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サラマンダー編
第20話 道
しおりを挟む暴風が吹き荒れる街には、カンカンカンカンと絶えず鐘の音が響いていた。
わたしはエルメラのお母さんをイメージした声で話しかける。
「水の精霊。降りて来なさい。降りてきて、一緒にお話しましょう!」
だけど、水の精霊は長い胴体をくねらせて、次々に街に向けて水のビームを放っていた。全然、声が届いていないみたいだ。
こちらに向けても青い光が光る。
直感的にヤバいと背筋が凍った。精霊たちでは防げないし、わたしも素早く動けない。
しかし、たった一言が響く。
「守れ」
わたしの目の前に頑丈な土の壁が現れた。ビームが壁に当たった衝撃に身構えるけれど、わたしには傷一つつかない。
「イオ!」
後ろを振り向くと杖を構えたイオが立っていた。カカもキツネの精霊もいる。
カカが叫ぶ。
「おい! ユメノの出る幕じゃないぜ! ここはイオや他の高ランクの精霊使いに任せていろ!」
「他の精霊使い?」
「ああ、見ろ。集まってきているぜ」
カカが指さす方向に、わたしも目を向ける。
そこは雨にさらされながら、屋根の上に立っている人たちが三人。
皆、杖を持っている。たぶん、Sランクの人たちなのだろう。
彼らは口々に口上を述べ始めた。
「我と契約せし雷の精霊よ」
「鮮やかなる蕾を開花させ」
「その身を我にゆだねたまえ」
「「「その真なる力を解放せん!」」」
次々に精霊たちが解放された。そのまま、水の精霊に三体の解放された精霊が向かっていく。
轟音を立てて雷が水の精霊を直撃し、花が咲いたツタが縛り付けた。
とんでもない威力で、水の精霊は苦悶の表情を浮かべている。
「駄目!!」
私は思わず叫んだ。
「ちょっと! やめなさいよ!」
「ユメノ」
走って行こうとすると、イオが肩を掴んだ。
わたしは抵抗しながら、何とか進もうとじたばたする。
「離して! あの子は怯えているだけよ! ずっと待ちぼうけをさせられて、やっと来た主人には傷つけられて! それなのに、あんなの可哀そうじゃない!」
「でも、街を攻撃している」
「そんなの、わたしが使役すればすぐに止められる! ホーク!」
緑色の風を纏った鷹、ホークが杖から出てきた。捕まえたときはかなり巨大だったけれど、今はわたしの背より少し大きいぐらいだ。
「どうするつもりだ」
「ホークに乗って、声を届けに行く」
地上からでは声が届かない。ホークに乗って飛べば近づける。
カカが上空を指さす。
「無謀だぜ! あんな中に突っ込むつもりかよ!」
水の精霊が暴れて、精霊使いたちが猛攻撃を続けていた。ただでさえ暴風雨が吹き荒れているのに、あの合間を使い慣れていないホークで進むことはわたしでさえ無謀だと思う。
戻ってきたエルメラも心配そうに言う。
「そうだよ、ユメノ。もうあの人たちに任せておこう」
「でも、あの叫び声が聞こえるでしょ?」
水の精霊は魚の姿に変わっても、きゅるきゅると鳴いていた。
どんな声にも感情がある。その声は悲しみに染まっていた。噴水で話したときは、あれだけ楽しそうな声を出していたのに。
「あのまま倒されたら、あの子の悲しみはそのままじゃない! だから行くの!」
わたしはホークにまたがろうとした。
しかし、またイオが肩を掴んだ。わたしは振り返って睨みつけた。
「なに!」
「俺が道を作る」
「え?」
◇◇◇
花の精霊を操る彼女は、びしょ濡れになりながら華麗に杖を振る。
「いいよ! ラファ! そのまま絞めちゃって!」
風の精霊を操る彼も調子がよさそうだ。
「フハハハハハ! 雷が稲光り、豪雨が降り、そして暴風が吹く! 俺の独壇場だ!」
いつもにないキャラではあるが、調子は良さそうではある。
雷の精霊を操るわたしはどちらかと言うと、乗り気ではなかった。
ギルドでのんびりしているところに、いきなり叩き出されたのだ。ギルドを出ると、あれほど天気が良かったのに横殴りの雨が降っている。逆立てているお気に入りの髪型も一瞬でぺしゃんこになってしまった。
その上、暴れているのは主人に拒絶された水の精霊だそうだ。
例の設計図を盗み出した精霊。わたしの経験上、この手の精霊は非常に厄介だ。滅多なことでは倒れないし、実際に天候まで操り、荒れに荒れていた。反抗も強い。
もう一度、言霊で使役など、とてもではないが不可能だろう。
倒して、ただの水に帰すしかない。
「よし。長期戦だが勝てない相手ではない。行くぞ!」
そう力強く言ったときだ。
「な、なに、あれ」
花の精霊を操る彼女が手を止める。
彼女が見る方向には、石の階段が空中に作られていた。作るのはキツネだ。おそらく土の精霊なのだろう。そいつが、ぴょんぴょんと跳ねる度に石の階段が出来ていた。
そして、階段を登る人影が一人――。
「女の子?」
その子は黒く長い髪を濡らし、赤いマントを羽織っていた。よく見ると傍には妖精がいて、精霊石をついた杖を持っている。見習いの精霊使いだろう。
「お、おい。危険だ! 風を止めてあの子を守れ!」
風の精霊を操る彼が真っ先に精霊に指示を出した。ハッとして、わたしと彼女も精霊に指示を出し、花で石の階段を補強し、落ちてきた場合のために下で待ち構える。
「ありがとう」
女の子の声がこの暴風雨の吹き荒れる中、わたしたちの耳に届いた。
不思議と耳に心地よい声だ。
そして、石の階段が暴走している水の精霊の元に続いていることに気づく。
きゅるるるるるるる!!
水の精霊は彼女を威嚇するように鳴いた。
わたしたち三人は緊張感を持って杖を構える。
「大丈夫。辛かったよね」
女の子からは子供とは思えない大人びた声がした。水の精霊に声が届くところに立つと女の子は止まる。
――まさか、使役するつもりか。Sランクの精霊使いでも不可能だというのに。
「一人で待っていて寂しかったよね。大丈夫よ。これからはわたしがずっと一緒にいるから」
そう言った途端、雨が止む。
あれほど濃かった曇天の隙間から光が差した。
「まさか……」
巨大な魚の水の精霊が小さくなっていく。透明な球になって浮かんだ。
「あなたの名前はオトヒメ。よろしくね」
そう言うと、水の精霊だった球は女の子の精霊石に吸い込まれていった。
「あ!」
風の精霊を操る彼が声を上げる。
土の精霊が作り出していた石の階段が消えていったのだ。即席のものだから当たり前だ。これまでよくもった方だと思う。
「わたしが……」
花の精霊を操る彼女が助けに行こうとする。
しかし、その必要はなかった。
女の子が落下することを予期していたように、真下に一人の男が待ち構えていたからだ。彼が女の子を抱きとめて、水の精霊の暴走事件は全てを終えたのだった。
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