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第14章 そして神になった

【次元の狭間2】

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<<マサル視点>>



ミリヤ様の召喚したアキラ君が召喚部屋に来る途中で消えてしまったという。



暗い靄というのが気になったため、消えた辺りで痕跡を追跡する魔法のトレースをかけてみた。



床材や壁材、土や草花などの全て物には過去の記憶を維持する能力があることが分かっている。



トレースはその記憶をあらゆる物から集めて整理し映像化する魔法だ。

トレースで得た映像を魔石に録画しておくことも忘れない。



「まったく、いつ見てもマサルさんの魔法は反則よね。」



ほのかな明かりの中に映る映像を見ながらマリス様のため息が聞こえた。



3人で映像を見ているとアキラ君の姿が映ってきた。



こちらに向かってくる。1メートルほど手前に来た時に地面に黒いしみが現れ、そこから真っ黒な靄が溢れてきて急速に広がると辺りは真っ暗になった。



数秒後、靄が晴れるとアキラ君の姿は無くなっていた。



「そ、そう、こんな感じだったんです。マサルさんすごーい。」



「ミリヤ、マサルさんをそんな目で見るんじゃない。ハートマークになってるわよ。」



姦しいやり取りはスルーして魔石に録画しておいた映像を超スロー再生してみる。



「マリス様、ミリス様、ちょっとここを見て下さい。」



今だ姦しいやり取りを続けているふたりを呼び寄せて映像を見せる。



100分の1秒のうちの1コマの静止画像、真っ黒な靄の一部が少し薄くなったところに地面に飲み込まれ下半身が消えたアキラ君が映っていた。




「なによこれ!」



「アキラ君が床に沈んでいくわ!」



1コマずつ進めていくとアキラ君が徐々に沈んでいく姿が映り出される。



映像でコマ送りだとゆっくりに思うが、実際の時間にするとコンマ数秒くらいのことだろう。



「マサルさん、どういうこと!アキラ君が!!」



「ミリヤさん、落ち着いて。アキラ君が沈んでいく場所には魔方陣も見当たらないですし、魔法の反応も見られません。



ということは、次元の狭間に落ちたんじゃないかと推測します。」



「「次元の狭間?」」



「アースにはパラレルワールドと呼ばれる世界観があります。



我々とそっくりな星や世界が存在する次元が複数あり、何らかの原因でそのパラレルワールドに移動してしまうことがあると言われているんです。



詳しくは言えないんですが、俺は現実にパラレルワールドと思われる世界に遭遇したことがあるんです。」



「よく分からないんだけど、アキラ君はそのパラレルワールドへ行ったっていうこと?」



「そうですね、ただどの世界のパラレルワールドかは分からないんで、何ともいえないのですが、少なくとも別次元に落とされたとは言えると思います。」



「別次元に落ちるというのがつまり次元の狭間に落ちるということになるのね。」



「さすがマリス様、そんな感じです。」



「そ、それでアキラ君は、ぶ、無事なんですか?」



「ミリア様、落ち着いて下さい。残念ながらわかりません。ただ、何者かが作為的に落としたとすれば、直ぐに消滅させるようなことはしないと思います。」



ミリヤ様は心配そうに下を向いているし、何とかしなきゃな。



「どうなるかわかりませんが、わたしも少し動いてみますね。」



「マサルさん、申し訳ないけどよろしくね。」



「マサルさん、何とかアキラ君をお願いします。」



俺は気にかかっていたこともあり、人事課長に相談することにした。








「やあマサル君、君から相談なんて珍しいね。どうしたんだい?」



「すいません、お忙しいのにお時間を頂きまして。」



「いやいいんだ、君にはいろいろ借りがあるからね。それでどうしたんだね。」



俺はアキラ君が闇に飲み込まれたことを人事課長に説明した。



「なるほどな。マサル君はそれを次元の狭間に落ちたと考えたわけだね。」



「そうです。先日依頼された修学旅行生の時もそうでしたが、時間の綿密なコントロールや最後にわたしを襲った強烈な攻撃を考えると、かなり優秀な魔法使いか統率された組織が関与しているのではないかと考えています。



ならば、今回のアキラ君の件についても偶然というよりは作為的に行われたのではと。



もしかすると異世界管理局を狙ったものかもしれませんが。」



「マサル君は、次元の狭間をコントロールする何者かが、我々にそれを阻止されたことで敵対しようとしているのだと思っているということだね。」



「ええ、そしてもう一つ気になることが。あの時俺達を助けてくれたユウコさんの存在です。



彼女は正体を隠していましたが、あの時の事情も俺の正体や目的も知っていました。



そのことについて課長は「知らない」と仰っていましたが、何か心当たりをお持ちではないかと思っています。」



俺に疑問を呈するような眼差しを向けられて、人事課長は「ハハハハハ」と笑い声をあげた。



「いやー、ごめんごめん、やっぱり君は優秀すぎるな。



わたしはそのユウコという召喚者の正体を本当に知らないんだ。

だが、君の言う通りなぜ彼女が動いたかについて見当をつけることは出来るよ。



だが、その話しを聞いてこれ以上の関与を望むのであれば、君は人事課いや別の組織の職員とならざるを得なくなるのだが、どうするね?」

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