12 / 16
脇道
しおりを挟む
その日は日向が朝早くから大学に来ていた。いつも通り、沖田の動画を撮るのだろう。
「煮え切らない顔してるわね。」
そう言って日向は俺の顔をスマートフォンで撮った。
「皆んな将来が見えてる中、俺だけ見えないんだよ。」
「皆んな見えない中進むのよ。失礼な発言ね。」
そう言って日向は沖田の準備が整うのを待った。
「石松君、院生っていう手もあるんだよ。」
沖田はゆっくり口を開いた。
「もちろん、学費のこととかあるから簡単には言えなかったんだけど…。」
沖田は筆を握る。
この時、沖田が描いていたのは一人の少女と人形だった。少女の視点は定まらず、ピカソの青の時代を彷彿とさせた。
「ゼロか…。」
俺は何故かそう口にしてその場を立ち去った。
沖田はいつものように追っかけに追いかけられながら永崎や俺に助けを求めてきた。
そのうちに俺や永崎にどうやったら沖田と付き合えるのかという話をしてくる女子もいた。
この頃、永崎は目黒という女子と付き合っていた。お互いに同じ会社に内定を貰っていたらしい。
俺は沖田にも永崎にもなれなかった。こんな中途半端なまま、院生の試験を受けても受かるわけがない。そう思った。
その日、アパートに帰って親父に電話した。
「どうした?挿絵作家になる覚悟ができたか?」
覚悟…最近よく聞く言葉だな、そんな事を思った。
「院生になりたい。」
そう口にした時、俺は少し嬉しくなった。まだ自分には可能性があるのだ。そんなふうに感じた。
「その後はどうするんだ?」
俺は言葉に詰まった。院生になっても最終的には仕事をしないといけない。
「教授…教授になりたい。」
俺は沖田と出会って奇跡を見てきた。1枚のキャンバスに世界が切り取られる。教授になればそんな学生を毎年見ていられる。
親父は押し黙った。
「学費はなんとか工面する。精一杯やりなさい。身体だけは大事にするように。」
そう言って親父は電話を切った。
「煮え切らない顔してるわね。」
そう言って日向は俺の顔をスマートフォンで撮った。
「皆んな将来が見えてる中、俺だけ見えないんだよ。」
「皆んな見えない中進むのよ。失礼な発言ね。」
そう言って日向は沖田の準備が整うのを待った。
「石松君、院生っていう手もあるんだよ。」
沖田はゆっくり口を開いた。
「もちろん、学費のこととかあるから簡単には言えなかったんだけど…。」
沖田は筆を握る。
この時、沖田が描いていたのは一人の少女と人形だった。少女の視点は定まらず、ピカソの青の時代を彷彿とさせた。
「ゼロか…。」
俺は何故かそう口にしてその場を立ち去った。
沖田はいつものように追っかけに追いかけられながら永崎や俺に助けを求めてきた。
そのうちに俺や永崎にどうやったら沖田と付き合えるのかという話をしてくる女子もいた。
この頃、永崎は目黒という女子と付き合っていた。お互いに同じ会社に内定を貰っていたらしい。
俺は沖田にも永崎にもなれなかった。こんな中途半端なまま、院生の試験を受けても受かるわけがない。そう思った。
その日、アパートに帰って親父に電話した。
「どうした?挿絵作家になる覚悟ができたか?」
覚悟…最近よく聞く言葉だな、そんな事を思った。
「院生になりたい。」
そう口にした時、俺は少し嬉しくなった。まだ自分には可能性があるのだ。そんなふうに感じた。
「その後はどうするんだ?」
俺は言葉に詰まった。院生になっても最終的には仕事をしないといけない。
「教授…教授になりたい。」
俺は沖田と出会って奇跡を見てきた。1枚のキャンバスに世界が切り取られる。教授になればそんな学生を毎年見ていられる。
親父は押し黙った。
「学費はなんとか工面する。精一杯やりなさい。身体だけは大事にするように。」
そう言って親父は電話を切った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
欲望
♚ゆめのん♚
現代文学
主人公、橘 凛(たちばな りん)【21歳】は祖父母が営んでいる新宿・歌舞伎町の喫茶店勤務。
両親を大学受験の合否発表の日に何者かに殺されて以来、犯人を、探し続けている。
そこに常連イケおじホストの大我が刺されたという話が舞い込んでくる。
両親の事件と似た状況だった。
新宿を舞台にした欲望にまみれた愛とサスペンス物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる