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第7章 研究室と亜人大陸
17 【スパニの侵攻】
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<<ヤライ族族長カーン視点>>
ルソン殿がヤコブ内の騒乱を治め、新しい族長になったと知らせが入った。
どうやら、うまくまとめることができたようだ。
ヤコブの戦力は総勢15000にも上るという。
その数は前族長の存命時と変わらない。
つまり、今回の騒乱をほとんど兵を失わずにしのいだということか。
ルソン殿からの伝令では、ヤコブ内の組織が固まり次第、兵をまとめて駆け付けてくれるとのことだ。
「カーン様、スパニが動き出したとスパニに出していた斥候から連絡がありました。」
「そうか、動き出したか。
マサル殿、スパニが動き出した模様です。
わたしはこれから防衛ラインに行こうと思います。」
近くでお茶を飲んでいたマサル殿に声を掛ける。
「カーン殿、スパニについてはどのような対応をされますか?
追い返すだけなのか? 戦力を極力減らすのか?」
「できれば、追い返すのみにしたいと考えています。
ただ、容易に攻め落とすことができないと思わせるだけの、抵抗はしたいと思いますが。
スパニは強大な国です。彼らは大きな敗戦をした場合、国の威信にかけて全力で潰しに来る恐れがあります。
追い返すくらいであれば、前線の指揮官の判断で時間を稼ぐことができると思います。」
「カーン殿、賢明な判断だと思います。
それであれば、防衛ラインに少し強力な攻撃魔道具を設置し、圧倒的な火力で1回の攻撃を、長期戦に持ち込まれないように対応しましょう。」
マサル殿はそう言うと、いくつかの魔道具を取り出す。
「これは、火炎放射の魔道具です。
およそ、50メートルの距離まで継続的に炎を噴射することができます。
こちらは、氷結の魔道具です。
半径50メートルの範囲の地面を凍らせ、近づくことが出来なくなります。
こちらは、雷雲の魔道具です。
雷雲を局所的に発生させ、半径100メートルの範囲に雷を継続的に落とします。
これらを使用することで、敵は防衛ラインにすら近づくことが出来ずに、短期で撤退せざるお得ないと思います。」
マサル殿の言葉に、唖然としてしまう。
「これほどまでに強力な魔道具があれば、殲滅も可能ではないのか。」
わたしのつぶやきにマサル殿が答える。
「局所戦闘では殲滅することが可能でしょう。
ただ、あくまで攻めてくる敵にのみ有効です。
スパニが、その強大な力を持ってこちらへの輸出入経路を抑えてきた場合どうしますか?
ヤライは干上がってしまい、長期戦を続けることが難しくなるのではないでしょうか?
ですから、『攻めあぐねている』という状況を作っておくのが当面は良いと思います。
その間にロンドーへの対抗策も採れます。」
「なるほど、前線の指揮官のプライドで戦線を硬直させるわけですな。
さすが英雄殿、力があるだけでなく、戦略の何たるかをよくご存じだ。」
「ではカーン殿、防衛ラインに行き、魔道具の設置と効果的な利用方法を前線の指揮官に説明いたしましょうか。」
こうしてわたし達は、防衛ラインに赴き、指揮官を集めたうえで戦略の説明を行った。
その後、防衛ラインでのスパニとの攻防は半年にわたり繰り広げられたが、それは次の手を打つための時間としては充分な時間となった。
<<防衛ライン指揮官長ラムス視点>>
スパニ侵攻の報を受け、防衛ラインの砦には緊張が走った。
守備兵2000に対し、スパニは20000の兵を動員しているという。
事前に、強固な防衛ラインが築かれているとはいえ、圧倒的な戦力差に砦の中では悲観論も出始めていた。
非常にまずい状況だ。
そんな時、カーン様とカトウ公爵様が砦に来られた。
「ラムス、防衛ラインの様子はどうだ。」
「はっ、カーン様。防衛ライン自体は強固さを維持しておりますので、何ら問題はありません。
ただ、圧倒的なスパニ軍の数を聞いた兵士の中に悲観論が出始めているのが問題です。」
「そうであろうな。スパニの残虐性と数の暴力は、これまでの他国への侵略を見ると確かに恐怖でしかないだろう。
兵が怖気づくのも無理はない。
ラムス、防衛ラインはスパニの足止めをするのが目的だ。
そのための魔道具をカトウ公爵からお借りした。
今から、その使い方と効果的な使い時を説明するので、各部隊の主だったものを集めてくれ。」
俺はすぐに、カーン様とカトウ公爵様の前に各班長を集めた。
「皆よく聞いてくれ。これから説明する攻撃用の魔道具は、非常に強力な武器となる。
この魔道具を使えば、目先の戦力がたとえ20000と言えども、殲滅することは可能だろう。
だが、よく聞いて欲しい。
防衛ラインの目的は、敵の殲滅ではない。あくまで敵を足止めし長期戦に持ち込むことが目的だ。
そのための魔道具の効果的な使い方を説明する。
何か意見はあるか?」
班長の1人が手を挙げる。
「殲滅できるのであれば殲滅した方が勝敗が早くついて負担が軽く済むと思うのですが?」
「そうだな、確かに短期間に見ればそうだろう。
だが、壊滅的な打撃を受けたスパニが、黙って引き下がるだろうか?
