声優召喚!

白川ちさと

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サラマンダー編

第15話 精霊ギルド

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 店の中に避難して数時間。

 轟音が鳴り止んで、恐る恐る外に出てみると通りには矢が散らばっていたり、怪我人が倒れていたりと戦いの後が残っていた。

 おばちゃんが救急セットを抱えて、怪我人の元へかけていく。慣れた様子で手当てを始めた。わたしも矢を拾って、少しだけ片づけを手伝う。

 程なくすると、元の賑わいに戻っていったけれど、その頃にはもう夕方だ。

「宿を探そうか」

 エルメラがそう言うけれど、宿がどこにあるか分からない。結局、またあのおばちゃんに聞いて宿に向かった。

 そして一時間後。

「うーん。お風呂、最高!」

 さすがは都の宿。綺麗な上に、お風呂もついていた。約一週間ぶりのお風呂で、髪も洗ってすごくサッパリした。

「しかも、地下から引いているってことは温泉ってことじゃない! 肌がツルツルしている!」

「わたし、温泉って初めて入った」

 一緒に入ったエルメラも満足そうだ。

 わたしは髪を拭きながら、鼻歌まじりに言う。

「明日はどうする? サラマンダーのところに行っちゃう?」

「イオたちを待たないといけないでしょ。それに、カカはユメノが行こうとしても、どうせ行けないって言っていたよね」

「なんだろ? でも、行ってみたら分かるかも」

「もう、しょうがないなぁ」

 朝一番でシュウマ山に向かうことにした。




 朝の腹筋や発声練習などのルーティンをこなして、わたしは宿を出る。

 外は霧が少し出ていて、行き交う人々も少ない。道に少し迷いつつ、街に入って来た門へと向かった。すると、門は閉じている。

 あんまり早く来てしまったのかと門を眺めていると、詰所から人影が出て来た。

「何奴! ……なんだ、昨日の嬢ちゃんか」

「あ。昨日、わたしを掴まえた兵士さん」

 朝の門の警備をしていたのだろう。兵士さんは構えていた槍を下ろして、首を捻る。

「もしかして、連れの様子を見に来たのかい? ここにはいないよ」

「ううん。そうじゃなくて、門の外に行きたいの」

「なんでまた。ああ、修行しに行くんだな」

「ううん。サラマンダーのところに行こうと思って」

 兵士さんは目を丸くした。そして、すぐに笑いだす。

「ハハハハハ! 冗談キツイよ! 君みたいな小さい子がサラマンダーのところに行くなんて、最近精霊使いになったばかりだろ?」

 遠慮なく笑われてムッとする。確かにこの前精霊使いになったばかりだけど、わたしは一刻も早く元の世界に帰らないといけない。

「とにかく門を開けて」

 滲んだ涙をぬぐいながら、兵士さんはかぶりを振った。

「通してもいいけれど、どうせサラマンダーのところには行けないよ」

「イオと同じことを言うのね。どうして?」

「山道の入り口にここと同じく警備がいるのさ。君みたいな無鉄砲者を止めるためにね」

 なるほど。それで行けないわけだ。それでも、手がかりを得ようと食い下がる。

「でも、皆がみんな、止めているわけじゃないでしょ?」

「まぁ、そうだな。おっと、また誰か来た。すまないが、続きは別な人に聞いてくれ」

「え! 別な人って」

 去り際、兵士さんは街の奥を指さす。

「この街には精霊ギルドがある。そこに行っていろいろと聞くといい」

「ギルド……」




 精霊ギルド。

 つまり精霊使いたちの組合ということだ。場所を人に聞くと、ギルドは街の中心部にあった。

 ギルドの建物も街と同じように石造りだ。入り口の前に四体の巨大な彫刻が横並びに置かれていた。

 さっそくエルメラが説明してくれる。

「本にも載っている四大精霊たちの像ね。一番右がノーム」

 ノームは土の精霊だ。ひげの生えた小人が四体縦に重なっている。

「その次がウンディーネ」

 ウンディーネは水の精霊。ウェーブがかった髪の長い綺麗な女性に見えた。

「その隣がサラマンダー」

 サラマンダーは火の精霊。羽の生えた竜が柱に巻き付いている。

「そして最後がシルフ」

 シルフは風の精霊。こちらは透明な羽が生えた中性的な人物像だ。

 わたしはその内の一体、サラマンダーの像を杖で指した。

「ふん。見てなさい、サラマンダー。わたしがすぐに会いに行って、異世界からの帰り方を吐かしてやるんだから」

 杖でサラマンダーの像を指して宣言した。

「さっ。入りましょう」

 立派な両扉の入り口を開ける。さぞや精霊使いたちがひしめいているかと思いきや、中は閑散としていた。並んでいるソファにぽつぽつと数人座っているだけだ。

「なんか、人が少ないね。どうしたのかな」

 エルメラがキョロキョロしながら尋ねて来た。

「建物が大きいから、普段はもっと人がいるはずだよ。たぶん、事件のせいじゃないかな」

「あ! そっか」

 イオだけではなく、かなり多くの精霊使い達が拘束されているというわけだ。

「でも、人がいるってことは、ギルドも一応機能しているってことでしょ。サラマンダーのところへの行き方を聞いてみないと」

 奥に行くと、大きな掲示板とカウンターの受付が並んでいた。受付にいる白いブラウスを着た女の人に声をかける。

「こんにちは。お尋ねしたいことがあるのですが」

「はい。何でも聞いてね」

 わたしを見ると、小さな子を見るような目線になる。また子供扱いにちょっとムッとするけれど、グッと堪えた。

「シュウマ山の山道に入りたいの。どうしたら、行けますか?」

「はい?」

 受付のお姉さんはキョトンとした。でも、すぐにまた子供に諭すように話し始める。

「えーとね。シュウマ山に昇るには通行証がいるのよ」

「はい。だからその通行証はどうやったら出ますか?」

 お姉さんは完全に困ったなという顔をするけれど、丁寧に説明をしてくれる。

「山を登るためにはサラマンダー討伐隊に入る必要があるわ」

「討伐? サラマンダーは何か悪さをしているの?」

「ええ。サラマンダーは山の麓に狂わせた火の精霊を気まぐれに解き放って、町や村を焼こうとして来るの。だから、定期的に力の強い精霊使いを募って山に登るのよ。でも、未だにサラマンダーと戦闘したのはごくわずかな人間しかいないわ」

「ふーん。じゃあ、その討伐隊に入るにはどうすればいいの?」

 お姉さんがまだあきらめていないのかと言った表情をする。

 それでも、丁寧に説明してくれた。

「討伐隊に入るためには、この精霊ギルドで功績を上げなきゃいけないわ。ここには精霊に関する依頼が集まってくる。その依頼を受けて報告することで、ランクが上がっていくの。難易度に応じてお金も貰えるわ」

 ゲームの設定とよく似ている。

「サラマンダーに挑むためにはSランクにならないといけないの」

「ちなみに私は」

「あなたはまだギルドに登録してないのでしょう? Eランクからスタートね」

「Eランク……」

 わたしはその場にしゃがみ込んだ。

 ここまで来たからもうすぐだと思ったのに、こんなところで足止めだ。一日一ランク上がっても五日はかかる。さすがにそれほど早くランクは上がらないだろう。

 肩を落としているそのとき、甲高い声がギルドに響き渡った。

「おーほっほっほ。やっぱりど素人さんはEランクですのね!」

 背後を振り返ると、以前会った女の子が口元に手を立てて高笑いをしていた。

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