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王様に会いました

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 趙子光チョウシコウ様の前に立っている男性。年齢は14、5歳に見える。
 首から下は見たことも無いような高貴な御姿だけど、首の上に乗ってるものは毎日見ている顔。

 「なるほど、確かにそっくりだ。だが女か。まあ良い」

 目の前の私は何か一人で納得している。

 「愛良アイラ殿。こちらは国王、劉輝陛下にあらせられる」
 趙子光チョウシコウ様がうやうやしく紹介する。

 そうでしょう、そうでしょう。この状況からもうそれしかないとは思ってました。思ってはいましたが・・。

 「愛良アイラといったか。面を上げよ。驚いているようだが、それは余も同じだ」

 同じじゃないです。国王陛下にしてみれば、同じ顔を面白がって見てるんでしょうけど、こっちは冷や汗たらたらなんです。

 これ絶対あれですよね。替え玉になって、なんかすごく危ない目に合うっていう、そういうやつですよね・・。

 私がドギマギしているのにもお構いなく、国王陛下は言葉を続けた。

 「そちに命ずることがある。国家の大事と心せよ」

 きたよ!きちゃたよ!。絶対そういう方向になると思ってた。だいたい私なんか必要とされるなんて、おかしいと思ってたんだ。これもう断るとか、絶対無理な奴だよね。

 ほぼ観念した私に追い打ちをかけるように、国王陛下は言葉を続けられた。

 「余が若いのを良いことに、隣国の賽が我が国の領土に侵攻を開始した」

 はい!いきなり重いとこきました。

 「これを迎え撃つ軍をすでに派遣しているが、いずれ余も前線に立って指揮せねばならぬと思っておった。」

 それは立派なお心がけですぅ。どうか私にかまわずお好きになさってほしいですぅ・。本当になんでこんな話を私にするのか、私は田舎で農作業しかしたことないんです。絶対役に立たない自信があります。

 頭の中ではいろいろな声がぐるぐるしてるけど、もちろんそれらを声にすることはできない。

 「10日後、燕国の大使が我が国と同盟を結ぶためにやってくる。本来この同盟を待って出陣するつもりだったが・・」

 だったならそうなさった方がよろしいと思われますが・・。

 「余は今より出陣する。10日後、燕国との同盟はそなたが結ぶのだ」
 「一刻も早く、賽に余の武威を見せつけねばならぬ」

 頭おかしいんじゃないんですか。私は農作業しかしたことがない田舎娘なんですよ。隣国の大使と、政治の話なんかできるわけないじゃないですか。私ができるのは、せいぜい芋か菜っ葉の話くらいなんです。

 頭の中ではすべての話を全否定しつつ、もちろん口には一言も出さなかった。ああこれは死んだな。でもどうせ死ぬなら10日後の方が良い。せっかくこんな貴重な体験をしてるんだもの。せっかくだから10日間で残りの人生全部分くらいの経験をしてやろうじゃないか。

 とんでもない状況なのに、不思議と前向きな気分になってきた。
 
 奇麗な服を着て、おいしいものを食べて、あったかい布団で寝る。一生分の幸せを10日に集約して使い切ってやる。そう決意するとちょっとワクワクしてきた。

 「お任せください国王陛下。ご期待に沿えるよう微力ながら最善を尽くします」

 とりあえず、この場で死なないで済む回答を探すので精いっぱいだった。
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