【完結】変わり身

九時せんり

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脇道

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その日は日向が朝早くから大学に来ていた。いつも通り、沖田の動画を撮るのだろう。
「煮え切らない顔してるわね。」
そう言って日向は俺の顔をスマートフォンで撮った。
「皆んな将来が見えてる中、俺だけ見えないんだよ。」
「皆んな見えない中進むのよ。失礼な発言ね。」
そう言って日向は沖田の準備が整うのを待った。
「石松君、院生っていう手もあるんだよ。」
沖田はゆっくり口を開いた。
「もちろん、学費のこととかあるから簡単には言えなかったんだけど…。」
沖田は筆を握る。
この時、沖田が描いていたのは一人の少女と人形だった。少女の視点は定まらず、ピカソの青の時代を彷彿とさせた。
「ゼロか…。」
俺は何故かそう口にしてその場を立ち去った。

沖田はいつものように追っかけに追いかけられながら永崎や俺に助けを求めてきた。
そのうちに俺や永崎にどうやったら沖田と付き合えるのかという話をしてくる女子もいた。
この頃、永崎は目黒という女子と付き合っていた。お互いに同じ会社に内定を貰っていたらしい。
俺は沖田にも永崎にもなれなかった。こんな中途半端なまま、院生の試験を受けても受かるわけがない。そう思った。
その日、アパートに帰って親父に電話した。
「どうした?挿絵作家になる覚悟ができたか?」
覚悟…最近よく聞く言葉だな、そんな事を思った。
「院生になりたい。」
そう口にした時、俺は少し嬉しくなった。まだ自分には可能性があるのだ。そんなふうに感じた。
「その後はどうするんだ?」
俺は言葉に詰まった。院生になっても最終的には仕事をしないといけない。
「教授…教授になりたい。」
俺は沖田と出会って奇跡を見てきた。1枚のキャンバスに世界が切り取られる。教授になればそんな学生を毎年見ていられる。
親父は押し黙った。
「学費はなんとか工面する。精一杯やりなさい。身体だけは大事にするように。」
そう言って親父は電話を切った。

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