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28.女神様は魔法に興味津々
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人の噂も七十五日というように、俺と穂香の事も次第に話題に出なくなってきた。他に面白そうな話があればそちらに食いつき、また違ううわさがあればそちらに……そんな感じで俺たちは思いのほか早く、平穏な生活を送ることができるようになった。
登下校は手を繋いでいき、昼は穂香の作った弁当を食べる。それが当たり前になってくると、意外に誰も何も言わなくなってくるものだ。
主に女子からは好意的に、男子からは羨望と嫉妬の入り乱れた眼差しで見られることが多かったが。
一月も終わりにさしかかり、クリスマスにほぼ使い切った魔力がある程度回復してきた頃だった。
「ねぇ、もう一緒に住んで一か月以上たつけど、あれから一度も魔法使ったとこ見たことないのよ。いつ使ってるの?」
夕食後の寛ぎタイム中に、穂香がふと思い出したように聞いてきた。
「ああ、そうだな。結論から言うと、一度も使ってないぞ」
「え?なんで?」
「なんでとはなんでだ?」
我ながら変な質問返しをしたものだと思うが、まぁ、穂香の言い分を聞いてみよう。
「だって、色々できるなら、使った方が便利なんじゃないの?」
「俺も昔はそう思ったんだけどな。例えば、キャンプしたり、無人島で生活するなら、魔法ほど便利なものはないだろう。火も水も出せるし、獲物も狩れる。魚だって簡単に獲れる。土や木で住居も作れるからな。でも、これだけ文明が発達していれば、大抵の事は家電や設備で事足りるだろ?」
穂香は俺の言葉にしばらく考えると、今言ったことにはそれなりに納得したようだった。
「なるほどね~わざわざ魔法を使う意味がないってことなのね。じゃあ、他にはどんなことができるの?」
「あとは怪我や傷の治療だな。理由はわからないが、風邪などの病気は治せない」
「どんな怪我でも治せるの?」
「切り傷や擦り傷は治せる。ただ、例えば指を切り落した場合なら、切り落した指があればくっつけて治せると思うが、なければ無理だな」
人で試したことがあるわけじゃないからわからないけどな、と付け加えておいた。たまたま脚のない昆虫でやった時の経験しかない。実際に俺自身もどこまでできるかもわからないのだ。
「じゃあ、料理中に指切ったりしたら治してくれる?」
「ああ、もちろんだ。その時はすぐに言ってくれ。そのくらいは簡単に治せる」
「うん、すぐに言うよ。ん~……魔法ってもっと便利なものだと思ったのになぁ」
残念ながらそんなに便利ではないということは、一応わかってもらえたようだ。
「穂香は使ってるところが見たいのか?」
「それもあるけど、他の人には見せられない中で、何か便利な使い道がないのかなって思ったの。ユウ君は誰にも言えないっていうのがあったから、そういう可能性とかはあまり模索してこなかったんじゃないかなって」
確かにそうだな。何かあった時に一番役に立ちそうな、身体強化と治癒以外はあまり考えてなかった。
「じゃあ、穂香が日常生活の中で、こんな事ができたらいいのに、みたいな事は何かあるか?」
「ん~そうね…………あ、ちなみに、魔法って使うとユウ君にはどれくらい負担がかかるの?無償ってわけじゃないんでしょ?」
「もちろん無償ではないぞ。使った力はなかなか回復しないからな。いざという時のための身体強化と治癒を使えるようにしておくとしたら、そんなに乱用はできないな。ちなみに、身体強化はやりすぎると筋肉痛になるけどな」
これに関しては仕方ない。そういう負担を抑えるためにも、普段から筋トレとかしてるんだということを伝えると、胸板をピタピタ触りだした。やがて飽きてきたのか、そのまま抱き着いて胸の鼓動を聞くかのように頭をつけてくる。
こうなるとしばらくはこのままなので、俺は撫でやすい位置に来た頭を撫で始める。いつもはこのまま「ふにゅ~」って感じになったりするのだが、今日に関してはならなかった。
まだ考え中らしい。何を言ってくるかわからないが、穂香がしたいことはさせてあげられたらいいなと思う。
「それなら、物を直接熱したり冷ましたりってできる?」
穂香が言ってきたことは、それほど難しいことではない。どちらかというと簡単な方だ。
「例えばこういうことか?」
俺はこたつの上のみかんを一個むいて、弱めに魔法を使う。
――凍れ――
そして、俺の手の中にはシャリシャリの冷凍みかんが一個出来上がった。硬さも丁度良い、食べ頃だ。
「わぁ~そうそう、そういうこと。それ、半分食べたい」
穂香が両手を合わせて目を輝かせてる。こういう時は子供っぽい可愛さがあるな。
とりあえず、出来立ての冷凍みかんを二人で食べる。こたつに入りながらのこれはいいものだな。
「冷たくて美味しかった。じゃあ、土日だけでもいいから、一緒に料理したいな」
