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第11章 ランスの恋

19 【悪巧みを阻止するのだ。3】

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<<セラフ視点>>
スリトー王国に入ってすぐに王城に向かいう。

マサル様からスリトー王には先に連絡してカンナ王女の侍女として潜入することが決まっているからだ。

もちろん、見ず知らずの者が、そのまますぐに雇われるなんて不自然だから、キンコー王国の子爵令嬢の行儀見習いということにしてある。

「カンナ王女様、マサル様から派遣されたセラフと申します。

宜しくお願い申し上げます。」

「セラフさん、危険な仕事ですが、我が国にとっても火急の事態なのです。

宜しくお願い致します。」

王女の部屋の天井付近に浮きながら、カンナ王女と会話する自分を見ている。

どうやら分身だとは気付かれていないよう。

今わたしは意識体を切り離して仮の人間体と別行動している。

まぁ、人間界に実体を現していること自体が、分身みたいなものなのだが。

これで分身を操ることもできるし、意識体だけで動くこともできる。

えっ、意識体だけじゃダメなのって?

潜入捜査には、可愛いい女の子の危機はお約束じゃないですか。
 

......失礼しました。
地球から取り寄せた、マリス様の愛読書の読み過ぎですね。




さて、こうして分身をカンナ王女の侍女として、王城内をある程度自由に探れるようになった。

分身には、王女の警護と様々な部署の聞き込みをさせる予定。

意識体としてのわたしは、ヤマトー侯爵の屋敷に来ている。

とりあえずヤマトーの派閥にいる貴族達を無力化することから始める。

ヤマトー侯爵の執務室にいると様々な貴族や商人の出入りがある。

マサル様やカンナ王女から聞いているよりも悪どく動き回っているようだ。

とりあえず緊急性のあるものから潰していく。

例えば亜人奴隷の密売。
隷属の首輪で無力化されている獣人の隷属化を解除してやる。

そうすると、意識を取り戻した獣人が暴れ出し、自然に密売が失敗に終わるって感じ。

地味だけど、分かり難く確実に潰していく方法。

これもマリス様の愛読書から得た方法。

マサル様に話したら苦笑いされたやつだ。


希少動物の取引だったら、檻の中に居る間に、ありふれた動物と入れ替えて置くとか。

希少鉱石が石ころに変わっているとか。

自分達に都合の良い法案を通そうとする会議には、事前に賛成派の貴族の食事に下剤を混ぜて出席出来なくして、多数決で否決させたり。

本当に地味だけど、3ヶ月も経つ頃には、ヤマトー侯爵の力もだいぶ削がれて来たと思う。

だって、かなり焦りだしたから。

ヤマトー派閥の貴族もかなり弱体化して、わたしが来た頃と比べると、半分以下の勢力になっている。

すでに多数派じゃなくなったから、これまでのように、会議でも自分達の有利なようには出来なくなっている。



そして焦りに焦ったヤマトー侯爵は、遂に王族に直接的な危害を加えようと画策し出した。

まずは料理人を買収して、微量の毒を長期に渡り王族の食事に混ぜさせようとした。

もちろん、食べる前に全て無効化。

毒虫を寝室に入れて毒殺する?

もちろん、毒虫は排除。

王城に火を放ち、どさくさに紛れて暗殺する?

火事にさせるわけがないじゃない。

もちろん、暗殺者はこの世からサヨナラしてもらう。


ヤマトー侯爵の企みはわけが分からない内に全て失敗に終わり、あまりの不思議さに、ヤマトー侯爵に対する呪い説が派閥貴族内に蔓延。

どんどん派閥貴族達が離れていった。


そんな感じで6ヶ月が経つ頃には、気が付けばヤマトー侯爵の威光は全くと言っていいほど無くなっていた。



そして遂にヤマトー侯爵は自らの手で国王の殺害を試みる。

それは国際連合総会に出席するために、スリトー国王とヤマトー侯爵が、マサル共和国に移動する途中で行われた。

スリトー王城からマサル共和国に行くまでには、スリトー王国の国境付近にある転移門をくぐる必要がある。

国王一行が転移門に着いたところ、警備兵士が一斉に武装し、スリトー国王を囲んだ。

「あははは、わたしの勝ちのようだ。

スリトー王、あなたはここで盗賊団に襲われて亡くなるのですよ。

わたしがカンナ姫を娶って、あなたの後を見事に継いで見せますので、安心してあの世で見ていて下さいね。」

ヤマト―はそう言うと、警備兵士達に「やれ!」と指示した。

警備兵士達は、一斉にスリトー王の囲みを外し、ヤマトー一派を取り囲む。

「ど、どういうことだ!」

ヤマト―一派はたちまち捕らえられて、そのまま強制的に連れていかれた。

「お父様!」

「カンナ。ようやくヤマトーを捕まえることが出来た。

セラフ殿、ありがとう。あなたのおかげで、スリトーは救われた。」

ヤマト―侯爵が、転移門の警備隊を事前に買収していたのは分かっていたので、事前に逆買収をしておいたのだ。

「クラーク殿やマサル殿にも当然お礼はさせて頂くが、セラフ殿にも望むものがあれば何でもさせて頂きたい。
忌憚なく言って欲しい。」

「スリトー王、わたしは特に何も欲しくない。
終わって良かった。

それじゃあ、わたしは帰ります。」

もう依頼は終わったから、早くマサル共和国に帰らなきゃ。

そろそろ今年も桜が咲いているかも。

後ろから王やカンナ王女が引き留める声が聞こえるが、わたしはそのまま転移門に入り、カトウ邸に戻った。



やはり桜は満開になっていた。今年は昨年より少し早かったようだ。

急いで戻ってきて良かった。


その日は、ランスやイリヤ、セイル、ハリー達と遅くまで花見を楽しんだ。




その深夜、久しぶりに自分のベッドに横になっていると、マリス様の声が聞こえた。

「セラフ、久しぶりね。あなた今日とっても楽しそうだったじゃない。

羨ましくなんかなかったけどね。


ところで、スリトー王国ではご苦労様。でも、ちょっと目立つ過ぎたわね。

そろそろ戻ってきなさいよね。

別に花見が羨ましかったわけじゃないからね!」


そのまま、マリス様に無理やり移動させられた。


ああ、ランス達に一言「サヨナラ」を言いたかったな。



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