143 / 382
第7章 研究室と亜人大陸
2 【シルビア先生】
しおりを挟む
<<シルビア視点>>
わたしの名はシルビア・ダッソン。
日夜新しい薬草の調査をし、薬の開発をするのが仕事だ。
アカデミーを卒業したわたしは、医学の道に進んだ。
もう40年近く昔の話しだ。
当時は大陸全体が混沌としており、細かな小競り合いが方々で起こっていたのだ。
国レベルで小競り合いとはいえ、そこで戦う人間から見れば戦争となんら変わりない。
当然、わたしが住んでいた街にも負傷者が溢れていた。
彼等を救ってあげたいという思いが、わたしを医学への道に導いたのだった。
当時のわたしにとって、医者になるのはそれほど難しいことではなかった。
基本的な学力や知識については、アカデミー卒業という経歴があれば問題なかった。
あとは現場で医者の弟子になり、ある程度経験を積めば医者と名乗ってもなんら問題ないのだ。
医者によっては、ろくすっぽ経験も積まず、適当な診察で法外な診療費を奪る、詐欺紛いの者が多かったのも事実だ。
そのため、医者=詐欺師と思っている人も多かった。
わたしは信頼できる師を得て、10年間修行を積んだ。
その間には、そこそこ名前も売れた医者になっていたようだ。
わたしの師は、各地の戦場を治療して回っていた。
軽傷な者、重傷な者、手足を欠損した者等怪我人が多い。
また戦場には怪我人だけでなく、その土地の風土病に罹る者や、僅かな傷が元で病を発症する者も多い。
戦場で様々な患者を無数に経験して感じたことは、『医者は無力である』ことだった。
当時の医者は、薬師が作る薬を効果的に投薬し、患者の容態を見守ることしか出来なかった。
確かに薬を的確に選定し、適切な用法で処方するためには、高度な知識と経験を必要とするため、医者の役割は重要なことは間違いない。
ただ、患者に合う薬があればの話しだ。
もしあったとしても、戦場に効果な薬を大量に持ち込むことは不可能で、時間が経てば効能の薄れるものも多い。
短時間に大量の投与が必要になるものもあり、現実的にあの膨大な患者全てに薬を投与することは出来ない。
また奇跡的に助かった患者がいても、その1週間後に彼が戦死して引き上げられてきた姿を見た時は絶望を感じたものだ。
わたしはその戦場を最後に、医者を辞める決心をした。
決して、人々を救いたい気持ちがなくなったわけではない。
むしろ、医者が少しでも多くの患者を救えるような薬の開発をしようと思ったのだ。
それからのわたしは、薬師に弟子入りし、日々山に入って薬草の採取と研究に没頭するようになった。
その後、薬師として独立したわたしは、山中に分け入り未知の薬草を探したり、その加工方法を研究した。
また医者時代に診た、様々な患者の症状を改善するための製薬の知識を資料としてまとめ、それまで薬師の経験でしかなかった薬草の作り方と効能を学問として成立させたのだ。
わたしが提唱した『薬学』は、多くの薬師や呪術師、神官達に批判されたが、幸いにも当時のアカデミー学長の信任を得ることができ、アカデミー内に薬学部ができることになった。
初代の教授はわたしが就任した。
やがて薬学を修めた学生が、優れた医者として認められるようになると、薬師や呪術師、神官達の反発も弱くなり薬学が徐々にではあるが世間に認められてきたのだ。
医者になるにはアカデミーで薬学を学ぶことが必須になるまでには、そう時間は掛からなかった。
王族に名を連ねる侯爵家の子息が、重篤な病に罹り、お抱えの医者がサジを投げた時に、薬学を修めた医者がその病から子息を救ったことがあった。
侯爵は感激し、医者には薬学が必須だということを王家を通じて公に広めてくれたのだ。
これにより、医者のレベルはある程度保証されるようになり、詐欺師呼ばわりされることも減っていった。
わたしは、教授として多くの学生を育成と共に、教育者の育成にも力を注いだ。
十数年が経過し、アカデミーでのわたしの役割もなくなったと感じられたので、わたしはアカデミーを辞して、再び薬草の研究に没頭することにしたのだった。
そして3年前に、ローバー君と旧ハーン帝国の山中にある鄙びた村で出会い、この研究会に参加したのだった。
わたしの名はシルビア・ダッソン。
日夜新しい薬草の調査をし、薬の開発をするのが仕事だ。
アカデミーを卒業したわたしは、医学の道に進んだ。
もう40年近く昔の話しだ。
当時は大陸全体が混沌としており、細かな小競り合いが方々で起こっていたのだ。
国レベルで小競り合いとはいえ、そこで戦う人間から見れば戦争となんら変わりない。
当然、わたしが住んでいた街にも負傷者が溢れていた。
彼等を救ってあげたいという思いが、わたしを医学への道に導いたのだった。
当時のわたしにとって、医者になるのはそれほど難しいことではなかった。
基本的な学力や知識については、アカデミー卒業という経歴があれば問題なかった。
あとは現場で医者の弟子になり、ある程度経験を積めば医者と名乗ってもなんら問題ないのだ。
医者によっては、ろくすっぽ経験も積まず、適当な診察で法外な診療費を奪る、詐欺紛いの者が多かったのも事実だ。
そのため、医者=詐欺師と思っている人も多かった。
わたしは信頼できる師を得て、10年間修行を積んだ。
その間には、そこそこ名前も売れた医者になっていたようだ。
わたしの師は、各地の戦場を治療して回っていた。
軽傷な者、重傷な者、手足を欠損した者等怪我人が多い。
また戦場には怪我人だけでなく、その土地の風土病に罹る者や、僅かな傷が元で病を発症する者も多い。
戦場で様々な患者を無数に経験して感じたことは、『医者は無力である』ことだった。
当時の医者は、薬師が作る薬を効果的に投薬し、患者の容態を見守ることしか出来なかった。
