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サラマンダー編
第19話 暴走
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イオに腕を石の輪で拘束されて、男の人は連れて来られた。
「やめろ! 俺が何をしたっていうんだ!」
拘束されてもなお、抵抗を続けている。
「あ! この男です! 空の精霊石を持っていたのは!」
兵士さんが見た途端に男の人を指さす。
「首に下がっているものをよく見せろ!」
ニコ隊長が首元を探った。すぐに透明な精霊石が出てきた。
そもそも精霊石は手に入れずらく、精霊使いしか持たないらしい。これは間違いない。
「犯人はお前だな。城壁の設計図はどこだ!?」
ごつい顔を近づけて問いただすニコ隊長。しかし、犯人らしき男の人は顔を背けた。
「設計図なんて知らねぇよ! なんなら、この場で裸になってもいい!」
「その言い方、他のどこかに隠しているな」
「とにかく俺は無関係だ! 離してくれ! 不法逮捕だ!」
犯人らしき男の人は身をよじってなおも抵抗するけれど、それでイオの拘束が外れるとは思えない。
でも、困ったことになった。意地でも自分が犯人だと認めないだろうし、設計図の隠し場所も教えないだろう。
「あ!」
わたしはいいことを思い付いた。
「ねえ、隊長さん。こういうのはどう?」
噴水の方を指さす。
「あの水の精霊にあの男の人が声をかけてみるの。もし、水の精霊のマスターなら精霊石に戻れと言えば、あの首飾りに戻って行くはずだと思うわ」
「おおっ! 確かに! 早速やらせてみよう。おい、お前ら!」
二人の兵士さんたちが男の人を押しやって、噴水の方へと近づけていく。
「や、やめろ……」
『きゅる♪』
水の精霊が噴水から顔を出した。待っていた主人に会えて嬉しそう。これは決まりだ。
みんな、そう思っていたと思う。
そのときだった。
「やめろ! お前なんか知らない!」
犯人らしき男の人が大声で叫ぶ。
『きゅ……』
そうは言っても、水の精霊に戻れと言えばすぐに分かる。
兵士さんたちは男の人を押す。
「お前の精霊だろうが」
「違う! 俺とは全く関係ない! 近づくな!!」
「……あ、あれ?」
水の精霊の様子がおかしい。震えている。何だか噴水の水も不自然に揺れ始めた。
『きゅう……きゅうううううううううう!』
水の精霊が大きくいなないた。
噴水の水が大量に空へと逆巻いていく。
ぼたぼたと大粒の雨が落ちてきた。いつの間にか空は真っ黒な雨雲で覆われている。
その空へと、水の精霊は昇っていく。あまりに巨大な水の精霊は胴が長く、鱗で覆われた魚の形をしていた。リュウグウノツカイという魚に似ているかもしれない。
わたしたちだけでなく、兵士さんたち、野次馬をしていた人たち、それから関係なく広場を歩いていた人たち。みんな呆然とその光景を見ていた。
「な、なんだありゃ。解放する前でも、あんなデカくないぞ……」
マスターであるはずの男の人まで呆然としている。
「たぶん、主に関係ないと言われたことで、使役する前の暴走した精霊に戻ってしまったんだ! それも、力が増幅している。気をつけろ! 攻撃が来るぞ!」
カカの声で、みんな持っている武器や杖を構えた。わたしは咄嗟の行動がとれずに叫ぶ。
「攻撃って、空から!?」
そのとき、ビームのような閃光が走った。一瞬のことだ。
「ぐ、ぎゃああ!」
あの男の人が悲鳴をあげる。太ももを水のビームで貫かれたのだ。地面に倒れて、悶えている。一瞬過ぎて、眼で追うこともできなかった。
「また来るぞ!」
イオの声で空を見上げると、水の精霊が口を大きく開けている。口の中が青く光っていた。
