上 下
249 / 382
第11章 ランスの恋

11 【イリヤのダンジョン探検】

しおりを挟む
<<セイル視点>>
「し、しまったのじゃ。イリヤちゃん達が消えたのじゃ!」




我は今、亜人大陸の平原に来ているのじゃ。

もちろん、今日もイリヤちゃんとシルビアと一緒に居る。

草ばっかり一日中集めて何が面白いのか、我には全く分からないが、あのふたりが楽しそうだから良しとしよう。

我は我で魔物狩りを楽しんでおる。

この亜人大陸というところ、未開拓のところが多い。

街を少し離れただけで、人間達が入ったことが無いところに行き着く。

少し前までは、神聖な場所として立ち入り禁止になっておったところもあるらしいし。

我があの洞窟に潜る前、かれこれ5000年余り前かの、こんな土地は無かったような気もするが。

まぁ当時とは地形もだいぶ変わっているみたいだし、分からないだけかも知れんが。


この原野に来て既に1週間、と言っても毎日転移の魔道具で屋敷に戻ってゆっくり休憩しているから余り疲れておらぬが……

そろそろ飽きて来ているのも事実だ。

ただ、イリヤちゃんを危険に晒すわけにもいかぬ故、こうしてついて来ているわけだが。


何も無い原野を歩く。

原野と言っても草も無いわけじゃなくて、低い草や地面に潜って茎のほとんどが土に隠れているもの等、あのふたりの興味が尽きぬくらいのものはあるらしい。

今も先頭をいく我の後を地面を触りながらふたりがついて来ているはず……!?

い、居ない!



「し、しまったのじゃ。イリヤちゃん達が消えたのじゃ!」

我は慌てて、ふたりを探す。

「おーい。」

微かにイリヤちゃんの声がする。

耳を澄ませながら辺りを探してみる。

地面の下から、聞こえてくるようだ。

声のする辺りに行ってみると、地面に穴が空いている。

小さな穴で、声が無かったら見逃すところだったわ。

穴を掘って広げる。

下は深くなっているようだ。

我は迷わず穴に降りる。

穴は砂地になっており、穴の上に乗っただけで下に沈んで行く。

そのまま、砂に流されて下に沈んで行くと、広いところに落ちた。

「イリヤちゃん大丈夫かなのじゃ。」

「あっ、セイルちゃんも降りて来てくれたんだ。」

『降りて来てくれたんだ』って、砂に流されて落ちたんだけど。

自分から降りたんじゃないよね。

我はイリヤちゃんの言葉にツッコミを入れようとして、黒い影を見つける。

「イリヤちゃん、危ないのじゃ!」

我の叫びは届かな……い?

イリヤちゃんはニコニコこちらを見ながら、後ろから迫っている黒い影を火魔法で一瞬で焼いてしまった。

「未だ居たんだね。

5匹もやっつけたから、もう居ないかと思ったよ。」

横でシルビアは腰を抜かしながら、苦笑いをしておるわ。

そうじゃった、イリヤちゃんは強いんじゃった。

忘れとったわ。

「シルビア先生、大丈夫ですか?」

「はははっ。大丈夫だ、たぶん。」

「セイルちゃんも行くよ。

この先に洞窟が続いているみたいだから、探検しようよ。」

ウキウキした声で先頭を歩くイリヤちゃん。

その横には体長3メートルはゆうにある大きなアリ地獄が、6体転がっていた。


「どこまで続くのかな。うーん楽しみだね。シルビア先生、セイルちゃん。」

ガクガクする腰に手を当てながら何とか歩いているシルビアに手を貸しながら、我はイリヤちゃんの後をついていくのだった。


暗い穴を進むと、時折り巨大ミミズが襲って来る。

あの穴から覗く胴の太さから考えると、元の姿に戻った我でも手こずる大きさだろう。

それが左右上下の壁や床から大量に顔を見せている。

先頭を歩くイリヤちゃんが、指を指すとそこから眩い光線が出て、一発で丸こげになっている。

ミミズの香ばしい焼け焦げに蒸せながらも、どんどん先に進む。

洞窟の上下左右の壁からは、焼け焦げたミミズだったものが、少しずつ出ていて、歩きにくい。

「だんだん歩きにくくなってきたね。

さすがに数が多すぎて面倒だよ。」

イリヤちゃん、巨大ミミズの数にウンザリしてきたみたいで、今度は土魔法を使いだしおった。

イリヤちゃんが土魔法を使うと、前方の洞窟の壁が、白く固まる。

「これ、『コンクリート』って魔法なんだって。

お父様に教えて頂いたの。

すんごく土が硬くなるんだよ。」

たしかに、壁の土が金属のように硬くなっておる。

これではミミズも出てこれまいて。

魔法で歩き易くなった洞窟をどんどん進んで行くと、大きな広間に出た。

「まぁ、すごくきれい!」

我もシルビアも息を呑んで辺りを見渡す。

そこには星を散りばめたような美しい光景が広がっていた。



「これは、まっ、まさか伝説の『土蛍』」

昔、そう、まだ、タカシ殿が生きておられた頃の話。

癒しのスポットを作りたいとのマリス様の我儘に、タカシ殿が考えられたのが、この土蛍だった。

学生時代にニュージーランドというタカシ殿の世界の国から召喚して繁殖を試みたのだが、結果的に繁殖は失敗して断念したものだ。

まさか、こんなところで繁殖しておるとは!


「セイルちゃん、これ土蛍って言うの?

シルビア先生、綺麗ですね。」

「……本当だな。まさかこんな幻想的な光景が広がっている場所があるなんて。

……信じられん。」

「恐らく、土蛍で間違い無かろう。

タカシ殿が言っておられた光景にそっくりじゃからな!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...