「な、料理?俺、自慢じゃないが何にもできないぞ。いつも任せっきりだから、何か手伝ったりしてあげたいんだけどな」
「大丈夫。熱したり冷ましたりが一瞬でできるなんて、とんでもないことなのよ。他にも料理には色々活用できそうな気がするわ」
「わかった。色々迷惑かけるとは思うが、やってみよう。面白そうだしな」
「やったぁ。楽しみだな~ユウ君と一緒に料理。何作るか考えておくね」
ニコニコして嬉しそうだ。俺もいつも申し訳ないってのもあるから、少しでも役に立てるようにしないと。まだまだ先になるとは思うが、いつか俺の料理を穂香に食べてもらうってのもいいな。穂香に少しずつ教えてもらって、隠れて練習するか。
うん、今年の目標の一つにしておこう。
そんなことを考えていると、穂香がテレビでやってるアニメのCM見て言ってきた。
「ねぇねぇ、あれやりたい」
あれというのは、よく戦闘シーンとかである自分のオーラとかで服がなびいて髪の毛が逆立つような演出の事だ。似たような事は出来なくはないと思うが、やったことない。面白そうだが。
「ん~風を使えば似たような事は出来ると思うが、やったことないからな。とりあえず、加減がわからないから自分にやってみるよ」
――風よ――
色々試してみたが弱い竜巻と上昇気流を混ぜる感じの方が良さそうだな。
「どうだ?」
「凄い!カッコいい!次、私。やってやって」
――風よ――
俺と同じ強さだと、穂香の長い髪が持ち上がらないので、少しずつ強くしていく。
「わぁ~凄い!髪の毛が上に向かってなびいてる~」
自分の髪が、上に向かってなびく様をキョロキョロ見る仕草は可愛く、俺から見る全体像は純粋に綺麗だって思った。アニメみたいに周りをキラキラさせたりしたらもっと綺麗だろうな。今後の課題にしておくか。
ただ、ここで一つ問題が発生した。髪の毛が長い分、俺の時より風を強くしたため、スカートが完全にめくれている。今日はピンクか。だが、穂香は上の方を向いているため気付いていない。
どうしよう。
このまま自然な感じで風を弱くして、気付かれないうちになかったことにするか。それとも正直に見えていると伝えるべきか。
……よし、ここはいい気分で体験を終了してもらえるように、そっと弱めよう。俺は悪くない。
「あ~楽しかった。あれ?どうしたの?結構疲れたりした?」
「い、いや。大丈夫だ。初めてだったから調節が難しかったくらいだな」
どうやら、バレていないようだ。
「そうなんだ。ユウ君、また今度やって。風がすごい気持ちいいの」
「ああ、これくらいなら、いつでもいいぞ」
「うん、楽しみにしてるね」
その笑顔が眩しすぎて、ちょっと罪悪感がある俺は、真っすぐに顔を見ることができなかった。
でも、俺は悪くない……よな?
登下校は手を繋いでいき、昼は穂香の作った弁当を食べる。それが当たり前になってくると、意外に誰も何も言わなくなってくるものだ。
主に女子からは好意的に、男子からは羨望と嫉妬の入り乱れた眼差しで見られることが多かったが。
一月も終わりにさしかかり、クリスマスにほぼ使い切った魔力がある程度回復してきた頃だった。
「ねぇ、もう一緒に住んで一か月以上たつけど、あれから一度も魔法使ったとこ見たことないのよ。いつ使ってるの?」
夕食後の寛ぎタイム中に、穂香がふと思い出したように聞いてきた。
「ああ、そうだな。結論から言うと、一度も使ってないぞ」
「え?なんで?」
「なんでとはなんでだ?」
我ながら変な質問返しをしたものだと思うが、まぁ、穂香の言い分を聞いてみよう。
「だって、色々できるなら、使った方が便利なんじゃないの?」
「俺も昔はそう思ったんだけどな。例えば、キャンプしたり、無人島で生活するなら、魔法ほど便利なものはないだろう。火も水も出せるし、獲物も狩れる。魚だって簡単に獲れる。土や木で住居も作れるからな。でも、これだけ文明が発達していれば、大抵の事は家電や設備で事足りるだろ?」
穂香は俺の言葉にしばらく考えると、今言ったことにはそれなりに納得したようだった。
「なるほどね~わざわざ魔法を使う意味がないってことなのね。じゃあ、他にはどんなことができるの?」
「あとは怪我や傷の治療だな。理由はわからないが、風邪などの病気は治せない」
「どんな怪我でも治せるの?」
「切り傷や擦り傷は治せる。ただ、例えば指を切り落した場合なら、切り落した指があればくっつけて治せると思うが、なければ無理だな」
人で試したことがあるわけじゃないからわからないけどな、と付け加えておいた。たまたま脚のない昆虫でやった時の経験しかない。実際に俺自身もどこまでできるかもわからないのだ。
「じゃあ、料理中に指切ったりしたら治してくれる?」
「ああ、もちろんだ。その時はすぐに言ってくれ。そのくらいは簡単に治せる」
「うん、すぐに言うよ。ん~……魔法ってもっと便利なものだと思ったのになぁ」
残念ながらそんなに便利ではないということは、一応わかってもらえたようだ。
「穂香は使ってるところが見たいのか?」