強国のプライドを傷付けられたスパニは、今度は本気で来るぞ。
そうなったら、こちらも総力戦になってしまう。
その隙にロンドーから攻められたらどうなる。」
「はっ、わたしが浅はかでした。
我が軍は窮地に立たされます。」
「そうだ。だが、ギリギリ撤退くらいにしておけばどうなる?」
「恐らく向こうの指揮官のプライドが傷つき、自分達だけで潰そうとしてくると思います。」
「そうだな。その程度であれば今の戦力で充分だろう。
何度か繰り返している間に、こちらは対ロンドーに向けた対策を取れる。」
「なるほど、カーン様ありがとうございます。良く理解できました。
相手を程よく刺激し、短い戦闘を繰り返し、戦闘期間が長引くように致します。」
先程の班長の質問のやり取りで、全ての指揮官が作戦の要諦を理解してくれたようだ。
その後、魔道具の使い方や攻撃のタイミング、加減を確認した。
そしてその1週間後、スパニの攻撃が始まった。
ルソン殿がヤコブ内の騒乱を治め、新しい族長になったと知らせが入った。
どうやら、うまくまとめることができたようだ。
ヤコブの戦力は総勢15000にも上るという。
その数は前族長の存命時と変わらない。
つまり、今回の騒乱をほとんど兵を失わずにしのいだということか。
ルソン殿からの伝令では、ヤコブ内の組織が固まり次第、兵をまとめて駆け付けてくれるとのことだ。
「カーン様、スパニが動き出したとスパニに出していた斥候から連絡がありました。」
「そうか、動き出したか。
マサル殿、スパニが動き出した模様です。
わたしはこれから防衛ラインに行こうと思います。」
近くでお茶を飲んでいたマサル殿に声を掛ける。
「カーン殿、スパニについてはどのような対応をされますか?
追い返すだけなのか? 戦力を極力減らすのか?」
「できれば、追い返すのみにしたいと考えています。
ただ、容易に攻め落とすことができないと思わせるだけの、抵抗はしたいと思いますが。
スパニは強大な国です。彼らは大きな敗戦をした場合、国の威信にかけて全力で潰しに来る恐れがあります。
追い返すくらいであれば、前線の指揮官の判断で時間を稼ぐことができると思います。」
「カーン殿、賢明な判断だと思います。
それであれば、防衛ラインに少し強力な攻撃魔道具を設置し、圧倒的な火力で1回の攻撃を、長期戦に持ち込まれないように対応しましょう。」
マサル殿はそう言うと、いくつかの魔道具を取り出す。
「これは、火炎放射の魔道具です。
およそ、50メートルの距離まで継続的に炎を噴射することができます。
こちらは、氷結の魔道具です。
半径50メートルの範囲の地面を凍らせ、近づくことが出来なくなります。
こちらは、雷雲の魔道具です。
雷雲を局所的に発生させ、半径100メートルの範囲に雷を継続的に落とします。
これらを使用することで、敵は防衛ラインにすら近づくことが出来ずに、短期で撤退せざるお得ないと思います。」
マサル殿の言葉に、唖然としてしまう。
「これほどまでに強力な魔道具があれば、殲滅も可能ではないのか。」
わたしのつぶやきにマサル殿が答える。
「局所戦闘では殲滅することが可能でしょう。
ただ、あくまで攻めてくる敵にのみ有効です。
スパニが、その強大な力を持ってこちらへの輸出入経路を抑えてきた場合どうしますか?
