声優召喚!

白川ちさと

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ノーム編

第38話 森の中の小さな村

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 ひっそりと隠れるように森の中には家々が建っている。

 最初に召喚されて来たロオサ村に雰囲気が似ているかもしれない。その村の小さな広場では、十人ほどの子供たちが集まっていた。

 鈴のような可愛らしい声がする。

「おばあさん。どうしておばあさんの耳はそんなに大きいの?」

 エルメラのセリフだ。

「赤ずきんの可愛い声をよく聞くためさ」

 わたしは狼がおばあさんの声を装ったような声を出した。

「じゃあ、おばあさん。どうしておばあさんの口はそんなに大きいの?」

 エルメラが次のセリフを言うと、目の前の紙をめくる。

 一拍置いて、また声色を変えた。

「それは赤ずきん、お前を丸のみするためだ!」

「「「きゃーッ!!」」」

 子供たちが悲鳴を上げる。

 ちょっと怖い声の演技に気合を入れすぎたようだ。



  ◇◇◇



 ――紙芝居から一日前。

 わたしとイオ、エルメラとカカはサラマンダーの背中に乗って、森の上空を飛んでいた。買った地図だとこの森の奥には精霊の海があって、大きな森が精霊の海を取り囲んでいるはずだ。

 わたしは前に座るイオに問いかける。

「ここがノームの森?」

「いや違う。南の森だな。精霊の海を囲む大森林は全て繋がっていて、大体の方角で呼ばれている」

 イオの説明に地名に味気がないなと思うけれど、一番分かりやすそうではある。

 サラマンダーが森の上を大きく旋回する。

「ふむ。ここがノームの森じゃないとすると、どこに向かえばいいのだ?」

「ノームの森の現在位置は分からない。あそこに村がある。まずはあそこに行って情報収集をしよう。降りてくれないか、サラマンダー」

「よかろう」

 サラマンダーはイオが指さした村がある方へと降りて行った。

 サラマンダーを見られると面倒だから、降りた場所は村から少し離れた場所だ。

「では、吾輩はシュウマ山の火口に戻る。ユメノの精霊石を通して見守っているぞ。必要があれば呼ぶが良い」

 また歌を歌って呼ばないといけないのだろうか。それはちょっと面倒だ。他の精霊みたいに名前を呼ぶだけで出てきて欲しいけれど、いまは言わずにおいた。

 さすがに、サラマンダーも長い距離を飛んで疲れているだろうからだ。

「うん。ありがとう。ゆっくり休んでね」

「久しぶりの空の旅、楽しかったぞ。ではな」

 サラマンダーは身体が光だしたかと思うと赤い光の玉になって、シュンと杖の精霊石に入った。それまで透明に近かったわたしの精霊石はまた濃い紅になる。

 解放しているのは火の精霊だし、サラマンダーは召喚出来るし、完全に火の精霊使いになってしまったものだ。

「それじゃ、行こうか」

 イオは口の布を上げて、先に歩き出した。



 村に行く途中、苔むした切り株がたくさん見られた。きっと林業を生業にしているのだろう。

 村に着くと、真っ先に探すのは宿屋だ。もう日が暮れ始めていたから、情報収集の前に宿を確保しておかないといけない。

 村の広場まで行くと、ちょうど斧を担いだ木こりのおじさんが通りかかった。

 カカがスヌードの間から、イオの代わりに聞く。

「ちょっといいか? この村の宿屋はどこにあるんだ?」

「宿屋? こんな小さな村に宿はねぇべ」

「確かに小さいもんね」

 見える範囲だけれど、両手で数えられるほどの家しかない。

「それなら、泊めてくれる家に心当たりはないか? 俺たちは精霊使いなんだ」

 わたしとイオは精霊石に巻いていた布を外した。精霊石は紅く、イオの精霊石は黄色い。

 それを見ると、木こりのおじさんはなぜか視線を伏せた。

「そうか。精霊使いさまべか。たぶん、村長の家なら泊めてもらえるべ。ほら、あの家だべ」

 どうしたのだろうと思った。なんだか、精霊使いと聞いて反応がおかしい。これまでの村や町だと、あがめられるというと大げさだけど、精霊使いと聞くと誰もが歓迎してくれた。

 対照的に、木こりのおじさんの視線からは憐みのようなものを感じた。

 それは、村長さんの家に行っても同じだった。

 杖をついたおじいさんがテンション低く言う。

「おお、精霊使いさまが二人も。このような小さな村にお越しいただき、ありがとうございます。簡単なおもてなししか出来ませんが、どうぞごゆっくり」

「世話になる!」

「お世話になります」

 長男夫婦と二世帯暮らしで、小さな子供が二人いた。

 大きな木のテーブルにお茶が用意される。丸太の椅子に座って、お茶を一口飲むと少し酸っぱい、変わったお茶だった。

 目の前に座った村長さんが尋ねてくる。

「精霊使いさまのお二人は修行の旅の途中で?」

「いや、わたしたちは……」

「ノームの森を探している」

 そう言ったのは、カカではなくイオだ。

 ハッとしたように村長が顔をあげ、そばにいた長男さんも目を見開き、後ろの台所で作業をしていたお嫁さんも振り返った。

 どうやら、声が変わったことに反応しているわけではなさそう。

 村長さんがおもむろに口を開く。

「……それはご立派なことです。ですが、何もお二人のようなお若い方々が向かわなくとも……」

 この言い方。サラマンダーのときと似ている。サラマンダーに挑戦したものは二度と帰ってこないって言われていたけれど、確かノームは――。

「ノームに挑戦したものは皆、戦意を喪失してしまう。これって本当?」

 わたしはイオを見上げて聞いた。

「ああ」

 イオはしっかり頷く。だけど、村長さんが付け加えた。

「戦意を喪失するだけならば良い方です。ノームに挑んだ人の中には人が変わってしまうこともあるとか、物言わぬ植物のようになってしまうとか。そのような噂もございます」

「え……」

 植物人間になってしまうなんて。思った以上にノームって厄介なのかもしらない。

 だけど、イオに動揺した様子は見られない。

「だが、こちらには切り札もあるし、行かなければならない理由がある。ノームの森の場所を教えてもらえるだろうか」

 切り札とは、間違いなくサラマンダーのことだ。

 でも、イオが行かなければならない理由は知らない。そういえば、森は破壊されつつあるって言っていた。この辺りの森は普通に見えるけれど。

「ノームの森は、いまは北東の森に場所を移したそうです」

 村長さんが言うことにイオは頷く。森が移るという表現に疑問を覚える。

 だけど、わたしが尋ねる前に、テーブルの中央に鍋が置かれた。

「さあ、とにかくお夕食にしましょう」

 色々と気になるけれど、後々イオが話してくれるはずだ。そう思って、皿に注がれたスープをスプーンですくった。

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