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第7章 研究室と亜人大陸

13 【ヤコブ族の諍い1】

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<<ルソン視点>>
わたしは40年振りにヤコブに戻って来た。

ヤライの独立から10年の時を経て、大国ロンドーの脅威が去ったのは、ヤライだけではなかった。

我がヤコブもまた、ヤライに駐留するロンドーの脅威に晒されていたのだった。

ヤライの独立はヤコブにとって大きな脅威を除くこととなったが、それは親父の後継争いの始まりでもあった。

親父は強い者を好んだ。
そして3人の息子は、小さな頃から強くなることを望まれた。

我々3人 は、別々の乳母に育てられ、そして乳母の実家が各々の後ろ立てになる。そして最初的に次期族長に選ばれた者の後ろ立てが次の権力者となるのだ。

兄と弟の後ろ立てとなった家は、ヤコブ族内の権力を得ようと必死だった。
兄も弟も自己顕示欲が強かったので、対立は凄まじいものであった。

反面、わたしの後ろ立てであるヤーマン家は、腕力ではなく財力にこだわった。
当然わたしも、財力を得るために必要な知識を身に付けた。

50年前のヤライの独立戦争の時にわたしの戦闘指揮を見た親父は、俺に跡を継がせようと考えていたと後に聞いたが、その頃から、わたしはジャボ大陸で商人として一旗あげようと考えていた。

戦争が終わりヤライが独立して10年、ようやくロンドーの脅威も無くなり、兄と弟の本格的な諍いが始まり出した頃、わたしは20名のヤコブ族の民と共にジャボ大陸に渡った。

ジャボ大陸に渡ってからは、一緒に渡った仲間達と共にサイカーの街を拠点に、貿易商を始めた。
商売は順調に規模を広げて、我々はエゴシャウという自治組織を作り上げて、サイカーにおける確固たる地位を築くことが出来た。

サイカーに来てからも定期的にヤーマン家には便りを出している。

ヤーマン家は、亜人大陸では有数の財閥ではあるが、ジャボ大陸と亜人大陸では、文明や商規模が雲泥の差だ。

ヤーマン家を発展させることが、わたしの亜人大陸における地位を作ることとなるので、ジャボ大陸で得た情報は、ヤーマン家と父に送っていたのだ。

ヤーマン家はわたしから入手した情報を元に亜人大陸でも有数の商家にのし上がった。
その力は数国の軍隊を動かせるほど絶大になっている。

ただ、ヤーマンの現当主ヒラは慎重な男だ。
裏で手を回しているようなことは一切表に出さず、兄も弟も全く気付いていない。

そればかりか、わたしが後継者争いを脱落したと思っている兄や弟は、このヤーマンの潤沢な資金を何とか自分達に利用できないかと画策しており、彼らの手の内はヒラに筒抜けになっている状態だ。

もちろん、わたしはヤーマンに入ってくる情報はほぼ入手しており、兄や弟の状況も把握している。

わたしは積極的に後継者になる気はない。むしろ、ジャボ大陸でこのまま商いを続けたいのが本音だ。

だが族長の息子として、今の内乱状態を放置するわけにはいかない。
もし、このまま放置すれば今度はヤコブがロンドー等の大国に支配される番だろう。


わたしは、ヤコブのヒラを訪ねた。

「これはルソン様、ご無沙汰いたしております。
こちらにお越しになるのは存じておりましたが、思ったよりもお早いお付きで驚きました。」

「ヒラ殿、ご無沙汰です。実はカトウ公爵に魔道具で転送してもらったのですよ。
内密にお願いしますね。」

「そうでしたか。手紙にありました救国の英雄様ですね。
一度お会いしたいものです。」

「今ヤライにおられるので、落ち着きましたらご紹介しますよ。」

「楽しみにいたしております。

ところで、兄上様や弟君のところには顔を出されましたか?」

「いえ、出していません。こんなに早く着くとは思っていないでしょうし、現状把握をするのが先決だと思いましたからな。」

「それは僥倖です。お二方共、現在戦力を集めておられます。
わたしのところにも軍資金を無心に来られていますが、双方共にのらりくらりと躱しています。

わたしの私見では、衝突も近いのではないでしょうか。」

「困ったものだ。ところで、双方を抑えるとして兵力はどの程度準備できますか?」

「およそ6000は。

現在の戦力は兄上様が1800や弟君1500ですから、双方を同時に相手しても勝てるだけの戦力を用意しております。

ただ、ヤコブの平定が終わるまで、ヤライが持つかどうかが心配です。」

「ヤライについては、カトウ公爵がスパニ対策として防衛ラインを構築されました。
まず、スパニに落とすことは不可能でしょう。
スパニが失敗すれば、ロンドーは十中八九動かないでしょうし。」

「そうでしたか。それならそちらは気にせず、ヤコブ族内に集中できます。」

「ヒラ殿、わたしは6000の兵を動かさずに平定したいと考えています。
兵による蹂躙は、ヤコブの国力をつぶすだけで何の益もありません。

できれば兄や弟が招集している兵もなるべく温存しておきたいと思います。
何かアイデアをお持ちじゃないですかな?」

わたしの質問にヒラ殿は薄笑いを浮かべる。

「ルソン様、もう既にお考えがあるのでしょう。わたしもいくつか考えておりますので、擦り合わせをいたしましょうか。」


わたし達は、そのまま地下室へと降りて行った。


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