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第11章 ランスの恋

3 【マリスの危惧】

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<<マリス視点>>
「ふうー、あー疲れた。」

久しぶりにこの部屋に戻って来たわ。





マサルさんのおかげで、異世界管理局でのわたしの評価はうなぎ登り。

今まで、わたしに無関心だった運営課長なんて、今にも肩を揉みに来そうなくらい、ニコニコ顔でこちらを見ている。

本当に肩を揉みに来たら、セクハラで訴えてやるけどね。

でも、本当忙しいのよね。

各現場からは相談が絶えないし、テコ入れを頼まれたり。

重役会議での説明や社内報の取材等本社にいても忙しいし。

そうそう、この前なんて公共放送の取材まであったわ。

今は、来年の新卒採用に駆り出されてるの。

俗にいう広告塔って奴。

給与はそれなりに上げてもらったけど、もう少し休みが欲しいわ。





部屋に入って水鏡を覗く。

あらやだ、わたしたら繋ぎっぱなしだったわ。

でも、この桜って言うのは、いつ見ても綺麗な花ね。



「マリス様、お帰りでしたか。」

「セラフ、ただいま。

留守中、何もなかった?」

「ええ、特にお話しするようなことは。」

「そう、ありがとうね。

申し訳ないけど、お茶を入れてくれるかしら。

御茶菓子は、そうね、マサルさんから送られてきた、チョコレートケーキが良いな。

お茶は渋めでお願い。」

「かしこまりました。
すぐにご用意いたします。」

セラフが部屋を出て行って、一息つく。

やっぱり、この部屋が一番ね。


セラフの入れてくれたお茶を飲みながら、イベント一覧を検索する。



最近更新された異世界管理システムの新機能で、イベント一覧機能が追加されていたの。

この機能は、自分が管理する異世界で発生したイベントを記録しておいて、それを後から読み返せるもの。

あらかじめ、レベルを設定しておくと、それに合わせて表示してくれるのよ。

わたしみたいに出張が多い現場監督には本当に助かる機能なのよね。


イベント一覧を最近のところから、さらさらと読んでいると、ある日のイベントで目が止まる。

あらやだ、タカシ君の社が見つかったのね。

やっぱりマサルさんが絡んでるのか。

ところで、あそこにはハリーが居たわよね。

ハリー元気かしら?

あの子ったら、元気過ぎて時々暴走しちゃうのよね。

タカシ君の社を守るんだとか言っていたけど、まだ守っているのかしら。

その何行か上を見ると、セイル……、えっ!セイルが見つかったって!

あの子もタカシ君の社を守るんだとか言ってたのに、どっかに行ったってハリーが言ってたっけ。

あの子達、まだ会って無いよね。

せっかく上手くいってるのに、あの子達が何か問題事を起こさなきゃ良いけど…

ああ、プロジェクト○に出られるかもしれない、大切な時に。

わたしが監視していたいのだけど、そうもいかないし……

「マリス様、お茶のお代わりは如何でしょうか?」

「あっ、セラフ、あなたセイルとハリーを知っているわね。

前にあの子達が喧嘩をして、世界が終わりそうになったのを覚えている?

いつもは仲が良いんだけど、何かのきっかけで、喧嘩しちゃうのよね。

前の時はタカシ君がいたから事なきを得たけど、彼はもういないからね。

ちょっと心配。

そうだ!
あなた、わたしの代わりに人間の世界に顕在化して、あの子達を見張ってくれないかしら。」

「わたしが顕在化してもよろしいのですか?」

「お願い。あの子達を大人しくさせておいてね。」

「かしこまりました。早速行って参ります。」

いつも無表情なセラフが、嬉しそうな雰囲気だったけど、気のせいね。

とりあえず、セラフに任せておけば大丈夫だわ。




<<セラフ視点>>
ランスに会った次の日、また下の世界を見たくなってマリス様の部屋に向かう。

扉を開けたら、まさかのマリス様が居られた。

驚きの声を上げそうになったけど、大丈夫。

いつもの無表情なわたしに戻る。

水鏡を覗いて居られたけど、わたしが顕在化したことは、バレないはず。

だって、イベント一覧機能を操作して、一時的にログレベルを下げておいたから、ログには残っていなかったしね。

マリス様にお茶を入れる。
マサルさんから送られてくる御茶菓子は本当に美味しいの。

わたしも、たまに頂くのだけど、いつも待ち遠しくなるわ。

でも、あんなに下の世界で出世したのに、マリス様への礼拝とお供えを欠かさないのは、彼だけじゃないかしら。

マリス様、本当に良い人を見つけたものね。


マリス様が熱心にログの確認をして居られる。

「ええっ、タカシ君の社が見つかった!」

「ええっ、セイルが見つかった!」

セイルとハリーを一緒にしたら大変だから、顕在化して、下に行ってあの子達が喧嘩しないように見張っててねって、マリス様に言われた。


ラッキー!

思わず顔に出し掛けたが、ギリギリのところで堪えて、いつもの無表情を維持する。

「かしこまりました。早速行って参ります。」

こうしてわたしは、合法的に下の世界に顕在化する権利を獲得したのだ。





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