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第14章 そして神になった

【次元の狭間8】

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<<監査部 広域監視課アース監視チームライク視点>>



いつものようにアースの監視をしているとご無沙汰な顔が覗いた。



「ライクさん、久しぶり。お元気でしたー?」



「やあ、ユウコ君か。本当に久しぶりだね。もう半年くらいになるんじゃない。」



「そうですね。あれはたしか次元のゆがみで大量のアース人が迷い子になりかけた時でしたね。」



「そうだそうだ、思い出したよ。あの時は本当に焦ったよ。



アースにはこちらからの出入りが多いから、不正が無いかどうか調査するのが僕達の任務だけどね。



あんなゆがみが突然発生したんだから本当に驚いたよ。



まあ、君達が上手く立ち回ってくれたから特に問題にならずに済んだけどね。」



「ええ、あの時はわたし達も総動員で頑張りましたよ。でもライクさん達の適切な誘導があったからスムーズに救出出来たんですよ。」



「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。でも褒めても何も出ないよ。」



「へへ、あっそうだ忘れるところだったわ。



ライクさん、こちら紹介します。わたしの新しい部署の同僚でエースのマサルさんです。」



「新しい部署って、たしか異世界管理局の新設部門だっけ。」



「そうよ。そこのエースって言ってもわたし達2人しかいない精鋭チームなんだけどね。」



「初めましてマサルです。」



「こちらこそ、広域監視課のライクです。



ユウコさん、つかぬ事を聞くけど、マサルさんってあのマサルさん?」



「そうよ、あのマサルさん。わたしも初めて会った時は驚いたわ。」



「へーーー。そうか、あなたがあのマサルさんですか。

あなたの活躍はこちらでもよく聞いていますよ。」



「そうなんですか。わたしなんて未だこちらの世界では新人なんですが。」



「いやあ、ラスク星での活躍は監査部でも高い評価をされていますよ。



それに、各星との交易による文化交流なんて今までありえなかったことですしね。



ずいぶんと異世界各星の水準が上がったと思いますね。



特にあなたの活躍で、アースからの召喚がうなぎ上りで大変なことになっていますよ。」



「ありがとうございます。」



「ところでユウコ君、今日はどうしたんだい。」



「ええ、実は異世界管理局でちょっとしたトラブルがありまして。



詳しいことは機密事項に触れるんで言えないんですけど、1週間前にアースで何らかの次元の歪みが無かったかをお聞きしたくって。」



あのユウコ君が機密事項というのだから、よほどの事件なんだろう。



「1週間前か~。



そういえば、1度だけ通信が途絶えたことがあったかな。



本当に僅かな時間だけだったんだけどね。



たしか日本辺りからだったかな。」



「それもう少し詳しく聞かせて下さい。」




~~~~~

~~~~~




1週間前のあの日、俺は今日と同じように同僚のヨシキと、アースからの転移におかしなことが無いかチェックしていた。



「今日も特におかしなことはなさそうだな。」



「そうだな。そういえば昨日の召喚ビンゴでアース人が出てたみたいだな。



今日あたり異世界管理局が召喚するんじゃないか。」



「最近アースのスカウトが力を入れてるからな。ほらタケイナーさんだっけか。」



「そうだったな。…



うん?言ってるそばから召喚が始まったみたいだぞ。」



「ほう、今回は若い男の子じゃないか。



あの服装からして病死だな。可哀想にな。



新天地で楽しんでくれたら良いのにな。」



彼が次元のトンネルを通って、こちらの空間に入ってすぐの所で突然映像が乱れた。



「おっ何が起こったんだ?」



「わから…!どうやら回復したようだ。



一時的な次元の歪みかな。」



「カメラ良し、音声良し、録画良し。



いちおう、こちらの設備は大丈夫そうだ。」



「彼は上手くたどり着けたよな?」



「あそこまで行ってたら大丈夫だろう。」



「そろそろ仕事も終わりの時間だな。

ヨシキ、彼の前途に乾杯といこうじゃないか。」



「良いね~。」





~~~~~

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「と、まあこんな感じだった。」



俺の脚色無しの話しにユウコさんは引きぎみだけど、出来るだけ詳細にって言われたもんな。



「ありがとうございます。



ところで、その時の観測資料とか残ってますか?」



「ああ、あるよ。映像はこれで、次元の歪み波形はこれだな。」



映像を記録した媒体をモニターにセットしてスイッチを入れる。



それと、日誌に挟んである波形シートをマサルさんの前に置いた。



「これがリモコンね。」



「ありがとうございます。」



律儀に頭を下げる姿が彼の真面目さを物語っているようだった。
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