声優召喚!

白川ちさと

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サラマンダー編

第18話 大きな手掛かり

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 適当に市場で夕食を調達してきて、宿の部屋でイオと一緒に食事をする。わたしは噴水に設計図を盗んだだろう水の精霊が留まっていることを話した。

「そうか。どうにかその精霊と意思の疎通が出来れば、分かることは多そうだな」

 イオは相変わらずイラっとするほどイケボだ。ぶつくさとカカが文句を垂れる。

「しっかし、ズルくないか? 犯人捕まえただけでSランクに昇格とかさ。俺とイオがどれだけ苦労してAランクにまで上げたと思っているんだ」

 エルメラとカカは市場で買ったさくらんぼを食べていた。

「それだけの重要機密であり、困っているということだろう。ユメノ、俺たちも協力しよう」

「えっ! 協力してくれるの!?」

 わたしがSランクになったら、イオたちが反対していたサラマンダー討伐に行けてしまう。それでも、協力してくれるなんて、どういう風の吹き回しなのだろう。

「ああ。俺たちもそう、のんびりはしていられない。Sランクに昇格するにしても、高難易度の依頼を受けなければならないからな。犯人逮捕でランクが上がるならそれに越したことはない」

「ユメノには逮捕は無理だろ。俺たちに任せとけ!」

 カカは拳を上げる。けれど、それに素直に従うわけにはいかない。

「嫌よ! こんな千載一遇のチャンス逃す訳にはいかないんだから。大体、その精霊と話せるのは、わたしだけだもんね! 犯人を捕まえる機会があれば捕まえる!」

 出来れば犯人逮捕と同時に設計図もゲット出来れば万事うまく行く。ただ、ルーシャちゃんが言っていた通り、もう既に敵国に渡っている可能性も高いのだ。

 やっぱり自分で犯人を掴まえないといけない。





 
 次の日、わたしたちは噴水の広場に行く。

 前の日と同じように、エルメラのお母さんをイメージした声で話しかけた。

「出てきなさい」

『きゅる?』

 水の精霊はまた顔だけをのぞかせる。

 やはりそれ以上は出てくる気配はなく、わたしたちは腰を据えて話を聞くために噴水の縁に座った。

「あなたに質問があるの。『はい』なら鳴き声のきゅるを一回。『いいえ』ならきゅるを二回よ。分かった?」

『きゅる』

 どうやら通じたようだ。

 具体的な名称は聞き出せなくても、これならイエスかノーかで判断できることも多い。

「じゃあ、最初の質問。設計図を盗んだのはあなた?」

『きゅる』

 イエスだ。分かっていたけれど、これで真相に近づける。

「次の質問よ。それはあなたのマスターに命じられて?」

『きゅる』

「あなたのマスターはどこにいるか分かっている?」

『きゅるきゅる……』

 水の精霊は寂しそうに鳴く。この悲しそうな感じ、もしかして――。

「あなたは迷子?」

『きゅるきゅる』

 違ったようだ。ふと、イオが口を開く。

「ここで待っているように命じられたんじゃないか? お前の主に」

『きゅる!』

 イオがそう聞いた途端、水の精霊が元気に鳴いた。

「なんで、こんな所に待たされているの? 一緒に逃げればいいじゃない」

 わたしが尋ねると、イオはあごに手を当てて考える。

「……おそらく犯人は精霊使いが疑われることを見越して、精霊をこの場に留まらせているのだろう。質問されたときには、全ての精霊を精霊石から出させられたからな」

 それならば納得がいく。水の精霊の目撃者は居るわけだから、その精霊を使役している精霊使いが犯人というわけだ。

 犯人はそれを予期して水の精霊をここに留まらせた。

「え。でもそうしたら、精霊使いたちを拘束しているのは見当違いなんじゃ。犯人は普通の人を装っているってことよね」

「そうだな。この話、兵士に教えよう」

 イオが立ち上がる。わたしたちだけで犯人を掴まえたかったけれど、そう簡単にはいかないようだ。





 兵士たちに設計図を盗った水の精霊がいたことを伝える。すぐにニコ隊長が駆けつけてきた。噴水を覗き込んで、水の精霊を確認する。

「なるほど。犯人は精霊使いだが、精霊使いではないように振舞っている。そういう訳だな」

「そうです」

 わたしはイオと話したことを説明した。

 ニコ隊長はわたしの頭に手を置く。

「うん! お手柄だ、嬢ちゃん! 他人の精霊とも意思疎通が出来るなんて、大した精霊使いじゃないか! このことは精霊ギルドにも報告しておく。一気に一、二ランクは昇格するんじゃないか?」

「はは……」

 嬉しいけど、一、二ランクでは意味がない。Sランクはまだまだ遠い。

 それならば俄然犯人を捕らえることに意味が出て来る。

「だけど、犯人は一般人に紛れているっていうことよね」

「そうとも限らないぞ。精霊使いだってまだ疑いが晴れたわけじゃない。この子だけをここに留めている可能性もある。設計図を持っていなくても、どこかに隠している可能性もあるし」

 つまり、街にいる全ての人物に疑いが掛かったということだ。

 これでは謎は深まるばかりだ。

 そのとき、あ! と大きな声が響く。振り返ってみると、門の所にいた兵士さんだ。

「どうした」

「え、えっと、ニコ隊長。一昨日だったかな。怪しい人物がいまして」

「どんな」

 兵士さんは指で五、六センチの幅を作る。

「街を出ようとする人たちの持ち物を検査していたら、これぐらいの透明の精霊石の首飾りを持っている男がいたんです」

「なに!? それでその男どうした」

「ただのアクセサリーだと言い張るんで、捕えはしなかったのですが。一応、騒動が落ち着くまでは街に留まるようにと言い置きましたが……」

「よしッ! その人物の顔をよく思い出せ! 人相書きを書くんだ!」

 そうニコ隊長が叫んだ。

 そのとき、わたしは偶然見てしまった。

 兵士が集まってきていたことで、何事かと野次馬も集まっている。一人だけ目つきの悪い男の人がこっちを探るように見ていたのだ。帽子をかぶって顔を隠すような仕草をしている。

 そう言えば、放火魔は自分が火を放った現場に戻ってくると聞いたことがある。

 そうでなくても、兵士たちがどういう動きをするか犯人は知る必要があるんじゃないだろうか。留め置いていた水の精霊も気になるはず。

 男の人と私の目が合った。すると男の人はスッと去って行こうとする。

 間に合わない。わたしはイオの服を引いて、指をさした。

「ねえ、イオ! あの人を捕まえて!」

 男の人は走り出したから、イオにもすぐに分かった。

「来い、クロック」

 イオがつぶやくと杖の精霊石から黄色いキツネが出てきた。

「足場を作れ」

 そう言うが否や、キツネはイオの足元を素早く往復する。

 すぐにズズズズと土がせり上がりだした。そのまま、地面は伸びて人々の頭を超えていく。波に乗るようにイオはあの男の人の所へたどり着いた。

「う、うわああ!」

 叫び声がわたしの所まで届いた。


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