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第23話:聖女リリーナは母になる
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残念ながら女性を助けることは出来なかったが、生まれた赤子だけでも助けなければ。
遺体はアレクシオが、双子はリリーナとマルロがそれぞれ抱き抱えて近くの町へ駆け込んだ。
町医者によると女性はこの街の人間ではないらしく、見覚えがないという。
仕方なく教会へと運び、ひとまずは安置してもらうことにした。
「この子達はどうなるのでしょうか」
「教会預かりとなって孤児登録、が普通の流れですね」
「気の毒に…生まれた瞬間から親が居ないなんて」
運良く出産直後の母親がいたため、少しだけお乳を分けてもらえた双子はスヤスヤ眠っている。
その寝顔をじっと見つめていたリリーナ、彼女は気付いていた…あの女性には聖女に近い能力があった事に。
「あの人からは浄化の力を感じました、きっと私と同じように聖女候補だったのでしょう」
「そんな…妊娠中だったから神殿には来なかったのでしょうか。呼び出しに応じた候補の中には居なかったように思います」
「そうかもしれません、あるいは既婚者だから対象外だと思ったのか…」
「だからあの魔物は話すことができたのでしょうか…ところで、この子達はスキルを持たぬ者達なのでしょうか?」
スキルは生まれつきのものだが、それが命が宿った時点で付与されているのか生まれた瞬間に得られるものなのかは分からない。
女神グラシアがもうスキルを与えられないといったのは、これから生まれ出る全ての人間に対してなのか。
リリーナは赤子達の小さな手に優しく触れた。
「この子達には力があります。強い浄化の力…母親から受け継いだのか、元々持っていたのかは分からないけれど」
子供達はしっかりと素質を持って生まれていたのだ。
グラシアはリリーナが最後の聖女だと言っていた、つまりこの子供達は聖女にはなれないということ。
しかし二人が持つ浄化の力は、リリーナにも劣らないように感じられる。
「この子達は私が育てます」
導く運命なのだとリリーナは思った。
「えっ、旅はどうされるのですか!?」
「生まれたばかりの赤子達です、しばらくは町から動けませんよ」
「アレクシオ、マルロ。二人は魔物の目撃情報を集めてください。強敵であれば私が行き、他の兵士たちでも対応できそうなら派遣しましょう」
魔物肉の狩りや販売も盛んになってきており、小さい魔物ならば戦える人間が増えてきている。
元々街を守る警備隊なども戦いには慣れているため、聖女の名で派遣を依頼すれば応じてくれるはずだ。
リリーナは暫くこの町に滞在し、子育てする事を決めた。
「今日から私が貴方達のお母さんよ…グラウス、エレシア」
双子の兄にグラウス、妹にエレシアと名付けて。
恋すら知らぬ聖女リリーナは、清い身のまま母となったのだ。
---後の世に語り継がれる聖女の物語り。
最後の聖女リリーナは、僅か40年でその生涯を終えた。
拾い子の二人を立派に育て上げ、神を失った世界に混乱する人々を見守り続け。
いつものように一日の仕事を終え、夜の祈りを捧げながら永遠の眠りについたのだった。
真っ直ぐに育った双子の傍には、聖騎士となったアレクシオとマルロが常に付き添っている。
二人は口を揃えてリリーナを讃え、聖女として生きた彼女の人生を語り継ぐ。
---------------
これにてこの話は完結となります。
長編として書き始めたものの、聖女になった時点で終わりでもいいなと思ってしまい中々進まず…
中途半端に感じる方もいるかもしれませんが、これ以上はダラけてしまいそうなため終了とさせて頂きます。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!
遺体はアレクシオが、双子はリリーナとマルロがそれぞれ抱き抱えて近くの町へ駆け込んだ。
町医者によると女性はこの街の人間ではないらしく、見覚えがないという。
仕方なく教会へと運び、ひとまずは安置してもらうことにした。
「この子達はどうなるのでしょうか」
「教会預かりとなって孤児登録、が普通の流れですね」
「気の毒に…生まれた瞬間から親が居ないなんて」
運良く出産直後の母親がいたため、少しだけお乳を分けてもらえた双子はスヤスヤ眠っている。
その寝顔をじっと見つめていたリリーナ、彼女は気付いていた…あの女性には聖女に近い能力があった事に。
「あの人からは浄化の力を感じました、きっと私と同じように聖女候補だったのでしょう」
「そんな…妊娠中だったから神殿には来なかったのでしょうか。呼び出しに応じた候補の中には居なかったように思います」
「そうかもしれません、あるいは既婚者だから対象外だと思ったのか…」
「だからあの魔物は話すことができたのでしょうか…ところで、この子達はスキルを持たぬ者達なのでしょうか?」
スキルは生まれつきのものだが、それが命が宿った時点で付与されているのか生まれた瞬間に得られるものなのかは分からない。
女神グラシアがもうスキルを与えられないといったのは、これから生まれ出る全ての人間に対してなのか。
リリーナは赤子達の小さな手に優しく触れた。
「この子達には力があります。強い浄化の力…母親から受け継いだのか、元々持っていたのかは分からないけれど」
子供達はしっかりと素質を持って生まれていたのだ。
グラシアはリリーナが最後の聖女だと言っていた、つまりこの子供達は聖女にはなれないということ。
しかし二人が持つ浄化の力は、リリーナにも劣らないように感じられる。
「この子達は私が育てます」
導く運命なのだとリリーナは思った。
「えっ、旅はどうされるのですか!?」
「生まれたばかりの赤子達です、しばらくは町から動けませんよ」
「アレクシオ、マルロ。二人は魔物の目撃情報を集めてください。強敵であれば私が行き、他の兵士たちでも対応できそうなら派遣しましょう」
魔物肉の狩りや販売も盛んになってきており、小さい魔物ならば戦える人間が増えてきている。
元々街を守る警備隊なども戦いには慣れているため、聖女の名で派遣を依頼すれば応じてくれるはずだ。
リリーナは暫くこの町に滞在し、子育てする事を決めた。
「今日から私が貴方達のお母さんよ…グラウス、エレシア」
双子の兄にグラウス、妹にエレシアと名付けて。
恋すら知らぬ聖女リリーナは、清い身のまま母となったのだ。
---後の世に語り継がれる聖女の物語り。
最後の聖女リリーナは、僅か40年でその生涯を終えた。
拾い子の二人を立派に育て上げ、神を失った世界に混乱する人々を見守り続け。
いつものように一日の仕事を終え、夜の祈りを捧げながら永遠の眠りについたのだった。
真っ直ぐに育った双子の傍には、聖騎士となったアレクシオとマルロが常に付き添っている。
二人は口を揃えてリリーナを讃え、聖女として生きた彼女の人生を語り継ぐ。
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これにてこの話は完結となります。
長編として書き始めたものの、聖女になった時点で終わりでもいいなと思ってしまい中々進まず…
中途半端に感じる方もいるかもしれませんが、これ以上はダラけてしまいそうなため終了とさせて頂きます。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!
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