「クロック、防壁を作れ!」
イオの精霊が倒れている男の人の前に石壁の防壁を作る。水のビームが当たって大きく砕けた。
「お、俺を狙って……」
「それほど精霊を裏切った代償は高いということだ。立て。建物の中に入る」
イオにかばわれながら、男の人は建物に向かう。
それでも、水の精霊は落ち着かなかった。主を見失ったからか、移動しながら手当たり次第に街を攻撃し始めたのだ。
「きゃあ!」「敵国の攻撃か!?」「建物の中へ!」
街の人々が右往左往しながら避難する。兵士さんたちも、鐘を鳴らしに行った。
完全な非常事態だ。
「お嬢ちゃんも早く」
ニコ隊長が避難を勧めてくれる。
でも――、
「わたし、行くわ!」
「お嬢ちゃん!?」
わたしは水の精霊がいる方向へと駆けだす。誰もいないから、エルメラがフードから飛び出してくる。
「ユメノ! 今は逃げた方がいいよ!」
「何言ってんの、こんなの放っておけるはずない! 逃げたって水の精霊が収まるの? ホムラときみたいに鎮めないといつまでも暴れっぱなしなんでしょ!?」
「それはそうだけど」
「それに一度、心を通わせた精霊だから放っておくわけにはいかない!」
わたしにとって全くの他人には思えないということだ。
「あ!」
前を見ると、道の真ん中に小さな女の子が転んで泣いている。
そこに、青い光が――、
「スイリュウ、あの子を守って!」
出てきた青い狼のスイリュウが女の子の前に躍り出て、水柱を上げる。
しかし、全てを防ぎきれずに貫通した水がスイリュウを吹き飛ばした。そのまま、一撃で消えてしまう。
そっかと納得する。あの水の精霊はスイリュウよりも強いんだ。
ホムラに防壁を作らせても、火と水では負けてしまうだろう。ホークもたぶんあれほど暴れている精霊には敵わない。
「ねえ、エルメラ。あの子を安全なところに避難させて」
「ユメノは?」
「わたしはまた、語り掛けてみる」
両手でぐっと杖を握った。
「やめろ! 俺が何をしたっていうんだ!」
拘束されてもなお、抵抗を続けている。
「あ! この男です! 空の精霊石を持っていたのは!」
兵士さんが見た途端に男の人を指さす。
「首に下がっているものをよく見せろ!」
ニコ隊長が首元を探った。すぐに透明な精霊石が出てきた。
そもそも精霊石は手に入れずらく、精霊使いしか持たないらしい。これは間違いない。
「犯人はお前だな。城壁の設計図はどこだ!?」
ごつい顔を近づけて問いただすニコ隊長。しかし、犯人らしき男の人は顔を背けた。
「設計図なんて知らねぇよ! なんなら、この場で裸になってもいい!」
「その言い方、他のどこかに隠しているな」
「とにかく俺は無関係だ! 離してくれ! 不法逮捕だ!」
犯人らしき男の人は身をよじってなおも抵抗するけれど、それでイオの拘束が外れるとは思えない。
でも、困ったことになった。意地でも自分が犯人だと認めないだろうし、設計図の隠し場所も教えないだろう。
「あ!」
わたしはいいことを思い付いた。
「ねえ、隊長さん。こういうのはどう?」
噴水の方を指さす。
「あの水の精霊にあの男の人が声をかけてみるの。もし、水の精霊のマスターなら精霊石に戻れと言えば、あの首飾りに戻って行くはずだと思うわ」
「おおっ! 確かに! 早速やらせてみよう。おい、お前ら!」
二人の兵士さんたちが男の人を押しやって、噴水の方へと近づけていく。
「や、やめろ……」
『きゅる♪』
水の精霊が噴水から顔を出した。待っていた主人に会えて嬉しそう。これは決まりだ。
みんな、そう思っていたと思う。
そのときだった。
「やめろ! お前なんか知らない!」
犯人らしき男の人が大声で叫ぶ。
『きゅ……』
