【完結】変わり身

九時せんり

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実現

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何かになりたいと思った時、それになれるかどうかは人によって違う。なりたいものとなれるもの、それが一致している人は夢を叶えたという。

「沖田ー生きてるか?」
3年のバレンタイン、沖田は講義に出ている以外は身を潜めていた。
「石松君…。」
沖田は半泣きだ。俺はアパートから持ってきた紙袋を差し出した。
「誰からもらったか覚えてるか?」
沖田は紙袋にチョコレートを入れながら首を横に振った。
「ポケットにも入ってる…。」
「大人気だなぁ…。」
俺はホホホとわざとらしく笑った。
今なら凡人の女どもでも沖田に手が出せる。そんなふうに俺は思った。そして、それ以上に沖田の横で沖田の世界を見つめることが出来る。それは幸せだろうな。そう思った。
「神坂さんから貰ったのは分かるんだけど。」
「お前、もしかして神坂が好きなのか?」
「何でそうなるんだよ?」
沖田は顔を真っ赤にした。
「人の名前は覚えるのが苦手なんだろう?」
「神坂さんは卵焼きが美味しいから…。」
俺は面白くなかった。神坂は地味な女子だが顔立ちは整っている。
「神坂さんは化粧品メーカーに内定貰ったらしくて…。」
「それがどうしたんだよ?」
「皆、遠くに行っちゃうんだなぁと思って。」
俺は吹き出した。
「1番遠くに行ってるのは沖田だぞ。」
「そんな事…。」
沖田は紙袋を2つ抱えて次の講義へと移動していった。

学食で永崎に会った。
「石松…進路はどうするんだ?」
俺は生協で買った焼き芋味の豆乳を飲みながら永崎と話した。
「何がしたいのかまーったくわからないんだよ。」
そう言って身体をのけぞらせた。
「何がしたいのか分かるまで仕事はしないといけないんだぞ。」
永崎はいつになく真剣だ。
「分かってはいる。けど御社を志望した動機が書けない。」
「そんなの御社の経営理念に感銘を受けたとでも書いとけば良いだろう?」
「そんなの突っ込まれたら終わりじゃん。」
俺はダラダラと永崎と話した。
後ろが騒がしくなる。沖田だ。
「石松君、助けて~。」
情けない声で沖田は俺達の席に来た。紙袋は既にパンパンだ。
「男冥利に尽きるな~。」
そう言って永崎と笑った。
「もう誰から貰ったかわからないんだよ。」
沖田はフラフラしている。
俺はこんな時間がもっと続いていけば良いのに。そう思って豆乳を飲み干した。
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