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「最近、大変そうですね。」
八重子は涼しい顔で六郎に問いかけた。
「工場は順調なんだけどね、新人が中々仕事になれなくてね。」
六郎は八重子が何も気づいてないかのように話した。
もう良いんですよ。
八重子はそう言おうとして踏みとどまる、このところ、そんな朝を送っていた。
菜摘は朝早くから学校へ行き、自分の希望する進路に向けて勉強を続けていた。
看護士になる。菜摘はそう呟くとき、佑の姿を思い返していた。
万年2番の佑君。みんなはそう言って笑っていたが佑は鉱物が好きで本などの知識を完璧に頭に入れていた。
棚田君の手前、医者になるという方が適切だったのだろう。鉱物学者になろうとしていたらまた人生が違ったものになっていたかもしれない。
菜摘の隣に涼華が来て静かに微笑んだ。
「邪魔になるからあっち行ってるね。」
そう言って涼華は大学志望の子にまじった。赤本を見ながら涼華は友達と話す。
「過去問かぁ…。」
菜摘は職員室に行き、看護学校の過去問をコピーしてもらってきた。
看護学校と言っても偏差値は学校によって違う。菜摘は教室に戻って過去問を解きながら、イヤホンをして音楽を聴いた。
最近は専らオーケストラを聴いている。
「なつは未来の看護士様だからね~。」
「菜摘が看護士になったら今以上に狙われるね~。」
そう言ってみんなは笑った。

六郎は仕事の休憩時間に苑田に電話した。しかし苑田は電話に出ない。留守電を入れようとして、今留守電を入れたら自分が不利になるのではないか、そんな考えが脳裏をよぎった。
そう考えるとラインをすることも出来ない。
帰りに苑田の家に向かおう、そう思って仕事に戻った。

苑田はアパートを引き払う手続きを進めていた。どうせなら行きたかった土地にしよう。そう思って日本地図を広げた。京都もいいし沖縄もいいな。そんな事を考えていた。
六郎からの電話は全て録音しておいた。これが吉と出るか凶と出るかは分からない。
苑田がわざと八重子に会ったのは、この人になら慰謝料を請求されても構わないという確証が欲しかったからだ。
苑田は八重子を見て、私は随分つまらない女なのだ、こんな素敵な人の旦那さんを奪ってしまったのか。そう思った。
六郎が精一杯自分を良く見せようとしていたのが良く分かるほど出来た人だった。
苑田はそうだ、奈良に行こう。と不意に思った。自分の過ちを悔い改めよう。
そうして奈良の不動産会社をパソコンで調べ始めた。
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