ヤライは干上がってしまい、長期戦を続けることが難しくなるのではないでしょうか?
ですから、『攻めあぐねている』という状況を作っておくのが当面は良いと思います。
その間にロンドーへの対抗策も採れます。」
「なるほど、前線の指揮官のプライドで戦線を硬直させるわけですな。
さすが英雄殿、力があるだけでなく、戦略の何たるかをよくご存じだ。」
「ではカーン殿、防衛ラインに行き、魔道具の設置と効果的な利用方法を前線の指揮官に説明いたしましょうか。」
こうしてわたし達は、防衛ラインに赴き、指揮官を集めたうえで戦略の説明を行った。
その後、防衛ラインでのスパニとの攻防は半年にわたり繰り広げられたが、それは次の手を打つための時間としては充分な時間となった。
<<防衛ライン指揮官長ラムス視点>>
スパニ侵攻の報を受け、防衛ラインの砦には緊張が走った。
守備兵2000に対し、スパニは20000の兵を動員しているという。
事前に、強固な防衛ラインが築かれているとはいえ、圧倒的な戦力差に砦の中では悲観論も出始めていた。
非常にまずい状況だ。
そんな時、カーン様とカトウ公爵様が砦に来られた。
「ラムス、防衛ラインの様子はどうだ。」
「はっ、カーン様。防衛ライン自体は強固さを維持しておりますので、何ら問題はありません。
ただ、圧倒的なスパニ軍の数を聞いた兵士の中に悲観論が出始めているのが問題です。」
「そうであろうな。スパニの残虐性と数の暴力は、これまでの他国への侵略を見ると確かに恐怖でしかないだろう。
兵が怖気づくのも無理はない。
ラムス、防衛ラインはスパニの足止めをするのが目的だ。
そのための魔道具をカトウ公爵からお借りした。
今から、その使い方と効果的な使い時を説明するので、各部隊の主だったものを集めてくれ。」
俺はすぐに、カーン様とカトウ公爵様の前に各班長を集めた。
「皆よく聞いてくれ。これから説明する攻撃用の魔道具は、非常に強力な武器となる。
この魔道具を使えば、目先の戦力がたとえ20000と言えども、殲滅することは可能だろう。
だが、よく聞いて欲しい。
防衛ラインの目的は、敵の殲滅ではない。あくまで敵を足止めし長期戦に持ち込むことが目的だ。
そのための魔道具の効果的な使い方を説明する。
何か意見はあるか?」
班長の1人が手を挙げる。
「殲滅できるのであれば殲滅した方が勝敗が早くついて負担が軽く済むと思うのですが?」
「そうだな、確かに短期間に見ればそうだろう。
だが、壊滅的な打撃を受けたスパニが、黙って引き下がるだろうか?
強国のプライドを傷付けられたスパニは、今度は本気で来るぞ。
そうなったら、こちらも総力戦になってしまう。
その隙にロンドーから攻められたらどうなる。」
「はっ、わたしが浅はかでした。
我が軍は窮地に立たされます。」
「そうだ。だが、ギリギリ撤退くらいにしておけばどうなる?」
「恐らく向こうの指揮官のプライドが傷つき、自分達だけで潰そうとしてくると思います。」
「そうだな。その程度であれば今の戦力で充分だろう。
何度か繰り返している間に、こちらは対ロンドーに向けた対策を取れる。」
「なるほど、カーン様ありがとうございます。良く理解できました。
相手を程よく刺激し、短い戦闘を繰り返し、戦闘期間が長引くように致します。」
先程の班長の質問のやり取りで、全ての指揮官が作戦の要諦を理解してくれたようだ。
その後、魔道具の使い方や攻撃のタイミング、加減を確認した。
そしてその1週間後、スパニの攻撃が始まった。
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