そうは言っても、水の精霊に戻れと言えばすぐに分かる。
兵士さんたちは男の人を押す。
「お前の精霊だろうが」
「違う! 俺とは全く関係ない! 近づくな!!」
「……あ、あれ?」
水の精霊の様子がおかしい。震えている。何だか噴水の水も不自然に揺れ始めた。
『きゅう……きゅうううううううううう!』
水の精霊が大きくいなないた。
噴水の水が大量に空へと逆巻いていく。
ぼたぼたと大粒の雨が落ちてきた。いつの間にか空は真っ黒な雨雲で覆われている。
その空へと、水の精霊は昇っていく。あまりに巨大な水の精霊は胴が長く、鱗で覆われた魚の形をしていた。リュウグウノツカイという魚に似ているかもしれない。
わたしたちだけでなく、兵士さんたち、野次馬をしていた人たち、それから関係なく広場を歩いていた人たち。みんな呆然とその光景を見ていた。
「な、なんだありゃ。解放する前でも、あんなデカくないぞ……」
マスターであるはずの男の人まで呆然としている。
「たぶん、主に関係ないと言われたことで、使役する前の暴走した精霊に戻ってしまったんだ! それも、力が増幅している。気をつけろ! 攻撃が来るぞ!」
カカの声で、みんな持っている武器や杖を構えた。わたしは咄嗟の行動がとれずに叫ぶ。
「攻撃って、空から!?」
そのとき、ビームのような閃光が走った。一瞬のことだ。
「ぐ、ぎゃああ!」
あの男の人が悲鳴をあげる。太ももを水のビームで貫かれたのだ。地面に倒れて、悶えている。一瞬過ぎて、眼で追うこともできなかった。
「また来るぞ!」
イオの声で空を見上げると、水の精霊が口を大きく開けている。口の中が青く光っていた。
「クロック、防壁を作れ!」
イオの精霊が倒れている男の人の前に石壁の防壁を作る。水のビームが当たって大きく砕けた。
「お、俺を狙って……」
「それほど精霊を裏切った代償は高いということだ。立て。建物の中に入る」
イオにかばわれながら、男の人は建物に向かう。
それでも、水の精霊は落ち着かなかった。主を見失ったからか、移動しながら手当たり次第に街を攻撃し始めたのだ。
「きゃあ!」「敵国の攻撃か!?」「建物の中へ!」
街の人々が右往左往しながら避難する。兵士さんたちも、鐘を鳴らしに行った。
完全な非常事態だ。
「お嬢ちゃんも早く」
ニコ隊長が避難を勧めてくれる。
でも――、
「わたし、行くわ!」
「お嬢ちゃん!?」
わたしは水の精霊がいる方向へと駆けだす。誰もいないから、エルメラがフードから飛び出してくる。
「ユメノ! 今は逃げた方がいいよ!」
「何言ってんの、こんなの放っておけるはずない! 逃げたって水の精霊が収まるの? ホムラときみたいに鎮めないといつまでも暴れっぱなしなんでしょ!?」
「それはそうだけど」
「それに一度、心を通わせた精霊だから放っておくわけにはいかない!」
わたしにとって全くの他人には思えないということだ。
「あ!」
前を見ると、道の真ん中に小さな女の子が転んで泣いている。
そこに、青い光が――、
「スイリュウ、あの子を守って!」
出てきた青い狼のスイリュウが女の子の前に躍り出て、水柱を上げる。
しかし、全てを防ぎきれずに貫通した水がスイリュウを吹き飛ばした。そのまま、一撃で消えてしまう。
そっかと納得する。あの水の精霊はスイリュウよりも強いんだ。
ホムラに防壁を作らせても、火と水では負けてしまうだろう。ホークもたぶんあれほど暴れている精霊には敵わない。
「ねえ、エルメラ。あの子を安全なところに避難させて」
「ユメノは?」
「わたしはまた、語り掛けてみる」
両手でぐっと杖を握った。
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