つつがなく

お話の通り

「では先日、お話にありました通り、進めさせていただきます。」
看護士長の長澤はそう言って会議の書類を広げた。会議室全体に緊張が走る。
明と陽は会議資料をめくりながら、報告を聞いた。医局からも声が上がる。
明と陽は将来、開業資金を貯めて共同経営で開業医になろうと言っていた。その矢先の出来事だった。以前、うちの大学病院に所属していた医師３名が共同経営で揉めて事件になった。
それからうちでは共同経営について慎重になるように。そんな会議資料が配られた。
明と陽は関係無いですね、と言わんばかりの態度から何度か注意を受けた。
会議を終えると小野寺が待っていた。
「なぁ、阪原。」
明は呼び捨てにされるほど親しくはないなぁと思ったが口にはしなかった。
「なんです？小野寺先生。」
陽は先に行ってるよ～と手を振って歩いていった。
「小児科病棟の町村さんなんだけど。」
「誰ですか？それ。」
「なんでも阪原が好きらしいんだよ。」
へ～物好きもいるんだなぁ。明はそう思いながらのらりくらりと小野寺を交わして陽と合流した。
「小野寺何だって？」
「たぶん合コンだよ。◯◯さんが君を好き何だって～って言って人数集める感じの。」
「小野寺得意だもんな。」
「で、なんて言ってスルーしてきたんだ？」
「女神水巻がいるんですって。」
ふたりは笑った。
ゴホンと咳払いが聞こえた。
「女神水巻ねぇ…。」
士長の長澤だ。
「水巻先生は誠心誠意患者さんの事を考えているんです。そんなよこしまな目で見てませんよねぇ、阪原先生？」
「大丈夫です。健全な男として普通の感情しか持ち合わせておりません。」
そう言って陽の方を見た。
「お二人ともお説教が必要そうですね。」
そう言って長澤はにこりとした。