「それもあるけど、他の人には見せられない中で、何か便利な使い道がないのかなって思ったの。ユウ君は誰にも言えないっていうのがあったから、そういう可能性とかはあまり模索してこなかったんじゃないかなって」
確かにそうだな。何かあった時に一番役に立ちそうな、身体強化と治癒以外はあまり考えてなかった。
「じゃあ、穂香が日常生活の中で、こんな事ができたらいいのに、みたいな事は何かあるか?」
「ん~そうね…………あ、ちなみに、魔法って使うとユウ君にはどれくらい負担がかかるの?無償ってわけじゃないんでしょ?」
「もちろん無償ではないぞ。使った力はなかなか回復しないからな。いざという時のための身体強化と治癒を使えるようにしておくとしたら、そんなに乱用はできないな。ちなみに、身体強化はやりすぎると筋肉痛になるけどな」
これに関しては仕方ない。そういう負担を抑えるためにも、普段から筋トレとかしてるんだということを伝えると、胸板をピタピタ触りだした。やがて飽きてきたのか、そのまま抱き着いて胸の鼓動を聞くかのように頭をつけてくる。
こうなるとしばらくはこのままなので、俺は撫でやすい位置に来た頭を撫で始める。いつもはこのまま「ふにゅ~」って感じになったりするのだが、今日に関してはならなかった。
まだ考え中らしい。何を言ってくるかわからないが、穂香がしたいことはさせてあげられたらいいなと思う。
「それなら、物を直接熱したり冷ましたりってできる?」
穂香が言ってきたことは、それほど難しいことではない。どちらかというと簡単な方だ。
「例えばこういうことか?」
俺はこたつの上のみかんを一個むいて、弱めに魔法を使う。
――凍れ――
そして、俺の手の中にはシャリシャリの冷凍みかんが一個出来上がった。硬さも丁度良い、食べ頃だ。
「わぁ~そうそう、そういうこと。それ、半分食べたい」
穂香が両手を合わせて目を輝かせてる。こういう時は子供っぽい可愛さがあるな。
とりあえず、出来立ての冷凍みかんを二人で食べる。こたつに入りながらのこれはいいものだな。
「冷たくて美味しかった。じゃあ、土日だけでもいいから、一緒に料理したいな」
「な、料理?俺、自慢じゃないが何にもできないぞ。いつも任せっきりだから、何か手伝ったりしてあげたいんだけどな」
「大丈夫。熱したり冷ましたりが一瞬でできるなんて、とんでもないことなのよ。他にも料理には色々活用できそうな気がするわ」
「わかった。色々迷惑かけるとは思うが、やってみよう。面白そうだしな」
「やったぁ。楽しみだな~ユウ君と一緒に料理。何作るか考えておくね」
ニコニコして嬉しそうだ。俺もいつも申し訳ないってのもあるから、少しでも役に立てるようにしないと。まだまだ先になるとは思うが、いつか俺の料理を穂香に食べてもらうってのもいいな。穂香に少しずつ教えてもらって、隠れて練習するか。
うん、今年の目標の一つにしておこう。
そんなことを考えていると、穂香がテレビでやってるアニメのCM見て言ってきた。
「ねぇねぇ、あれやりたい」
あれというのは、よく戦闘シーンとかである自分のオーラとかで服がなびいて髪の毛が逆立つような演出の事だ。似たような事は出来なくはないと思うが、やったことない。面白そうだが。
「ん~風を使えば似たような事は出来ると思うが、やったことないからな。とりあえず、加減がわからないから自分にやってみるよ」
――風よ――
色々試してみたが弱い竜巻と上昇気流を混ぜる感じの方が良さそうだな。
「どうだ?」
「凄い!カッコいい!次、私。やってやって」
――風よ――
俺と同じ強さだと、穂香の長い髪が持ち上がらないので、少しずつ強くしていく。
「わぁ~凄い!髪の毛が上に向かってなびいてる~」
自分の髪が、上に向かってなびく様をキョロキョロ見る仕草は可愛く、俺から見る全体像は純粋に綺麗だって思った。アニメみたいに周りをキラキラさせたりしたらもっと綺麗だろうな。今後の課題にしておくか。
ただ、ここで一つ問題が発生した。髪の毛が長い分、俺の時より風を強くしたため、スカートが完全にめくれている。今日はピンクか。だが、穂香は上の方を向いているため気付いていない。
どうしよう。
このまま自然な感じで風を弱くして、気付かれないうちになかったことにするか。それとも正直に見えていると伝えるべきか。
……よし、ここはいい気分で体験を終了してもらえるように、そっと弱めよう。俺は悪くない。
「あ~楽しかった。あれ?どうしたの?結構疲れたりした?」
「い、いや。大丈夫だ。初めてだったから調節が難しかったくらいだな」
どうやら、バレていないようだ。
「そうなんだ。ユウ君、また今度やって。風がすごい気持ちいいの」
「ああ、これくらいなら、いつでもいいぞ」
「うん、楽しみにしてるね」
その笑顔が眩しすぎて、ちょっと罪悪感がある俺は、真っすぐに顔を見ることができなかった。
でも、俺は悪くない……よな?
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