと舞い上がった。




 到着した島は、うっそうとした木々が生えていた。

 ノームの森とは違う、モミの木のような針葉樹林の森だ。

 わたしは少し歩くと、両腕をさする。

「うう。ちょっと冷えるね」

 氷で覆われた精霊の海ほどではないけれど、上空だからか結構寒い。

 わたしはサラマンダーにピタッとくっついた。ほんのり暖かい肌が心地よい。

 サラマンダーはあごに尖った指を当てる。

「さて。この島であることは間違いないが、どこを探したものか」

 イオも視線を巡らせた。

「その前に、水の確保をした方がいいんじゃないか? シルフを見つけるのに、どれだけかかるかも分からない」

 イオの言うことにわたしも頷く。

 ノーマレッジでは彼らも生活に必要だから、水は少ししか分けてもらえなかった。
水の確保が最優先。じゃないと、すぐに干上がってしまう。

 上空からだと雲がかかってよく見えなかったけれど、水のせせらぎの音がどこからかした気がした。おそらく水はあるに違いない。

「では吾輩は一度、山に戻るである。何かあれば、すぐに呼ぶのだぞ」

「うん。ありがとう、サラマンダー」

 サラマンダーは赤い光の玉になって、わたしの精霊石に吸い込まれていった。
残ったのは、わたしとイオとエルメラだけだ。

 わたしたちは針葉樹の落ち葉をザクザク踏みつけながら奥へと進む。

「そういえば、今更なんだけど……。エルメラはカカと妖精の樹に残らなくてよかったの?」

 カカだって仲間がいたら心強いはずだ。

 横を飛んでいたエルメラはあまり気にした様子もなく頷く。

「うん。カカとはちゃんと話したよ。わたしはユメノを導かないといけないんだって。おばばと、そう約束したんだって」

 ――おばばか。

 最初にわたしが召喚されたロオサ村のおばばのことだ。

 いまは、どうしているのだろう。

「ロオサ村がエルメラの第二の故郷ってことなのかな。ほら、妖精たちは実になっていて、風に飛ばされて散らばっていったでしょ」

 きっとエルメラがあの実から出てきた場所が、ロオサ村だのだろう。

「……そんなとこ。だから、ユメノ。わたしはこの先何があってもずっと一緒だよ」

「うん」

 ただ使命で付いて来てくれるだけじゃない。エルメラからの絶対的な信頼を感じた。

 わたしとエルメラの魂が結びついていとサラマンダーは言っていたけれど、なんとなくだけど感じる。

 ふと、前を歩いていたイオが立ち止まった。

「二人とも、静かに。水の音が聞こえる」

 口元に指を当てて振り返る。

 わたしたちはすぐに黙った。耳元に手を当てて耳を澄ませるイオ。

「……あっちだ」

 イオが右を向いて進みだした。歩いていくと、確かに水の音が聞こえてくる。
さらに近づくと、ドドドッと音まで聞こえてきた。

「あ。滝だ!」

 森が開けた場所に滝と滝つぼが見つかる。

 これで水の問題は解決だ。――と、思ったのは一瞬のことだった。

「ユメノ! イオ! 精霊がいるよ!」

 エルメラが対岸の方を指さす。そこには大きなカニが何匹も横歩きしている。
わたしとイオは杖を持つ手に力を込めた。

「水の精霊みたい。でも、わたしの火力なら蒸発させちゃうんだから」

「待て。様子がおかしい」

 精霊を呼び出そうとしていたわたしだったけれど、イオに止められる。

 どうしてだろうと思いながらイオの言う通りにする。すると、カニの精霊たちはのんきに日向ぼっこをし始めた。

「え? 襲ってこない??」

 イオは杖を引っ込める。

「どうやら、戦意はないようだな」

「戦意はないって、どうして?」

 今までの野生の精霊はすべてと言っていいほど、こちらの存在を認めたら襲い掛かって来ていた。

 いきなり襲わなくなったのは、こちらとの実力差を感じ取ったとかいう訳ではなさそう。

「分からない。もしかしたら、未開の地だからかもしれない」

「未開の地だから?」

「ああ。人間がそもそもいない。だから、こちらを敵と認識しないのかもしれない」

「ふーん。人間を敵と認識しない、か」

 でも、そもそも精霊はどうして人間を敵だと思うようになったんだろう。

 考えてもそこら辺にいる精霊と話せるわけじゃないけれど気になった。

「精霊が襲ってこないならちょうどいい。これからここを本拠地にして、この島を探索しよう」

 イオはそう言って、火を焚く準備を始めた。

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