確かに薬を的確に選定し、適切な用法で処方するためには、高度な知識と経験を必要とするため、医者の役割は重要なことは間違いない。
ただ、患者に合う薬があればの話しだ。
もしあったとしても、戦場に効果な薬を大量に持ち込むことは不可能で、時間が経てば効能の薄れるものも多い。
短時間に大量の投与が必要になるものもあり、現実的にあの膨大な患者全てに薬を投与することは出来ない。
また奇跡的に助かった患者がいても、その1週間後に彼が戦死して引き上げられてきた姿を見た時は絶望を感じたものだ。
わたしはその戦場を最後に、医者を辞める決心をした。
決して、人々を救いたい気持ちがなくなったわけではない。
むしろ、医者が少しでも多くの患者を救えるような薬の開発をしようと思ったのだ。
それからのわたしは、薬師に弟子入りし、日々山に入って薬草の採取と研究に没頭するようになった。
その後、薬師として独立したわたしは、山中に分け入り未知の薬草を探したり、その加工方法を研究した。
また医者時代に診た、様々な患者の症状を改善するための製薬の知識を資料としてまとめ、それまで薬師の経験でしかなかった薬草の作り方と効能を学問として成立させたのだ。
わたしが提唱した『薬学』は、多くの薬師や呪術師、神官達に批判されたが、幸いにも当時のアカデミー学長の信任を得ることができ、アカデミー内に薬学部ができることになった。
初代の教授はわたしが就任した。
やがて薬学を修めた学生が、優れた医者として認められるようになると、薬師や呪術師、神官達の反発も弱くなり薬学が徐々にではあるが世間に認められてきたのだ。
医者になるにはアカデミーで薬学を学ぶことが必須になるまでには、そう時間は掛からなかった。
王族に名を連ねる侯爵家の子息が、重篤な病に罹り、お抱えの医者がサジを投げた時に、薬学を修めた医者がその病から子息を救ったことがあった。
侯爵は感激し、医者には薬学が必須だということを王家を通じて公に広めてくれたのだ。
これにより、医者のレベルはある程度保証されるようになり、詐欺師呼ばわりされることも減っていった。
わたしは、教授として多くの学生を育成と共に、教育者の育成にも力を注いだ。
十数年が経過し、アカデミーでのわたしの役割もなくなったと感じられたので、わたしはアカデミーを辞して、再び薬草の研究に没頭することにしたのだった。
そして3年前に、ローバー君と旧ハーン帝国の山中にある鄙びた村で出会い、この研究会に参加したのだった。
0
お気に入りに追加
329
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
前世は最悪だったのに神の世界に行ったら神々全員&転生先の家族から溺愛されて幸せ!?しかも最強➕契約した者、創られた者は過保護すぎ!他者も!?
a.m.
ファンタジー
主人公柳沢 尊(やなぎさわ たける)は最悪な人生だった・・耐えられず心が壊れ自殺してしまう。
気が付くと神の世界にいた。
そして目の前には、多数の神々いて「柳沢尊よ、幸せに出来なくてすまなかった転生の前に前の人生で壊れてしまった心を一緒に治そう」
そうして神々たちとの生活が始まるのだった...
もちろん転生もします
神の逆鱗は、尊を傷つけること。
神「我々の子、愛し子を傷つける者は何であろうと容赦しない!」
神々&転生先の家族から溺愛!
成長速度は遅いです。
じっくり成長させようと思います。
一年一年丁寧に書いていきます。
二年後等とはしません。
今のところ。
前世で味わえなかった幸せを!
家族との思い出を大切に。
現在転生後···· 0歳
1章物語の要点······神々との出会い
1章②物語の要点······家族&神々の愛情
現在1章③物語の要点······?
想像力が9/25日から爆発しまして増えたための変えました。
学校編&冒険編はもう少し進んでから
―――編、―――編―――編まだまだ色んなのを書く予定―――は秘密
処女作なのでお手柔らかにお願いします。文章を書くのが下手なので誤字脱字や比例していたらコメントに書いていただけたらすぐに直しますのでお願いします。(背景などの細かいところはまだ全く書けないのですいません。)主人公以外の目線は、お気に入り100になり次第別に書きますのでそちらの方もよろしくお願いします。(詳細は200)
感想お願いいたします。
❕只今話を繋げ中なためしおりの方は注意❕
目線、詳細は本編の間に入れました
2020年9月毎日投稿予定(何もなければ)
頑張ります
(心の中で読んでくださる皆さんに物語の何か案があれば教えてほしい~~🙏)と思ってしまいました。人物、魔物、物語の流れなど何でも、皆さんの理想に追いつくために!
旧 転生したら最強だったし幸せだった
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。
前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。
神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。
どうやら、食料事情がよくないらしい。
俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと!
そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。
これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。
しかし、それが意味するところは……。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる